産業衛生学会の報告 その32015年06月23日 10:48

 さて、産業衛生学会の続きです。

 シンポジウム12「職場のがん対策とガン罹患就労者への支援ー産業保健の役割を考えるー」に参加しました。

 開始にあたり、座長は、「がんは退職後に発病することも多いが、早期発見が治療し治癒するためには重要であり、潜伏期間が長いので就労期間からがん検診をしなければ早期発見はおぼつかない。しかし、がん検診は定期健診の項目に含まれず、現状では保健サービスである。したがって受診率は50%くらいしかない。一方、就労中にがんを発症する場合や、治癒率の向上から罹患後に就労することも増えていることから、がん患者の就労支援は産業保健の重要課題である」との趣旨説明がありました。

 全くその通りで、今回(5月19日)の全道セイフティネットワーク集会のテーマにしたのもこの観点からで、ベテランが職場を離れるダメージがそれぞれの職場でじわじわと出ているだろうからです。

 次に登場したのは、厚労省の健康増進課です。
 がんと職場の現状について、がん罹患者のうち32万人が就労しているが、一方で罹患者全体の34%が退職している。また患者からの相談で一番多いのは、経済的なことで、次が仕事との両立であると。
 政府の政策としては、H18年にがん対策基本法ができ、基本計画は5年ごとの見直しで、H24年に第2期計画が立てられ、
<小児がん> 5年以内に、小児がん拠点病院を整備し、小児がんの中核的な機関の整備を開始する。
<がんの教育・普及啓発> 子どもに対するがん教育のあり方を検討し、健康教育の中でがん教育を推進する。
<がん患者の就労を含めた社会的な問題> 就労に関するニーズや課題を明らかにした上で、職場における理解の促進、相談支援体制の充実を通じて、がんになっても安心して働き暮らせる社会の構築を目指す。

の3点が新しく盛り込まれたこと。

 H25年から「就労継続事例集」や「両立支援モデル」などによる啓発や、ハローワークに専門相談員の配置と就労支援事業(トライアルなど)に取り組んでいるが、日常の相談からは、

① 病状を伝えにくい→「今の自分にできること」として伝える。
② 就労継続できると考えていない→両立できる。土日診療の普及も必要。
③ 私傷病である→就労と関わるのであれば、産業保健スタッフと主治医の連携も必要→就業上の配慮を求める。
 などの対策がなされているものの、相談先を知らない例が多くあり、周知活動も重要であると。

 次に大阪大学の祖父江先生が、「職域のがん検診は組織化されておらず、したがって40代・50代の受診率も不明である。がん対策基本計画の目標は「75才未満のがん死亡率20%ダウン」となっているが、そのためには、4~50才の年齢幅のがん検診受診が重要となる。市町村国保のがん検診と、職場がん検診を連携させていくべきだ。1982年から92年までは国ががん対策を行っていたが、それ以降は市町村に振り分けられた。H28年から全国のがん登録が始まるが、これに期待される。」

 また、パナソニック産業医の西田先生は、「がん検診は、対策型(住民検診)と任意型(職場などの人間ドック)があるが、今のところこの連携がなく、したがって、精度管理もできにくい現状にある。今後、職場の安定や医療費抑制を考えるのであれば、対策型検診を中心に据え、精度管理とマクロの統計は必須と考えられる。実際、企業内でがん検診をしてみても、その得られたデータがどれだけ重要であるかとか、精度に問題がないかなど判断基準がないので困っている。」

 最後に産業医大の立石先生は、「がんは「ある日突然」やってくるが、その治療は急速に進歩しており、QOLについても重視されるようになってきた。必然的に生活や就労に制限の少ない患者が増えているが、社会的なサポート体制は法的整備を含め弱い。がん検診は確かにコストが企業側にかかるが、企業としては、人材の確保や信頼の醸成という利益があるし、患者本人にとっても、パフォーマンスの低下による自分の心理的な低下をある程度軽減する効果は期待できるだろう。産業保健としては、就業上の配慮の面で、賃金の減少や休みがちになる事への周囲の目などを按配しながら、合理的配慮を進めていくことになるだろう。そのための管理者の理解や柔軟な就労を是認するルールを作る必要がある。」

 ということでした。

 このあと会場のやり取りがあったはずですが、ちょうど労働科学研究所のY先生と連絡が取れて会場近くでお会いすることになってしまい、残念ながら聞きそびれました。

 このシンポで学んだことは、当センターの「第20回全道セイフティネットワーク集会」に直接の反映はできませんでしたが、取り組み方向を確認することはできました。

 めでたし。じゃんじゃん。

あなたは、ガンを知っていますか? その52015年01月07日 10:12

緩和ケアは治療の最初から

ガンは消えても患者さんは

 わが国では、ガンの患者さんも治療にあたる医師も、ともかくガンを治すことだけを考えてきました。完治はもう無理とわかっていても、亡くなる前の日まで抗ガン剤を使ったりするのです。

