愛がそだてる赤ちゃんの脳 その1 ― 2015年08月31日 09:33
以前「愛着」の問題について何回か提起しました。
2013年6月に8回シリーズでした
「愛着障害というもの その1」から始まるシリーズで、欄の右にある「カテゴリー」の「愛着の問題」から見ることができます。
要は、1歳半までの親、特に母親との愛着度がその後の人生に大きく影響するという提起であったと思います。
それで、今回は、それはなぜなのかということの一つの証しをご紹介したいと思ったことから、このシリーズを始めます。
1980年代に、米国の都市部で「クラック」と呼ばれる安価なコカインが流行し、深刻な社会問題となった。ペンシルベニア州フイラデルフイアの新生児学者は当時、妊婦のクラック依存が胎児に及ぼす影響を懸念し、調査を実施した。
調査対象となったのは、低所得の家庭で育った4歳の子どもたち。母親がクラック依存症だったグループとそうでないグループのIQ(知能指数)を比較した。
二つのグループに有意な差はなかったが、調査を通じて予想外の事実が判明した。どちらのグループも、4歳児の平均よりも大幅にIQが低かったのだ。
「見た目は普通のかわいらしい子たちでしたが、IQは82か83程度でした。平均は100です。衝撃的な結果でした」と。
調査チームは両グループの違いではなく、共通点に目を向けた。つまり貧しい家庭で育ったということだ。そこで家庭への訪問調査を行った。たとえば、家に子ども向けの本が10冊以上あるか、子ども向けのCDやレコードと音楽プレーヤーがあるか、数字を覚えるための知育玩具があるかといった項目をチェックし、子どもたちの養育環境を調べたのだ。
すると、養育者が子どもに関心を向け、接する時間を多くもつ家庭ほど、子どものIQが高い傾向にあることがわかった。 認知能力に関わる刺激を受ける機会が多い子どもは、より高い言語能力を示し、愛情深く育てられた子どもは、記憶力がより優れていた。
その後、10代になった子どもたちに対し、追跡調査を行った。 MRI(磁気共鳴画像装置)で脳の活動を調べ、4歳と8歳のときの養育環境と脳機能の関連性を探るためだ。
すると、4歳のときの養育環境と、記憶をつかさどる海馬の大きさに強い相関性があることが確認された。だが一方で、8歳のときの環境と海馬の大きさには関連性は認められなかった。
この結果が示すのは、子ともの脳の発達には幼児期の愛情豊かな養育環境が非常に重要だということだ。
幼児期の子どもたちが言語や数字を覚え、感情を理解するようになる・・そうした成長過程の研究が進むにつれ、赤ちゃんの脳が驚異的な学習能力を備えていることがわかってきた。だが脳がどれだけ成長できるかは、周囲の大人の接し方に大きく左右される。
人類ははるか昔から子育てをしてきたが、認知、言語、推論、計画などの能力が飛躍的に向上するプロセスについてはまだ謎が多い。
乳幼児の脳の機能が急速に発達する時期には、膨大な数の神経回路が形成される。新生児のニューロン(神経細胞)の数はおよそ1000億個程度で、成人とほとんど差がない。だが成長の過程で外部から大量の感覚刺激を受けると、ニューロン同士が結びついて新しい神経回路が形成されていく。その結果、3歳までに数百兆ものシナプス(ニューロン間の結合部)をもつようになるのだ。
子守歌を聞く、おもちゃに手を伸ばすなど、さまざまな刺激や課題が与えられると、それに対応した神経回路が形成される。さらに、繰り返し活動する回路は結合が強化される。
ニューロン上で信号の伝達を担う軸索(神経線維)は髄鞘と呼ばれる絶縁体で包まれていて、何度も使われる回路ではこの髄鞘が厚くなり、電気信号の伝達がより速くなるのだ。逆に、使用頻度の低い回路はやがて結合が断ち切られる。
爆発的に増えたシナプスのうち、使用頻度の高い結合が強化され、残りが消えていく作用は「シナプスの剪定」と呼ばれる。人間の場合、1歳から5歳までと思春期の初めにシナプスの剪定が進行し、この時期の体験はその後の神経回路網の形成に大きな影響を及ぼす。
もって生まれた機能に外部環境からの影響が加わって、脳はさまざまな能力を獲得していく。このプロセスが最も顕著に見られるのが、言語能力の発達だ。言語の習得には、生まれつきの能力がどの程度関与し、それ以外の部分はどうやって獲得されるのだろう。
つづく。じゃんじゃん。
