DVD 「ストレスの不思議」の要約 その22015年02月17日 10:36

○社会階層の影響

 イギリス サー・マイケル・マーモット教授が、40年以上で28,000人を超える人々の健康状態を追跡調査してきた。ホワイト・ホールにあるイギリスの官庁では、厳然たる職場の地位が存在している。職場での地位とストレスの関連を調べるには、理想的な環境。
 法律専門の公務員として働き、職場での地位は低く、部署内でのステータスは高くない従属的な生活をしている男性は、「ストレスには、急性と慢性があるが、組織に馴染めない私は、慢性的なストレスにさらされてきたといえるでしょう。」と語る。
 一方、同じ公務員でも高い地位についている女性は、「部署の中では160人ほどの部下を抱えています。職場は活気に満ちているし、この仕事は非常にやりがいのあるものです。私は大勢の人と働くのが好きなんです。自分の仕事を楽しんでいます。」と語る。
 仕事に対する二人の対照的な見解は、驚くべき調査結果と結びついた。
 調査の結果、地位が下になればなるほど、心臓疾患などのリスクが高まることが分かった。ナンバーワンの人間より、ナンバーツー。ナンバーツーよりナンバースリーの人間のほうが、リスクが高いということ。この傾向は、最下層まで続く。公務員という安定した仕事に就いているにもかかわらず、職場における地位が、病気にかかるリスクや寿命と非常に緊密に関連していた。

 これは、ストレスの謎を解き明かす鍵となる研究だった。
 調査対象である公務員が受ける医療は平等で、環境としてはヒヒと同じ。ヒヒは皆同じ餌を食べ、活動レベルにも差がない。低い順位に位置するヒヒが、暴飲暴食をする訳ではないし、地位の低い職員がワクチンの接種を拒否されることもない。この2つの研究で示された結果は、全く同一のものだった。
 ヒヒも公務員も実に息苦しい生活を送り、生命に関わる結果を招く。職場での地位が低い公務員も、不安に怯える順位の低いヒヒも、自分より更に下の階級に位置する者を威圧し、力を誇示して威張り散らす結果となる。

 サボルフスキーは毎年、各階層のヒヒについて、ストレスに対する反応とその回復状況を調べてきた。アドレナリンを投与し、体がどのように反応するかをみる。反応はすぐに血液に表れる。それを採取し、冷凍保存する。30年間集めてきたこれらの血液サンプルは、知識の宝庫となる可能性を秘めている。この中から、新たなホルモンが発見されるかもしれない。

○病気を誘因

 ストレスが長きに渡って与える影響の大きさが認識されたのは、近年のこと。
 その昔、ストレスが引き起こす病気といえば、胃潰瘍ひとつしかなかった。しかし、1980年代初頭オーストラリアの研究者が、潰瘍の原因となる細菌・ピロリ菌を発見した。胃潰瘍は薬で治癒することが出来る病気となった。そしてこの大発見により、ストレスと胃潰瘍の関連は断ち切られたかに見えた。
 しかし、数年後さらなる研究で、このピロリ菌が特殊なものではないことが発覚する。世界人口のおよそ3分の2もの人々が、ピロリ菌を持っているということが分かった。

 では何故、一部の人だけが胃潰瘍を発症するのか? その原因にはやはり、ストレスが一役かっていた。
 ストレスを受けると免疫系などの重要性の低い機能は抑制される。免疫機能が低下すると、胃の中の細菌が一斉に暴れだす。ストレスは、細菌によって蝕まれた胃壁を修復しようとする体の治癒力を一掃してしまう。ストレスが体の治癒力を阻害し、胃潰瘍を引き起こす事が分かった。

 ストレスは、免疫機能低下以外にどんなダメージをもたらすのか?
 ノースカロライナ州 サル園 キャロル・シャイブリー博士は、20年間に亘りカニクイザルの動脈を研究。
 「ストレスは夜中に寝付けなかったり、子どもに当たり散らしたりする症状を引き起こすものだと考えられがちですが、私に言わせればストレスとは、動脈の中に出来た大きなプラークに他ならない。」
 ヒヒやイギリスの公務員同様、カニクイザルも階層社会を形成し、互いにストレスを掛け合っている。
 ストレスホルモンは、動悸や血圧上昇など循環器系の機能にも深刻な影響を与える。群れの順位に応じて、ストレスの大きさが変わるのなら、ボスザルと順位の低いサルでは何らかの違いが見られるはず。
 調査の結果、ほとんどストレスを受けたことがない順位の高いオスの動脈には、変異が見られなかった。しかし、順位の低いオスの動脈には、動脈硬化症が数多く見受けられた。
 ストレスによるホルモンの大量分泌で、血圧が上昇し、傷ついた動脈の内側にプラークが蓄積された。この状態で恐怖を感じると、動脈が拡張せず、心筋に十分な血液が送られないため、心臓発作を起こしかねない。

 ストレスは、抽象的な概念ではない。しかも今すぐに手を打たなければならないもの。先延ばしにしてはならない。今日のストレスは、明日にも自分の健康に影響をおよぼすかもしれないのだから。社会的、心理的なストレスは動脈を詰まらせて、血液の流れを悪くし、心臓の機能を危険に晒す可能性を持っている。
 しかし、ストレスの恐ろしさは、これだけに留まらない。

つづく。じゃんじゃん。