 こんな例がありました。直腸ガンの手術後に、肝臓の転移が見つかった患者さんのケースです。ずっと強い抗ガン剤の治療を受けていて、結局は副作用で白血球が減り、感染症で亡くなりました。
 解剖をしたときに担当医が患者さんの奥さんに満足そうに「よかった、抗ガン剤は効いていました。肝臓のガンは消えています」と言ったというのです。
 ガンは消えても治療で患者さんは亡くなっている、本末転倒です。

治癒率より大切なこと

 ガンの治癒率(5年生存率)は、おおよそ5割くらいです。治療の進歩にもかかわらず、いまだに半数近くの方が命を落としています。しかし、ガンで亡くなる患者さんを支える医療が、日本では十分に行われているとはいえません。
 これまでの日本のガン治療の現場は、治癒率を少しでも高くすることにだけ力を注いできました。まさに、勝ち負け重視の医療です。
 しかし、死に直面し、からだや心に痛みを抱えている患者さんにこそ、最高の医療が提供きれてしかるべきでしょう。これこそが、「医の原点」であるはずです。

緩和ケアという考え方

 欧米では、治癒できないガンや痛みなどの症状を持つ患者さんの、さまざまな苦しみを和らげることを主眼として、緩和ケアの考え方が確立されています。
 これは、中世ヨーロッパにおいて、キリスト教の精神から、巡礼者、病人、貧窮者を救済したhospitium(ホテル、ホスピタル、ホスピスの語源)に起源を持ち、痛みなどのカラダの苦痛への対処、死の不安などの精神的苦痛への対処、遺族への対処などを行います。
 一方、日本はガン治療の後進国ですが、緩和ケアはさらに遅れているのが実情です。ガンの痛みを和らげることは、緩和ケアのいちばん大事な役割ですが、その主流は、モルヒネあるいは類似の薬物をクスリとして飲む方法です。
 モルヒネと聞くと、薬物中毒など悪いイメージ、があるようですが、くちから飲んだり、皮膚に貼ったり、ゆっくり注射したりする分には安全な方法です。
 このモルヒネの使用量が、日本はカナダ、オーストラリアの約7分の1、アメリカ、フランスの約4分の1程度と、先進国のなかで最低レベルです。
 モルヒネとその関連薬物である、オピオイド(医療用麻薬)全体について言えば、日本は米国のなんと20分の1程度で、世界平均以下の使用量です。医療用の麻薬の使用量は、その国の文化的成熟度に比例すると言われていますので、大変残念な数字です。
 しかし、麻薬を使わない分、日本のガン患者さんは激しい痛みに耐えているのです。実際、日本では、ガンで亡くなる方の8割、つまり日本人全体の実に4人に1人が、ガンの激痛に苦しむと言われています。
 この理由には、「麻薬を使うと中毒になる、寿命が短くなる、だんだん効かなくなる・・」などの迷信があるようですが、全く根拠はありません。

人生の仕上げのために

 ある患者さん(会社経営者)は肺ガンの全身への転移がみつかり、ご本人の希望で「余命は約3カ月程度」と告知しました。骨の転移によって激痛がありましたので、モルヒネの飲み薬を勧めたのですが、「麻薬はカラダに悪いし、命が縮まる」と拒否されたのです。頭の中では死を理解しても、ココロでは受け入れられなかったのだと思います。しかし、激しい痛みのため、会社の整理はうまくいかなかったと聞きました。
 現実にはモルヒネなどの麻薬系の薬を飲んでも、中毒などは起こりません。それどころか、モルヒネなどを適切に使って痛みがとれた患者さんの方が長生きする傾向があるのです。
 これは、食事もとれ、睡眠も確保できますので、当然といえば当然で、激痛のある末期の膵臓ガン患者さんを対象とした無作為比較試験でも実証されています。
 日本人は、痛みをとることを拒否し、結果的に激しい痛みに苦しんで、人生の仕上げができないばかりか、生きている時間の長さでも損をしているのです。

 別のケースもあります。ある乳ガンの方は外資系のキャリアウーマンで、30歳代半ばで亡くなりましたが、完治しないということをお話ししました。抗ガン剤療法について、それはどれくらい延命できるのか、どれくらい肉体的に負担があるのと聞かれて、結局、抗ガン剤は何も使わないという選択をされました。
 脳の転移だけは、放射線治療で治して、後は旅行に行かれたり、好きなワインを飲まれたり、生活をエンジョイされました。そして最後は、ある意味、思い描くような死を受け入れておられました。
 まさに、彼女の死は、彼女自身によって飼い慣らされていったようでした。すてきな死だった、と今でも思い出すことがあります。
 ガンの治療のうち、放射線は一番副作用が少ないので、末期ガンにも使えます。体調の悪い末期ガン患者にも使えるほど、放射線はカラダへの負担が少ない、ということです。脳や脊髄に転移して麻痺が出た時に、放射線を転移部位にかけるとその麻痺がとれます。