2013年6月に8回シリーズでした
「愛着障害というもの その1」から始まるシリーズで、欄の右にある「カテゴリー」の「愛着の問題」から見ることができます。
要は、1歳半までの親、特に母親との愛着度がその後の人生に大きく影響するという提起であったと思います。
それで、今回は、それはなぜなのかということの一つの証しをご紹介したいと思ったことから、このシリーズを始めます。
1980年代に、米国の都市部で「クラック」と呼ばれる安価なコカインが流行し、深刻な社会問題となった。ペンシルベニア州フイラデルフイアの新生児学者は当時、妊婦のクラック依存が胎児に及ぼす影響を懸念し、調査を実施した。
調査対象となったのは、低所得の家庭で育った4歳の子どもたち。母親がクラック依存症だったグループとそうでないグループのIQ(知能指数)を比較した。
二つのグループに有意な差はなかったが、調査を通じて予想外の事実が判明した。どちらのグループも、4歳児の平均よりも大幅にIQが低かったのだ。
「見た目は普通のかわいらしい子たちでしたが、IQは82か83程度でした。平均は100です。衝撃的な結果でした」と。
調査チームは両グループの違いではなく、共通点に目を向けた。つまり貧しい家庭で育ったということだ。そこで家庭への訪問調査を行った。たとえば、家に子ども向けの本が10冊以上あるか、子ども向けのCDやレコードと音楽プレーヤーがあるか、数字を覚えるための知育玩具があるかといった項目をチェックし、子どもたちの養育環境を調べたのだ。
すると、養育者が子どもに関心を向け、接する時間を多くもつ家庭ほど、子どものIQが高い傾向にあることがわかった。 認知能力に関わる刺激を受ける機会が多い子どもは、より高い言語能力を示し、愛情深く育てられた子どもは、記憶力がより優れていた。
その後、10代になった子どもたちに対し、追跡調査を行った。 MRI(磁気共鳴画像装置)で脳の活動を調べ、4歳と8歳のときの養育環境と脳機能の関連性を探るためだ。
すると、4歳のときの養育環境と、記憶をつかさどる海馬の大きさに強い相関性があることが確認された。だが一方で、8歳のときの環境と海馬の大きさには関連性は認められなかった。
この結果が示すのは、子ともの脳の発達には幼児期の愛情豊かな養育環境が非常に重要だということだ。
幼児期の子どもたちが言語や数字を覚え、感情を理解するようになる・・そうした成長過程の研究が進むにつれ、赤ちゃんの脳が驚異的な学習能力を備えていることがわかってきた。だが脳がどれだけ成長できるかは、周囲の大人の接し方に大きく左右される。
人類ははるか昔から子育てをしてきたが、認知、言語、推論、計画などの能力が飛躍的に向上するプロセスについてはまだ謎が多い。
乳幼児の脳の機能が急速に発達する時期には、膨大な数の神経回路が形成される。新生児のニューロン(神経細胞)の数はおよそ1000億個程度で、成人とほとんど差がない。だが成長の過程で外部から大量の感覚刺激を受けると、ニューロン同士が結びついて新しい神経回路が形成されていく。その結果、3歳までに数百兆ものシナプス(ニューロン間の結合部)をもつようになるのだ。
子守歌を聞く、おもちゃに手を伸ばすなど、さまざまな刺激や課題が与えられると、それに対応した神経回路が形成される。さらに、繰り返し活動する回路は結合が強化される。
ニューロン上で信号の伝達を担う軸索(神経線維)は髄鞘と呼ばれる絶縁体で包まれていて、何度も使われる回路ではこの髄鞘が厚くなり、電気信号の伝達がより速くなるのだ。逆に、使用頻度の低い回路はやがて結合が断ち切られる。
爆発的に増えたシナプスのうち、使用頻度の高い結合が強化され、残りが消えていく作用は「シナプスの剪定」と呼ばれる。人間の場合、1歳から5歳までと思春期の初めにシナプスの剪定が進行し、この時期の体験はその後の神経回路網の形成に大きな影響を及ぼす。
もって生まれた機能に外部環境からの影響が加わって、脳はさまざまな能力を獲得していく。このプロセスが最も顕著に見られるのが、言語能力の発達だ。言語の習得には、生まれつきの能力がどの程度関与し、それ以外の部分はどうやって獲得されるのだろう。
つづく。じゃんじゃん。
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