シリーズ 睡眠について その22015年09月14日 10:00

◎ 現代人の睡眠スタイル

 現代の日本では、世の中全体が忙しく動いており、睡眠時間を犠牲にしてでも仕事をしたり遊んだりしてしまいがちです。24時間営業の店が増えたこともあり、生活は不規則となり睡眠の質は下がる一方です。今や5人に1人は眠りに関する何らかの悩みを抱えていると言われています。現代ほど、人が睡眠不足や不眠に悩まされている時代はかつてなかったと言ってもいいでしょう。
 ある調査によると、都心のサラリーマンの平均睡眠時間は約7時間となっています。土日が休みの人の場合、平日よりも土日の睡眠時間は長くなり、週末にまとめて寝ることによって平日の慢性的な睡眠不足感を補っている人が多いようです。金曜日になると一週間の疲れが蓄積され、体力的にはかなり疲れきっています。しかし、金曜日には飲み会やイベントが企画されることが多く、「明日は休みだ」という安心感から、ついハメを外して飲みすぎたり遊びすぎたりしてしまうものです。
 このような現代人の金曜日の典型的行動は、金曜の夜から土曜の朝にかけての睡眠の質を低下させてしまいます。つまり、浅い眠りをダラダラと続けてしまい、土曜日の午前中をムダに過ごしてしまうことになるのです。
 週末、特に日曜日にお昼近くまでついダラダラと眠ってしまう人は、平日の一定の生活リズムが狂ってしまい、日曜の夜になるとなかなか寝付けなくなってしまいます。 こうして睡眠不足の状態で一週間をスタートさせることになり、本来の生活リズムに戻らないまま、睡眠不足感の抜けない一週間を送ることになってしまいます。土曜日の朝寝坊はある程度は仕方がないとしても、日曜日は平日と同じ時間に起きることが、次の一週間をスッキリと過ごす秘訣です。理想的には、金曜日の夜は少し早めに寝て、土曜の朝も平日と同じ時間に起きる。そして日曜の夜は少し早めにベッドに入るのがベストです。

 日本の職場では、定時に帰ってしまう人よりも、毎日遅くまで残業している人のほうが評価される風土がいまだに残っています。そうした社会背景や職場でのストレス、キャリア形成に対するプレッシャーなど、現代の社会には睡眠の質を下げる要素がたくさんあります。家族と過ごす時間を増やしたり、仕事とは無関係の分野で何か打ち込める趣味を見つけるなどして、精神の健康を考えることが、ぐっすりと良い睡眠を得るためには非常に大切です。

◎ 必要な睡眠時間は人それぞれ

 人間に必要な睡眠時間はどのくらいでしょうか。人は一日に8時間寝なければならない、と考えている人が少なくありません。そう信じている人は、自分は6時間しか寝ていないから睡眠不足だと言います。実は、人間が必要とする睡眠時間は「一日8時間」だという説には、まったく根拠がありません。
 統計的に、日本人の平均睡眠時間は、7~8時間の人が約35%で最も多く、8~9時間が約25%、6~7時間が約20%だと言われています。「一日8時間説」は統計の結果、8時間程度寝ている人が一番多かったということに過ぎず、言わばひとつの思い込みに過ぎないのです。
 しかしこの8時間説は、睡眠に関してもっとも根強いひとつの常識になってしまっています。ぐっすり熟睡するためには、まずこの常識を忘れてしまいましょう。
 もちろん、8時間寝るとスッキリして調子がいい、という人はいます。でもそうした人ばかりではありません。必要とされる睡眠時間は個人差が非常に大きく、年齢、性別、季節、生活環境、職業などによって変わるのです。5時間で十分な人もいますし、逆に10時間は寝なくては、という人もいます。また、同じ人でも生活環境によって睡眠時間は変わります。
 一般的に、11月から12月にかけて睡眠時間は少しずつ長くなり、真夏の7月、8月は一年でもっとも睡眠時間が短くなります。太陽が出ている時間の長さが短いと、それだけ人間は眠る時間を増やす。この基本パターンは人類の歴史上おそらくずっと変わっていません。
 歴史上の人物で見てみると、よく知られているようにナポレオンは一日3時間しか寝なかったと言われていますが、一方でアインシュタインのように10時間の睡眠が必要だった人もいます。つまり、人間に必要な睡眠時間は人それぞれであり、一律に○時間寝るのが正しい、といった明確な基準はないのです。ですから、8時間寝ていない自分は睡眠不足に違いない、などと悩むことは非常にばかばかしいことなのです。
 8時間必要な人が6時間しか寝ていないのならば、睡眠不足によって体調不良が続いているかもしれません。また、4時間で十分な人が6時間寝ていたら、睡眠時間を多くとりすぎていてかえって非効率かもしれません。週ごとに睡眠時間を変えて実験してみるなどして、自分にとって無理のない睡眠時間はどのくらいなのか、正しく把握することが大切です。
 目覚まし時計を使わずに自然に気持ちよく起きられて、心身ともに充実した生活を送れるのであれば、それがあなたにとってベストな睡眠時間だということになります。
 一番簡単な方法は、起きる時間を一定にして、寝る時間を30分単位で変化させることです。日中に眠気を感じずに快適に過ごせたら、それがあなたにとっての最適な睡眠時間です。
 ちなみに赤ちゃんは一日に16~20時間程度眠りますが、成長するにつれて少しずつ睡眠時間は短くなります。学校に行く年齢になると社会的な制約もできて昼寝をするわけにはいかないこともあり、昼に起きて夜眠るという睡眠パターンがだんだん身についていきます。
 30代後半ぐらいから、年齢とともに睡眠時間は少しずつ減っていきます。老人が朝が早く、眠りが浅くなることはよく知られています。