 ガンが完治するわけではありませんが、症状の進行を防ぎ、生活の質=「QOL=クオリティ・オブ・ライフ」を高めることにつながります。
 このように、末期でもガンの治療が必要になることもありますが、他方、早期ガンでも緩和ケアが必要な局面があります。告知を受けて痛んだ心にはケアが必要です。
 ガンの治療とガンのケアは対立するものではありません。治療とケアはともに必要で、病状によってウェイト(比重)が変わってくるだけなのです。ガンの治療とケアのバランスをとれるのが、「名医」の条件だと思います。

知っておくべきことがら

 日本人が、ガンについて知るべき事柄はそうそう多いわけではありません。この冊子に書いであることで十分です。要約すると次のようになります。

1.ガンは、DNAがキズついておこる、一種の老化。
2.日本は「世界一の長寿国=世界一のガン大国」。
3.ガンは、できる臓器によって治療手段も治癒率もちがう。
4.ガン治療の3つの柱は、手術・放射線治療・抗ガン剤。ガンの完治には、手術か、放射線治療が必要。
5.日本では、ガン治療=手術だが、多くのガンで、放射線治療も同じ治癒率。
6.ガンの種類が、胃ガン、子宮頸ガン、肝臓ガンなどの感染症型のガンから、肺ガン、乳ガン、前立腺ガン、大腸ガンなどの、欧米型のガンにシフト(変化)している。
7.欧米型の多くのガンでは、放射線治療が大事。セカンドオピニオンは放射線治療へ。
8.転移したガンの治癒は難しいが、緩和ケアが有効。
9.治療とケアのバランスが大事。痛みはとった方が長生きもする。

 ということで、がんについての報告は終わります。
 これをまとめているうちに、一つの大きな疑問が生まれました。
 それは、「人は死ぬのに、なぜ生きるのだろう」と言うことです。
 人の死は100%。これほど「絶対」はありません。弘法大師がいまもって高野山奥の院で祈り続けているといわれている以外に、「死なない人」を歴史は認識していません。
 不老不死は時の権力者が追い求め続けたものですが、成功した権力者はいません。
 「こうしたらいいよ」とか「こう考えたら?」という答えがあれば教えてください。もし何かの宗教の中にそれがあるのであれば、詳しく調べてみたいと思います。
 私も、もし、見つけられたら、お知らせします。

 いつの日か、皆さんに安らかな人生の終末が訪れますように。
 じゃんじゃん。

あなたは、ガンを知っていますか? その42015年01月06日 15:07

ガンとどうつきあうか?ガン治療の基本

ガン細胞の誕生と転移、そして治療の可能性

 おさらいをしておきましょう。ガンは、ある臓器にできた、たった1つの異常な不死細胞が、免疫の攻撃をかいくぐって生き残った結果できるものです。
 この細砲がつぎつぎと自分と同じ不死細胞をコピーしていき、どんどん大きくなります。ただし、実際に検査でわかるような「ガン」になるまでには10~30年かかることが普通です。
 ガンは、自分が生まれた臓器から栄養を奪い取って成長しますが、やがて住処(すみか)が手狭になると新天地をもとめて移動したがります。これを水際で捕える「関所」のようなものがリンパ腺(リンパ節)です。
 さらに、ガン細胞の中には血液のなかに泳ぎだして、新大陸である別の臓器をめざす不埒者もいます。 こうなると治癒はむずかしくなります。まだ血液の海を渡って他の臓器に転移していない状態、つまりリンパ腺にとどまっている場合であれば、治癒の可能性は残ります。

鳥かごと鳥

 ガンは、限られた栄養を、正常細胞とガン細胞とが奪い合う一種の「椅子とりグーム」のようなものです。ただ、ふつうの椅子とりゲームとちがって、ガン細胞の数がそんどん増えていくので、ゲームを続ければ続けるほど、正常細胞にとって椅子の確保がむずかしくなる。
 しかし、ゲームのルールは単純ですから、ガンは物理的・数学的にとらえることができる。つまり、物理法則に相当する「公式」が成り立つのです。
 その公式の一つとして、転移してしまったガンは、大腸ガンの肝臓転移(本当の意味での全身転移とはいえません)など一部例外はあるものの、基本的に治癒しにくいという点があげられます。
 血液のなかにガン細胞が流れ込んで、他の臓器に転移するわけですから、ーカ所にだけ転移することはまれです。植民地を世界中に作って、五大陸に進出していった、かつての西洋諸国と同じです。

 ガンの転移があれば、その際の治療は、全身にばらまかれたガン細胞に対するものになりますから、全身的な治療、つまり抗ガン剤が治療の中心になります。
 しかし、残念ながら、強い抗ガン剤を使ってもガンが完治する可能性は低く、治療の目的は延命となります。
 これを「鳥かごと鳥」にたとえてみます。
 早期のガンの治療は、鳥かごの中の鳥を捕まえるようなもので、比較的簡単です。
 リンパ腺にまで転移したようなある程度進行したガンは、鳥が鳥かごから出て、部屋の中を飛び回っている状態です。鳥かごに入っているときよりは大変ですが、がんばれば捕まえられるでしょう。
 転移したガンは、鳥が部屋の窓から外に出て行ったようなもの。鳥を捕まえることはむずかしくなります。
 それでも、たまたま鳥が部屋に入ってくる可能性はゼロではありません。気がついたら、鳥が自分からかごのなかに入っていることだってあり得なくはないでしよう。これが、末期ガンからの「奇跡の生還」です。

