大人のADHD その7 追加2016年05月13日 13:01

 次の「アスペルガー(AS)」は、総会準備で忙しいため、先延ばししますが、ADHDも含めて、大人の発達障害で必要とされる「ライフスキル(生きていくすべ)」について、少しふれてみます。

 まずそのためには、ASD (自閉症スペクトラム、自閉症スペクトラム障がいのこと。アスペルガ症候群も含まれる)の人が持っている特性を完全に変えていかなければならないということです。
 これは、ほかの障がいで言い換えると、脊髄損傷の人に立って歩く訓練を、視覚障がいの人に見る訓練を、聴覚障がいの人に聞く訓練を強いることに等しいのではなかろうかということになります。
 
 生きていくスキル、すなわちライフスキルについては、WHOが「ライフスキルの目的は、個人の人権を擁護し、健康問題と社会問題を積極的に予防することによって幸福な生活を営む点にある」(1998)と定義していますが、そのなかみは、

l. 自己認識スキル
2. 共感性のスキル
3. 効果的コミュ二ケーションスキル
4. 対人関係スキル
5. 意志決定スキル
6. 問題解決スキル
7. 創造的思考ができるスキル
8. 批判的思考スキル
9. 感情対処スキル
10. ストレス対処スキル
というふうに、きわめて高いレベルです。

 ソーシャル・スキルを獲得することは望ましいのですが、対人関係に絞ったソーシャル・スキル・トレー二ング(SST)でもASDの人には限界があるのも事実です。
 たとえば、あるアスペルガ一症候群の女性は「買い物スキル」を指導されたところ、30万円の化粧品を買わされた。また別のASDの男性は「友だちのつくり方」を指導され、新興宗教の団体に入らされた、あるいは万引きの仲間にされたという出来事が生じた場合もあります。
 さらに、消費者金融に連れて行かれてはんこを押させ5れた、訪問販売で自己破産をしたという例もあり、必すしも獲得した対人関係スキルが成人社会の場面でうまく対応できないという事例もあります。
 そのようなトラブルに巻き込まれた原因を確認したところ、「何をどのようにしたらいいか分からなかった」「見通しがもてなかった」ということであったようです。
 自立とは何でも一人ででき、人に頼らずに生きていくことではないとおもいます。発達障がいのある人がどのようなことに困っていて、どのような支援ニーズがあるかを確認し、その二一ズに対して適切なサポートを受けることによって自立することも間違いではありません。できないことは人に頼るととも、必要なことなのです。

 では、日ごろのライフスキルを確認するにはどうしたらいいでしょうか。それは、リストを作るとよいでしょうということです。ただ、作成した「ライフスキルチェックリスト」は、あくまでもチェックをするためのリストなので、必すしもそのスキルを獲得しなければならないというものではなく、そのような活動が想定されるだろうという前提をもとにつくったものです。
 チェックする項目は、その人が居住する地域やさまざまな環境によって異なってくるため、個別のライフスキルチェックリストILSC(Individualized Life Skills Checklists)を作成することが必要となります。

 例えば、「運転スキル」について、大都市以外の地方では自動車運転免許を取得し、自分で車を運転することもライフスキルのーつとして必要となるとおもいますが、数年前、栃木県鹿沼市に発達障がい者に特化した自動車教習所が開所して、当初、LD (限局性学習症、学習障がい)を持つ人は読み書きが不得手なため学科試験をクリアするのが困難であり、ASD(自閉スペクトラム症、自閉症スペクトラム障がいのこと。アスペルガー症候群も含む) やADHD (注意欠如-多動症、注意欠陥多動性障がい)の人たちは、不器用さや不注意などの点で実際に車を運転する技能試験の課題が考えられました。
 これらの人たちにとっては、自動車運転免許取得におけるハードスキルが課題となります。
 しかし、確かにLDの人には学科試験の問題を読むことに困難を示しましたが、読み聞かせを行うことで耳から学習でき、学科試験の問題はクリアできました。
 また、技能ではASDの人には不器用さが、ADHDの人には不注意な点が見られましたが、根気よく時聞をかけてゆっくり指導することで、定型発達者よりも時間はかかったものの技能試験にも合格することができました。

 ただこのようなことも起こります。
 あるASDの診断を受けている男子大学生が、免許を取得後に車の運転の練習がてらドライブしたところ、車が故障したということで、教習所に電話をかけてきました。彼を支援しているコーディネーターが故障した車のところまで出向くと、車は故障していませんでしたので、メーターを確認したところ、ガソリンがなくなっていたのでした。自動車教習所では、免許を取得するまでは指導しても、取得後のガソリンの入れ方までは指導していなかったのです。そこで、彼にはガソリンメーターでガソリンの量が真ん中になったところに赤いテープを貼り、メーターの針がその赤いテープのところに来たらガソリンを満タンにするように指導を行いました。

 また、表の「14.上司、同僚に『おはようございます』のあいさつをする」と「20.仕事が終わった後にf失礼します」のあいさつをする」は、両方とも「あいさつ」をすることなので、対人関係スキルが必要となります。

 これもある例です。
 ある知的障がいを伴うASDの人にあいさつの仕方を指導したところ、職場の同僚や上司だけではなく、街行くまったく無関係の人たちにまで「こんにちは、こんにちは…」とあいさつをしまくるので、「変な人がいる」と会社にクレームが来たことがありました。彼にとっては、「この人にはあいさつが必要だが、この人には必要ない」というととが分からなかったのです。
 そこで、コーディネーターは、彼が働く工場の従業員と相談し、あいさつに関して次のような方法を考案しました。彼の保護者からの情報収集により、緑色に特異な興昧を示していることが分かったので、工場の入り口に緑色のテープで四角い枠を作り、毎朝その緑色の枠の中に立つようにしてもらいました。そこに立つと、ちょうど入り口の反対側に緑色の「非常口」の標識が見えるので、その標識に向かって「おはようございます」というような指導を行いました。帰りも同様で、仕事が終わった後に緑色のテープの枠内に立って、非常口の標識に向かい「失礼します」と言うように指導を行いました。この方法でよいかどうかを工場で働く同僚、上司に確認したところ、まったく問題ないとのことでありました。彼は毎日非常口に向かつてあいさっするものの、その後15年間、問題なく働いています。

 このように、企業で働く同僚や上司に理解を得ることができれば、職場のマナーやルールのようなかたちで学習することも、ライフスキルの指導としては獲得できるのではなかろうか。

 発達障害を持つ人は、程度の差こそあれ、実はどこにでもいます。
 それを「変な」と見るか、「ユニーク」と見るかはそれぞれの考えにもよりますけど、このような人たちを社会がどのように「包摂」していくのか。むしろ、「包摂していかなければならない」という観点や視点に立って、人権というものを考え、また、少子高齢の社会を継続させるために必要な「日本社会のためのスキル」ナノではないでしょうか。
 ということで、じゃんじゃん。

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