◎ 妊娠するとなぜ眠くなるのか

 妊娠した女性は昼間でも強烈な眠気に襲われることがあります。妊娠したということは、子孫を残すという女性としての大きな責任のうち、最大のステップを乗り越えたことを意味します。積極的に出かけていって素敵な男性にめぐり合う必要がしばらくなくなるわけです。うまく受精できたわけですから、あとはおとなしくじっとしているに越したことはありません。また、胎内で小さな命を育てるわけですから、多大なエネルギーを必要とする出産という大きなイベントに備えて、母体はエネルギーを無駄なことに一切使いたくないのです。
 また、下手に活動的に外出したりすると、事故やトラブルに巻き込まれたり、最悪の場合は流産してしまうリスクもあります。このような理由から、妊娠した女性の脳はできるだけ体を休ませて、なるべくおとなしくさせておこうと仕向けるのです。こうした理由で、強烈な眠気を女性に与えていると考えられています。
 思春期から更年期にかけて、女性の睡眠には女性ホルモンが大きな影響力をもっています。女性ホルモンとは卵巣から分泌されるホルモンのことで、妊娠の準備をするエストロゲンと、妊娠を成功させてその状態を維持させるプロゲステロンがあります。排卵後はプロゲステロンが増えていて、プロゲステロンには睡眠を促す作用があるため、この時期にあたる月経前の一週間は強烈な眠気に襲われます。
 妊娠3ヶ月までの間は、プロゲステロンが大量に分泌されるために、日中から強い眠気に襲われることになります。妊娠6ヶ月になるとプロゲステロンは次第に減り始めて、妊娠9ヶ月ではプロゲステロンに代わってエストロゲンが増えてきます。よって、出産前は逆に眠気を感じずに寝つきが悪くなったりぐっすり熟睡できなくなります。

◎ 眠らない動物

 常に海の中を泳ぎまわっているカツオやマグロなどの魚やイルカ・オットセイなどの一部の水中哺乳類、カモメなどのように常に空を飛び続ける鳥たちは、いったいいつ寝ているのでしょうか。
 水中や空中で長時間過ごす動物たちは、実は左右の脳を交互に休ませることによって、活動を続けているのです。渡り鳥の中には片目だけつぶって飛びながら眠る鳥がいます。つまり、人間のように寝るときに活動を停止するのではなく、泳ぐ、飛ぶといった活動を行いながら、眠ることができるのです。この脳の半分だけを眠らせる睡眠法を半球睡眠といいます。
 人間の場合はレム睡眠とノンレム睡眠が繰り返し起こりますが、おもしろいことに、これらの眠らない動物たちの眠りにはレム睡眠がありません。レム睡眠は筋肉が弛緩してしまい、肉体を動かすことができなくなってしまうためだと考えられています。睡眠中も飛んだり泳いだりしなくてはならないので、レム睡眠は都合が悪いわけです。
 これらの動物たちは、眠るときはノンレム睡眠を半分の脳だけで行って、体のほうが動かし続けるという驚異的なことをしています。カモメの場合は、長時間の飛行移動の時には半球睡眠を行い、安全が確保された地上で眠る場合は、人間と同じように左右の脳を休ませて、しっかりとレム睡眠をとるといったように、非常にフレキシブルな睡眠術を使いこなしていることがわかっています。
 また、草原に住むシマウマ、キリンといった動物たちも、ぐっすり熟睡しません。ライオンやヒョウなどの天敵がいつどこから襲ってくるかわからない生活をしているわけですから、ぐっすりレム睡眠を楽しんでいる余裕はありません。レム睡眠の最中で筋肉が緩んでいるときに、襲われたらひとたまりもありません。
 ノンレム睡眠にしてもあまり深く寝てしまうと、身に迫る危険を察知することが遅れ、逃げ遅れてしまいます。ノンレム睡眠ですら浅い眠りにして、いつ敵が現れてもすぐに走って逃げられるように、立ったまま寝るという驚きのテクニックを身につけているのです。
 一方、ライオンは自分より強い天敵がいないので、天敵に怯えるシマウマやキリンとはまったく正反対の生活をしています。
おなかがすいた時だけ、数時間の狩りの活動をしますが、それ以外の一日の大部分はのんびり寝て過ごしています。

 第2回でした、じゃんじゃん。

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