 ガンが治るかどうかは、最終的には確率的なものですので、奇跡はつねに起こり得る。その意味で、大逆転の希望はいつも失われませんが、それでも外に出て行った鳥がかごに戻ってくるような奇跡は、望んで得られるものではありません。転移したガンはこれと同じで、治らない確率が高い状態、というのが正確な表現です。

ガン治療の3つの基本
 -手術・放射線治療・化学療法

 さて、現代医学において、ガンの治療として、はっきりと効果が証明されているのは、手術・放射線治療・化学療法の3つです。
①【手術】は、ある臓器にとどまっているガンとまわりのリンパ腺をメスで切り取ってしまう治療法です。ガンの組織だけを切ろうとするとガン組織を取り残す心配がありますので、普通はガン組織のまわりの正常な組織も含めて切除します。ガン細胞を完全に切除できれば、ガンは完治することになります。たとえば早期の胃ガンで転移がない場合は、手術療法でまず100%治すことができます。ただし、切り取った部分以外にもガン細胞か存在すれば、再発の可能性が残ります。

②【放射線治療】は、臓器にできたガンにだけ、あるいは、予防的にそのまわりのリンパ腺などをふくめて放射線をかける治療です。ある決まった範囲(数ミリ程度の場合もあります)にだけ影響を与えるので、手術と同じ局所治療です。

③【化学療法=抗ガン剤治療】は、抗ガン剤などの化学物質を点滴や飲み薬の形で投与するもので、化学物質が全身に行き渡る点で、手術や放射線治療と異なります。全身に転移がある状況では、(手術や放射線治療などの)局所治療ではダメですので、理屈の上では唯一効果のある治療法です。
 しかし、ほとんどのガンで完治するためには、局所治療である手術か放射線治療か、どちらかが必要なのです。逆に言えば、化学療法だげで治るガンはまずありません。

クルマ選びとガン治癒

 手術・放射線治療・化学療法のうち、日本ではなんといっても手術がガン治療の代名詞でした。
 医師に「ガンです」と告知されると、次は「先生、切れるのでしょうか?」というのがおきまりの台詞だったのです。そして、切れれば大丈夫、切れなければ絶望、というのがこれまでのガン患者さんのお気持ちでした。
 しかし、これは日本独特の風習にすぎません。欧米では、自分のガンをいかに楽に、安く、的確に治療するのがよいか、患者さんが主体的に考えるのです。

 特別なことではありません。クルマ選びと同じです。クルマを買うときには、いろいろなカタログを集めて比較するものです。セールスマンが「このクルマがいいから買いなさい」などと言ったらどうでしょう。きっと「オレのクルマなんだから、オレが決める!」と腹が立つはずです。ガンも同じ。ガン治療は自分で選ぶ時代、が来ています。

ガンは千差万別

ガンにもいろいろある

 「ガン」は1つひとつ違います。ガンと言っても千差万別なのです。「ガン」という言葉は、ガンが、結核・エイズ・心筋梗塞などと同じ、一つの病気であるという誤解を与えます。
 しかし、ガンは千差万別で、治癒率が99%のガンも、0%に近いガンも存在します。どちらも同じく「ガン」と呼ばれますが、患者さんの立場からすれば、とても同じ病気にはみえないはずです。
 ガンはDNAのコピーミスが原因ですので、ひとつとして同じガンは存在しないのです。しかも、ガン細胞は、どんどん突然変異をくりかえして性質が変わっていきます。ですから、すべてのガンはそれぞれに違った、「世界に1つだけの」病気なのです。
 しかし、どの臓器からできたものかによって、ガンの性質はおおよそ決まります。たとえば、タチの悪さで言えば、①膵臓ガン、②肝臓ガン、③肺ガン、④乳ガン、⑤前立腺ガン、⑥甲状腺ガンの順で、番号が小さいほどより悪質です。

ガンの完治は定義できない

 さて、驚かれるかもしれませんが、実はガンの「完治」にはっきりした定義はありません。
 結核や肝炎などの感染症であれば、細菌やワイルスがカラダのなかから消えれば完治を意味します。
 しかし、ガンの場合には、なにせ(だれのカラダの中にも)毎日5000個ものガン細胞が新たに発生していることもあって、ガン細胞がカラダから完全になくなることはありません。乳ガンや前立腺ガンなどでは、治療後20年以上経ってガンが再発することもあるのです。この場合、過去に治療を行った同じガン細胞が再発するわけですが、カラダのどこに潜んでいるのかよくわかっていません。

 しかし普通は、治療後5年間再発しなければ、まず大丈夫だろうと考えて、5年生存率(ガン治療から5年経った時点で患者さんが生きている確率)を治癒率として使っているのです。ただし、乳ガンや前立腺ガンでは、10年生存率をもって治癒率と考えることが一般的。
 繰り返しますが、ガンが完治したと100%断言することは不可能です。ガンの治癒とは、「再発しない確率が非常に高くなった状態」と考えるしかありません。

