あなたは、ガンを知っていますか? その12014年12月25日 12:00

これは2008年1月に刊行された『ガンのひみつ』(朝日出版社)のコンサイス版からです。

 読んでいただければ、
①ガンになる仕組み、
②ガンになったときの心得、
③医療機関とのつきあい方、
④人生の終りに思いを馳せることの大切さ、
などをご理解いただけると思います。

 日本は世界に冠たる経済大国となりましたし、平均寿命は男80.21歳、女86.61歳(2014)、2年連続で世界最長寿の国です。

 ではなぜ、「ガン難民」などという言葉が取りざたされるのでしょうか。
 なぜいまも、激痛に苦しみながら命を落とす患者さんがあとを絶たないのでしょうか。
 日本のガン医療はじつにお粗末なのです。日本のガン医療には致命的な弱点がある、と気づいてほしい。ガン医療を変えるには、日本人1人ひとりが「ガンを知る」ことがどうしても必要です。医療サービスを施す側ではなく、サービスを受ける側が主導権を握るために、です。
 知らないと損する、知れば役に立つ、そういう知識はそんなに多くはありません。英語、たって、中学・高校で教わってそれっきり、という方がたくさんいらっしゃる。それでもいいのです。日本で英語が必要な方はまだまだ少ないのですから。

 でも、ガンはそうはいきません。2人に1人がガンになり、3人に1人がガンで亡くなるのです。ガンになる前に、「ガンの常識」を身につけておくことがとても大事です。

 ある世論調査を例に、ご説明したいことがあります。
 2007年秋、「健康と高齢社会世論調査」が公表されました(毎日新聞)。このなかには、ガンに関する質問項目もたくさん含まれています。

 例えば、「放射線治療が手術と同じくらい有効なガンにかかった場合、放射線治療を受けたいですか」の問いに対して、54%が「放射線治療を優先したい」と回答していました。
 これに対して、「手術を優先したい」は39%でした。これは、手術偏重と言われてきた日本のガン医療にも変化の兆しが現れてきた、ということかもしれません。
 しかし、「手術を優先したい」と答えた方に、「放射線治療を希望しない理由」を聞いたところ、「完治するか不安」が48%、「被曝の副作用が心配」が46%、「治療に時間がかかりそう」が41%、「治療にお金がかかりそう」が28%でした。

 ちなみに、これらはみな誤解で、多くのガンで放射線治療は手術と同じくらいの治癒率をもたらしていますし、副作用も手術と比べて少ない傾向があります。入院の必要がなく外来治療が基本で、仕事と両立が可能な場合も多く、医療費も手術と比べて安価です。

 一方、ガンの苦痛を和らげる「緩和ケア」に関しては、なんと72%の人が「知らない」と回答しています。医療用麻薬への抵抗感もいぜんとして残り、「最後の手段だ」、「できるだけ使いたくない」をあわせると半数を超えます。しかし、実際には、医療用麻薬を適切に処方し、痛みをとった方が長生きする傾向にあるのです。

 ガン治療の基礎データに必要な「ガン登録」についても、「法制化して義務づけるべき」は18%にとどまっていて、国民の理解は進んでいません。

 わが国の国民医療費はおおよそ40兆円ですが、これはGDP(国内総生産)の約8%で、米国の約半分、先進国でも最低水準です。
 しかし、63%の人が、それでも国民医療費は高すぎる、費用がかかりすぎていると答え、3割がさらに削減すべきだとしています。
 健康は、空気や安全といっしょでタダである、という意識のあらわれでしょうか。日本人のガンや医療に関する意識は徐々に変わってきましたが、まだまだ遅れていると言わざるを得ません。
 2人に1人がガンになり、3人に1人がガンで死ぬ日本は、世界一のガン大国です。ガンは最大・最強の国民病ですが、現実には、日本人はガンを知りません。いや、むしろ、知りたがらないのかもしれません。

 徴兵制も戦争も存在しない現代日本の市民にとって、「死」に直結するのは、ガンくらいです。そして、今や日本社会にも、日本人の意識のなかにも、「死」の居場所がなくなってしまったのかもしれません。いわば「死ぬつもりがない」日本人の耳には、ガンの話など届きません。その結果、日本人のガンの知識は、先進国のなかでもきわめてお粗末なものになってしまったのです。

 この冊子では「ガンのひみつ」、つまり「知られていていいのに、ほとんどの日本人が知らないガンの常識」を解説します。

 ガンの常識がなぜ必要なのでしょうか。
 自動車や家電などは、消費者の目が日ごとに肥えてきています。消費者のニーズに応えるために、メーカーは懸命に「良品」を企画し製造し販売するようになりました。ガン医療に関してはどうでしょうか。まだまだ消費者(患者)の側に「商品知識=ガンの常識」が足りないのです。
 専門的なことは省きましたし、闘病中の患者さんや家族の方々には、一般的すぎて物足りないかもしれません。とは言え、「せめてこれだけは知っておいてほしい」「これを知ったうえで、ガンと正しく向きあってほしい」という気持ちを込めてまとめたものです。
 むずかしいことは何もありません。ポイントは以下のものです。

○ガンは自分の細胞が分裂するときにできた暴走細胞。
○ガンができるのは一種の老化、つまり日本は「世界一の長寿国=世界一のガン大国」でも、ガン対策の後進国。
○ 2人に1人がガンになるほど長生きになった日本人。
○ 欧米ではガンで死ぬ人の数は減っているが、日本では増えている。
○ 結核は届け出るのに、ガンのデータをとるための「ガン登録」の制度がない。
○ ガンはどの臓器からできるかによって、治療手段も治癒率も天と地ほど違う。
○ ガン治療の3つの柱は、手術・放射線治療・抗ガン剤。サプリメントなどは効果なし。
○ ガンの完治には、手術か放射線治療が必要。
○ 日本では「ガン=胃ガン」のイメージを引きずり、今でも「ガン治療=手術」。
○ 食生活の欧米化によってガンの種類が、胃ガン・子宮頸ガン・肝臓ガンなどの感染型・アジア型のガンから、肺ガン・乳ガン・前立腺ガンなどの、欧米型ガンにシフトしている。これがガンの欧米化。
○ 冷蔵庫のおかげで胃ガンが減っている。
○ 欧米型のガンでは放射線治療・抗ガン剤も主役に。
○ 転移したガンの完治は難しい。
○ 治療(治す)とケア(癒す)の両立が<治癒>になるはずなのに、日本では<治>が偏重され、<癒>が軽視されている。
○ 放射線治療・緩和ケア・ガン登録が「ガン対策基本法」の柱。
○ 日本では医療用麻薬に偏見があるが、痛みをとった方が延命にもなる。

 この冊子で「ガンのひみつ」を知ったあなた、ぜひまわりの方にも耳打ちしてください。きっと感謝されますよ。なにせ、お二人のうち、どちらかがガンになるのですから。

 ということで、これから4~5回、ガンについて、お知らせします。けっこう怖い話ですが、そろそろ、あなたたちも真剣に考えるときではないかと思いますから。
 なんと言っても、ガンになる確率は50%。
 宝くじなら50%は大変な高率ですが、ガンなら、恐ろしい話になるのだろうか。
 50%とは、まさにコインの裏と表。まぁ気楽にガンになりましょう。
 じゃんじゃん。