第22回産業ストレス学会の報告 72014年12月11日 09:45

<若者のメンタルヘルス不調にどう向き合うのか>

 わが国では1991年にバブルが崩壊し、1990年代後半には金融危機を迎え、それを境に自殺者が一気に増加した。
 しかも職域でのメンタルヘルス不調による休職者は、1990年代に比べ2005年頃から急速に増加している。また休職者も従来型のうつ病ではなく、若年労働者を中心とした適応障害や、いわゆる現代型うつ病・発達障害ともいわれるメンタルヘルス不調者が増えている。
 この変わりつつある職域メンタルヘルス不調者の大幅な増加と、大きな質的な変化に対して我々にはどのような対応が求められているのだろうか。

 1980~1990年頃のバブル全盛期に生まれ、物質的には満たされてゆとり教育の中で育った子供達が、今や20~30歳の社会人となっているが、ユニセフの発表したOECD加盟国の15歳の調査で、「孤独を感じる」と答えた子供の比率は、日本(2003年調査)が29.8%で対象国のなかでずば抜けて高く、平均値(7.4%)の約4倍であった。幼少時より物質的には恵まれた環境に育ったはずの日本の子供達が、実は精神的には孤立しているものが多いことを示している。
 そして、2003年に15歳だ、った子供達の多くが、2011年頃には社会人として我々の職場に入社してきている。

 一方、事業所に目を向けると、わが国の多くの企業は従来の日本的な経営スタイルから、市場経済主義、効率化そして実績主義へと傾斜し、職場ではわが国が誇ってきた集団互助的な「協力して助け合う精神」は薄れつつある。また「時間をかけて人を育てる」社風も少なくなりつつある。

 このような社会構造・職場環境の変化の中に、バブル期に生まれた多くの若者達が入社し、職場環境にうまく対応出来ずにメンタルヘルス不調を起こしてきているのではないか。
 今こそ従来型のメンタルヘルス対策だけではなく、事業者、人事労務、そして産業医療職も考え方・発想を変え、次世代を担う若者逮を迎え入れ、育てていく工夫が必要ではないか。
 我々こそが変わらねばならないのかもしれない。

1.2013年度のメンタル関係の相談者数と長期欠勤者数

・年齢構成の全般で女性が男性の2倍であり、特に20代の女性が多く相談している。
・メンタル不調者は、20代では女性が男性の2倍以上あり、40~50代では男性が女性の2倍となっている。
・不調者の環境で、ラインケア(職制によるメンタルヘルスケア)が可能であったのは45%程度で、25%は予防が困難な状況であった。
・長期欠勤者の調査(33万人)では、男女平均では0.58%だが、男性は0.62%で、復職率は78.6%であった。女性では長期欠勤者が0.44%で、復職率は69.4%であった。
・長期欠勤者は、男性では50代以外が0.4~0.8%(35~44才)で比率が大であったが、女性では、20~30代で0.6%程度と大きくなっている。

2.まず目指すべきもの

 国の施策や社会制度、教育制度や家庭環境、事業者の経済環境が急には変われない中で、事業者や産業医療職が目指すべきものは「カウンセリング(相談・援助)制度」の充実である。

・産業看護職~メンタルを含む全ての医療でもっとも相談しやすい、援助を受けやすい存在としての産業看護職を活用すべし。看護職は孤独な若年者に手をさしのべることが出来やすい。
・社内キャリアカウンセリングは、仕事や会社組織に違和感を持つ若年者や、仕事がうまくいかなくて行き詰まっている若年者に対応できる。
・中小企業ではレベルの高いEAP(従業員支援プログラム、および支援施設)を見つけることが経費と効果のバランスとなる。