検診に向くガン、向かないガン

 ガンは、一まとめにできない病気ですので、早期発見・早期治療がすべてではありませんし、検診が常に有効とも言えません。
 たとえば、90歳の男性が検診で「早期」の前立腺ガンを発見して手術を受けたとしましょう。早期の前立腺ガンが実際に症状を出すには、30年以上かかると言われますので、この患者さんの場合、治療をせず様子を見るのが賢明です。検診がマイナスに作用する例です。
 一方、膵臓ガンのような進行の早いガンを検診で見つけるには、毎月検診を受ける必要があります。検診に向いているガンはそれほど多くないのです。
 しかし、大腸ガン・子宮頸ガン・乳ガンは検診の有効性が国際的に証明されていて、受けないのは損です(乳ガンの場合は触診だけでなく、マンモグラフィーという乳ガン専用のレントゲン検査が必要です)。
 検診の有効性がはっきりしているガンなのに、受診率が低い。これは残念です。「検診向き」、つまり検診を受けることが有効なガンの受診率を上げる必要があります。

告知されたら

 さて、ガンと告知されたときの心構えは、まず情報を集めること。「即入院・即手術」などと言われても、医師に病状などメモを書いてもらい、一度家に帰ることです。

 実際、たった1つの細胞から始まって、数センチのガンに育つまでには、10年、20年以上の年月がかかる。あわてる必要はありません。じっくり情報を集めて、正しい戦略を立てるべきです。その上で、別の医師からも話を聞く「セカンド・オピニオン」をお勧めします。

 すでにご説明したように、ガンを完治させるには、手術か放射線治療が必要です。多くの患者さんは外科で診断を受けるでしょうから、セカンド・オピニオンの相手は、放射線治療の専門医が最適だと思います。

 最後に、インターネットについて。便利で手軽ではありますが、金銭目的のサイトもあり、注意が必要です。その点、以下のガン情報サイトは信頼できますので、ぜひ参照し、うまく利用されるとよいと思います。

▲国立ガンセンター「ガン情報サービス」
http://ganjoho.jp/public/index.html

▲癌研有明病院「ガン・医療サポートに関するご相談」
http://www.jfcr.or.jp/hospital/conference/cancer/index.html

▲ガン情報サイト
http://cancerinfo.tri-kobe.org/


放射線の効用

 放射線治療の特長は、ガンを切らずに治し、臓器の機能や美容を保つ点にあります。例えば喉頭ガンは、手術でも放射線治療でも治癒率は変わりませんが、選択されるのは放射線治療です。手術をすれば声を失うからです。
 乳ガンは、かつて乳房とその下の筋肉を根こそぎ切り取る手術が主流でした。しかし今は、腫瘍の周辺だけをえぐって取り、乳房全体に放射線をかける「乳房温存療法」が主流です。
 直腸ガンが肛門の近くにできると、手術後に人工肛門となる可能性がありますが、手術前に放射線をかけることで、その可能性を減らすこともできます。
 喉頭ガンや直腸ガンは臓器の機能を温存する治療例、乳房温存療法は美容を保つ治療例です。
 放射線治療は、多くの場合、1ヶ月程度の通院ですが、一回の治療は数分で、患部の温度は2000分の1度くらいしか上がりません。なぜ2000分の1度というわずかなエネルギーでガンが消えるのでしょうか?このわずかなエネルギーでもガンのDNA(遺伝子の本体)が切断されるため、ガン細胞の分裂と増殖がうまくいかなくなるのです。

 また、免疫のしくみが、ガン細胞を異物(敵)として認識できるようになることも大きい効果です。このため、ガンが免疫細胞に攻撃されてしまう。放射線は「一種の免疫療法」という側面もあるのです。
 また、放射線治療では、ガンに放射線をできるだけ集中することが大事です。仮に、完全にガン病巣部にだけかけることができ、周りの正常の細胞には放射線が全く当たらないようにできれば、放射線を無限にかけることができ、100%ガンは治ることになります。
 こうした発想はかつては机上の空論でしたが、現在ではけっして夢物語ではなくなってきています。

 なんとも、気軽に話ができなくなったようですが、心を鬼にして、知識普及に努めます。
 なお、5月に全道セイフティーネットワーク集会を開催する予定で、そこでは、メンタルと脳心臓疾患、がんなどの疾病とどう付き合うかや、その人が働く職場での対応などについて、考えたいと思います。
 ちょっと緊張して、じゃんじゃん。

あなたは、ガンを知っていますか? その32015年01月05日 14:28

新年あけましておめでとうございます。
良い年末年始であったでしょうか。

さぁ、それでは、恐ろしいガンの続きをはじめます。


ガンって、何?

