産業衛生学会の報告 その12015年06月09日 15:12

 5月に大阪で開催された標記学会に参加しました。今回から何回かにわたって報告します。

 まず、「シンポ 新しい労働時間規制と疲労対策 勤務間インターバル制度に関連して」という長い名前です。
 今回のこの学会のテーマは、「過労死」と言うことです。どこにもそのようには書いていませんでしたが、メニューを見れば明白です。

 それで、このシンポは、以下の4つが問題提起でした。
① EUの労働時間指令における勤務間インターバル
② 我が国の勤務間インターバル制の実態と課題
③ 過重労働対策の現状と課題
④ 労働者の疲労回復と勤務間インターバル

 詳しく報告したいのですが、なぜか会場内の写真撮影が禁止されていましたので、パワポを撮影記録できませんでした。ので、私のメモが頼りです。あしからず。

① EUの労働時間指令における勤務間インターバルでは、JILPTのH氏がEU労働指令について、6条は時間外を含む週の労働時間が48hまでであり、変形労働時間制でも当該期間の週×48hであること。
 5条は休日労働の禁止(7日ごとに24時間の休息)、3条は、24時間の期間ごとに継続11時間の休息(レスト・ピリオド)を例外規定無しにと言うことになっていますが、この例外規定無しはイギリスが無視しています。
 3条が実現すると、1日24hから11hのインターバルを引き、残りの13hに5条の週労働日は6日を掛けて、週の労働は78hが絶対上限となりますが、さらに6条がありますから、今のところとにかくインターバルは11hをどう実現するかと言うことになります。
 これには適用除外の業種もありますけど、EU裁判所により「同等の代償休憩時間(イエーガー判決)」が求められます。

② 我が国の勤務間インターバル制の実態と課題では、企業名はなかったのですが、いろいろな企業で、インターバル規制がすでにあることが報告されました。
(製造業・電機)メンタル休業による肩代わり長時間労働に対処するため?、インターバル7h。
(運輸業・私鉄)インターバル9hは「運転者の拘束時間規制15hまで」の裏返しとして。
(製造業・IT系)フレックス制のインターバル8hから10hにしたが、7千人のうち10人程度が該当した。そのほか、22:00以降の時間外禁止制度あり。
(ファストフード)インターバルは12h。休日も含むときは32h。アルバイトも含む。
(病院)インターバル20h。夜勤負担を軽減するため。しかしシフトをつくる中間管理職にしわ寄せある。
(建設・情報系)インターバル8~10hは作業者のみ。しかし、定時出勤時間過ぎても気軽にでられることはメリット。
 まとめとして、長時間・時間外・深夜などの労働が動機となっている。が、科学的な裏付けが少ない。一律に法的規制は不可能かとも思う。

③ 過重労働対策の現状と課題では、長時間労働と心臓冠動脈疾患の関係は明確であり、うつ病も時間外が月60h超えると2倍以上になる。労災の認定も時間外の時間に比例している。しかし、多くは心身ともに問題なく働いている。さすがに月100hを超えるとほぼ全てがコントロール悪化となるが、悪化させる要因としては、休みが取りにくいとか、抑うつ傾向が強いなどであり、仕事に意義を感じてコントロールできていれば、100以下だとそんなに問題ない。
 多くの疲労は睡眠悪化が原因となり、慢性化は仕事のパフォーマンス悪化のスパイラルとなる。

④ 労働者の疲労回復と勤務間インターバルでは、「お疲れ様」の挨拶が日常的になっていることからも、疲労が社会にたまっていることは明らかだが、その原因は様々であり、嫌な仕事だとか面白くないという心理的な側面も大きいのではないか。従来の労働時間規制はまさに規制であるが、インターバル規制は睡眠時間の確保が目的である。しかしEUの11hでは、過労死ラインに届くような規制でしかない。
 インターバルの中身も重要であり、例えば、休息中に上司がメールをよこせば、実質的な休息とはならないだろう。事実上の拘束時間だ。ドイツでは「反ストレス法」でこれらを規制している。

 会場から、イ)EU司令の評価は、ロ)疲労からの回復は重要ではないか、ハ)産業保健スタッフの介入は可能か、などの質問があり、それぞれ、
イ)緩和より規制強化の面が大きくある。ただし、救急現場の問題とか、待機時間の算定など課題は残っている。国別でも、イギリスは半数が時間規制がない状態。退勤時間の規制という方向にあるかもしれない。
ロ)疲労が労働条件として認識されてきたが、科学的解明が遅れている。ホリックを規制することには有効であるが、労働条件よりも、安全衛生面の視点が必要だろう。
ハ)ラインの不安定化や人員不足の常態化などで手をこまねいている面はある。
 などと返事がありました。

 相対的に、「こいつら何を言っているのか?」という感想ですが、産業衛生の分野から見ると、過重労働とか過労死とかは、制度よりも、心理的側面が大きいととらえているようです。
 とにかく驚いたのは、時間外が60h~80hくらいが一番働いている人たちと、産業医がしゃあしゃあと言うところは、あきれてしまいました。

 ここで再確認しておきますが、「疲労」とは本人に自覚があり、休息によって回復可能な状態であり、「過労」とは、疲労の域を超えて、本人の自覚もなく、長期の休業以外に回復しない、下手をすると命を奪うことだと言うこと。
 実は産業医や産業スタッフはあまりその辺を意識していないということがよく分かったシンポでした。
 じゃんじゃん。