毎日5000回も起きている

 細砲が分裂するときには、元のDNAを2倍にコピーして、新しい2つの細胞に振り分けます。人間(の細胞)がやることですから、コピーのときにミスがおこることがあります。これ、が突然変異です。
 こうした細胞は多くの場合、死にますが、ある遺伝子に突然変異がおこると、細胞は止めどもなく分裂を繰り返すことになります。
 最近の研究では、ガン細胞は健康な人の体でも一日に5000個も発生しては消えていくことがわかっています。
 ガン細胞ができるとそのつど退治しているのが免疫細胞(リンパ球)です。免疫細胞は、ある細胞を見つけると、まず自分の(身体の)細胞かどうかを見極めます。そして、自分の細胞でないと判断すると、殺してしまいます。
 ガン細胞は、もともと私たちの正常な細胞から発生していますので、カラダの外から侵入する細菌などと比べると、免疫細胞にとって「キケンな異物」と認識できない傾向がある、と言われます。それでも免疫細胞は、できたばかりのガン細胞を攻撃して死滅させます。私たちのカラダのなかでは、毎日毎日、「5000勝0敗」の闘いが繰り返されているのです。

ガンになるのも運、ならないのも運

 しかし、年齢を重ねると、DNAのキズが積み重なってガン細胞の発生が増える一方で、免疫細胞の機能(免疫力)が落ちてきます。そのため、ガン細胞に対する攻撃力が落ちる結果、発生したガンが免疫の網をかいくぐって成長する確率も増えるのです。
 長生きするとガンが増えるのは、突然変異が蓄積されるのと、免疫細胞の働きが衰えるからなのです。ガンが老化の一種といわれるのはそのためです。ガンは、一部の例外を除き遺伝しません。(例外は家族性腫瘍)。むしろ「ガンになる、ならない」は運の要素が大きい。

 目には見えない壮絶な隣いを勝ち抜いて、ひっそりと生き残ったたった1つのガン細胞は、分裂した後の子孫の細胞がすべて死なない「スーパー細胞」です。
 ガン細胞はゆっくりと倍々グームで分裂を重ねていき、100万個(すべてが同じ細胞!)まで増殖すると1ミリくらいの大きさになります。検査によって発見されるまで育つには、通常10~20年以上の時間が必要です。
 これが、ガンが高齢の方に多いもう1つの理由。その意味では、ガンは昨日今日できたものではありませんから、ガンと診断されてもあわてる必要はないのです。
 社会や医療環境が良くなって寿命が長くなれば、それだげガンが増える、これはやむを得ない定めです。
 ガンになってもあわてないように人生をとらえ、過ごす必要があるのです。

ガンは、生活習慣病

生活習慣とがん

 ガンは、細胞のDNAにキズ(突然変異)が積み重なってできます。この突然変異は、年齢とともに自然に増えていくもので、白髪やしわのようなもの。ここまでにはすでに述べました。しかし、どんなガンができやすいかは、生活習慣にも左右されます。たとえば、乳ガンや前立腺ガンが増えているのは、動物性の脂肪を多く摂るようになったことが背景にあります。

冷蔵庫で胃ガンが減少

 これまで日本では、胃ガン・子宮頸ガン、肝臓ガンなど、ウイルスや細菌による感染が原因となる「アジア型」のガンが多かったのですが、衛生環境の改善などで、こうした感染症型のガンによる死亡は減少に転じています。胃ガンは、ヘリコバクター・ピロリ菌などの細菌が原因の一つですから、冷蔵庫が普及して新鮮で清潔な食物を口にするようになって減りました。実際にアメリカでも、1930年ごろは、胃ガンがガン死亡のトップでした。日本より先に冷蔵庫が普及した結果、今では胃ガンは白血病より少ない、珍しいガンになっているのです。

ウイルスで感染するガン

 子宮頸がん(子宮の出口の部分にできるガン)は性交渉にともなう「ヒトパピローマウイルス」の感染が主な原因で、コンドームの使用で予防できます。
 驚かれるかもしれませんが、アメリカでは子宮頸ガンは性病と認識され、このウイルスに対するワクチンを義務化するかどうかの議論がさかんなのです。
 性交渉を始める前の女の子に、ワクチンを接種する---。ワクチンを打てば、その後パピローマウイルスが子宮にとりついても、免疫ができていますから感染しません。まさに、麻疹(はしか)の予防と同じ考え方です。
 肝臓ガンも、その大部分は肝炎ウイルスの感染が原因です。肝炎ウイルスは輸血が主な感染ルートでしたが、今ではこうしたウイルスに感染していない血液が輸血されますので、肝臓ガンも減る傾向にあります。

ガンの「アジア型」と「欧米型」

 わが国では、高齢化によってガンの死亡はどんどん増えていますが、そのなかで2005年に死亡数が減少したのは、ここにあげた胃ガン・子宮頸がん・肝臓ガンという「アジア型のガン」だけなのです。
 逆に、タバコが原因となる肺ガンの他、動物性脂肪のとりすぎが原因と考えられる乳ガン・前立腺ガン・大腸ガン・子宮体ガンなど、「欧米型」のガンが増えています。
 では、なぜ、動物性脂肪をとると、乳ガン・前立腺ガンなどが増えるのでしょうか?
 女性ホルモン・男性ホルモンは、コレステロールを材料として体内で作られます。ですから、肉を食べなければ性ホルモンは増えません。お坊さんが精進料理を食べる理由です。統計データはないでしょうが、お坊さんには前立腺ガンは少ないと推測されます。
 日本女性のバストも欧米人なみになりました。これも肉を食べるようになった影響です。肉食の結果、女性ホルモンがたくさん分泌され、乳ガンが増えているのです。

 さて、「子だくさん」のお母さんには、乳ガンができにくい。それはなぜでしょう。
 妊娠中は女性ホルモンのバランスが変わります。たとえば10人の子供を出産すると、10カ月×10人目=100カ月、つまり8年間近く乳ガンができにくい状態が続きます。実際、未婚の女性に乳ガンは多いのです。

ガンを防ぐには?

 このように、ガンは生活習慣に密接に関連しています。生活習慣病の一種と言っていい、社会を映す鏡なのです。ただし、注意がいるのは、生活習慣が発ガンのリスクを高めることはあっても、ガンになるかどうかの根本は運(確率)である点です。ですから、ベジタリアンの聖人君子でも、ガンになってしまう可能性はあるのです。
 なお、アジア型のガンの代表である胃ガンの死亡を、欧米型のガンの代表である肺ガンの死亡が追い越したのは、アメリカで1950年ごろ、日本では1990年すぎです。ガンの種類については、日本はアメリカに40年程度遅れているわけです。

 ガンにかかるかどうかは運次第、という面も否定できませんが、日常生活に気をつければ、ある程度ガンを防ぐことが可能です。禁煙が第一ですが、野菜と果物を食べ、肉やお酒はほどほどにして、太りすぎないことが大事です。これでガンの約60%(禁煙で30%、食生活の工夫でさらに30%)が防げるだろうと考えられています。

タバコとガン

 タバコはガンの原因の3割程度を占めるもので、禁煙がもっとも効果があります。日本の喫煙率は、減ってきたとはいえ欧米の倍以上で、実は日本は世界一の「タバコ大国」。世界一の「ガン大国」の一因です。
 とくに、現在、日本でもっとも死亡が多いガンが肺ガンです。タバコが原因の肺ガンは男性で70%、女性で15%。とくに若い人の喫煙は危倹で、20歳未満で喫煙を開始した人は、吸わない人の約6倍も肺ガンによる死亡率が高い。
 ノドのガン・胃ガン・食道ガン・肝臓ガンなども、たばこで増えます。あまり増えないのは大腸ガンと乳ガンくらいでしょう。タバコがなくなれば日本男性のガンの3割が消滅するのです。
 さらに、タバコの最大の問題は間接喫煙による他人への影響です。この点は飲酒とちがいます。

 ということで、このシリーズは、その5まで続きます。
 ちなみに、先日の健康診断では、胃カメラで「隆起性病変」が見つかりました。「いよいよ来たか!」と思いましたが、組織検査の結果は「良性」でした。いまのところ経過観察です。
 じゃんじゃん。

あなたは、ガンを知っていますか? その22014年12月26日 10:27

長生きするようになって増えたガン

ガンは増えている

 ガンが増えています。日本人は毎年およそ100万人が死亡していますが、そのうち32万人くらい、つまり3人に1人がガンで亡くなっています。65歳以上では、2人に1人がガンで亡くなるのです。
 実は、「ガン登録」(ガンが診断されると、そのタイプや進行度の他、治療方法とその結果を詳しく登録して、ガン対策に活用する仕組み)が行われてこなかったわが国には、何人に1人がガンになるかについて、正確なデータがありませんが、おおざっぱに言って、日本人の「2人に1人」がガンになると言えるのです。

ガン増加の原因は長寿

 国民の半数がかかり、3人に1人が命を落とす、こんな病気は他にありません。まさにガンは国民病で、世界でも類を見ません。
 では、なぜこれほどガンが増えているのでしょうか?
 日本人が長生きするようになったからです。

 ガンは、人間の細胞の設計図であるDNAに、徐々にキズがついたために生まれる異常な細胞です。簡単にいえばガンは細胞の老化です。
 そして、DNAのキズが積み重なるには、時聞がかかる。たった1つのガン細胞が検査でわかるほど大きくなるには、10年から20年の時間が必要です。つまり、長く生きなければガンを作るいとまがないのです。
 日本人は長生きになりました。日本人の平均寿命は現在世界一ですが、明治元年の平均寿命は30歳、大正元年で40歳ほど。ちなみに、縄文時代では15歳程度だったと言われます。
 織田信長は、「人間五十年、下天のうちをくらぶれば夢幻の如くなり」と謡いましたが、その当時の平均寿命は20数歳。子供のころにバタバタ死ぬから、平均寿命は短い。大人になるまで生きれば、安土桃山時代でも50歳まで生きたというわけです。

 日本人は第二次世界大戦後、急速に長生きになったのですが、乳幼児の死亡率減少が最大の理由です。現代の日本女性の平均寿命は86歳で、これは子供の死亡までを含んだものですから、65歳に達した方々は90歳まで生きることになる。日本は前人未踏の長寿国家なのです。

世界一のガン大国

 こうして日本は「世界一の長寿国」になり、その結果、「世界一のガン大国」になりました。「ガン大国」は恥ずべきことかもしれませんが、「世界一の長寿国」となった結果です。日本の衛生環境や医療がよくなって、みんながガンになるまで長生きするようになったのです。
 日本人の寿命は今後さらに延びますから、ガンはいっそう増えるはずです。
 仮に平均寿命が100歳を超えるようなことになれば、ガンにならない人の方が珍しくなる。もはや、ガンは日本人と切っても切れない関係にある「業病」なのです。

「人は死んでも生き返ると思いますか?」

 しかし、今の日本社会には、死を認めないムードがあります。高齢者が自宅で亡くなるケースが減り、死は一般に病院に閉じこめられ、生活や意識から排除されているのです。死が見えなくなっている。
 最近ある小学校のアンケート結果を見て驚いたことがあります。「人は死んでも生き返ると思いますか。」と先生が尋ねたところ、なんと三分の一が「生き返る」と答え、三分の一が「わからない」と回答したというのです。正解はわずかに3人に1人(宇都宮直子『「死」を子どもに教える』中央公論新社)。死はリセットできるものと感じられていることがわかります。

 末期まで懸命に生きる患者さんの闘病記はテレピなどで人々を感動させる一方、死そのものは日常からきれいに拭い去られているのです。日本人の大半は、死なないつもりで生きているのではないでしょうか。あるいは、死の感覚を喪失しているのではないか。

 ガン治療の進歩によって、ガンの半数は治癒できる時代になりました。しかし、「ガン=死」というイメージはまだまだ根強い。憲法で戦争を放棄し、徴兵制もない今の日本で、死に直接結びつくのは、ガンくらいでしょう。ですから、多くの日本人にとって、ガンは「縁起でもない」存在です。最低限の知識も耳に入らなくなってしまっているのです。
 実際、高い喫煙率、動物性脂肪ばかりが増えている食生活、低い検診率と必要性の乏しい高額の検査、あまりの手術偏重、軽視される放射線治療、不適切なそして使われすぎの抗ガン剤治療、放置される患者の苦しみ、根拠がなく法外に高い健康食品や民間療法、心が通わない医師と患者の関係など。日本のガン医療には、問題が山積しています。

 でも、こうした問題を解決していくには、専門家ではなく、日本人の一人ひとりが、まず「ガンを知ること」です。知らなければ立ち向かうこともできません。国民病なのだから、私は小学校から教科書で教えるべきだとすら思っています。

 ガンは他の病気とちがって、患者さんの人生の縮図ともいうべき病気です。人生の時計の針が多少早く回っている、と言えるかもしれない。ガンの患者さんは、人生はだれにとっても、いつでも下り坂であることを身に染みてご存知です。
 ガンが治っても人はかならず死にます。人間の死亡率は100%です。ガンを通して人生を考えることが、「よく生き、よく死ぬ」ことにつながると確信しています。

DNAが傷ついて起きる病気

 人のカラダは、60兆個の細胞からできています。1つ1つの細胞のまんなかには核があり、そのなかに細胞の設計図といわれる遺伝子(DNA)が入っています。ガンは、このDNAが傷ついて起こる病気です。
 60兆個の細胞の出発点は、たった1つの受精卵です。この受精卵が、細胞分裂を少なくとも50回は繰り返して、脳、肺、胃腸などの臓器をかたち作る。
 臓器ができあがると、それぞれの細胞はまわりの仲間の細胞と協調しながら、自分の役目を果たします。そして、必要なときだけ分裂し、必要な分だけ増えると分裂を止めて、寿命がくると死滅します。
 この細胞の「入れ替え」は、カラダの老化をおさえるのに必要で、新しい細胞は、毎日8000億個も作られます。一生涯で臓器の細胞は、数千回入れ替わると言われているほどです。
 それぞれの個体は、成熟したら子孫を残し、寿命がきたら自分は死ね。この「個の役割」と「世代間のバトンタッチ」こそ、私たち人間を含む生き物の営みです。

ガンは暴走機関車

 しかし、ガン細胞は、コントロールを失った暴走機関車のようなもので、猛烈な速さで分裂・増殖を繰り返し、生まれた臓器から勝手に離れて、他の場所に転移します。
 ガン細胞は正常な細胞の何倍も栄養が必要で、患者さんのカラダから栄養を奪い取ってしまうのです。進行したガンの患者さんが痩せていくのはこのためです。
 ガンが進行すると、栄養不足を起こすだけでなく、塊となったガンによって圧迫を受けたり、ガンが原因の炎症が起こったりします。
 たとえば、背骨に転移したガンは骨を溶かし、自分が住むスペースを作りながら大きくなっていくので、激しい痛みをもたらします。さらに、ガン、が大きくなって背骨の中を走る脊髄(神経の束)を圧迫すると麻痺の原因にもなります。

 というわけで、2回目を終わります。
 全部で5回ですが、だんだんと背筋が寒くなります。
 じゃんじゃん。

 良いお年を!