シリーズ 医療について考えた その6(最終) よりよい職場が良い医療を作る ― 2016年03月04日 11:35
さて、いよいよ最終ですが、はじめにお断りしますけど、結論は貧弱です。なぜなら、「良い職場=良い医療」が先か、「潜在看護師の職場復帰=定数問題解決」が先かということになると、まさに「ニワトリと卵」ではないかと思うからです。
「な~んだ」と思ったら、閉じてください。
ということで、最初に言い訳をこいてから最終回にかかります。
まず、看護師という職業を考えてみます。
1.看護の対象~健康に問題を抱えた人
2.看護の目的~患者の健康の維持、回復、安らかな死
3.必要な知識~看護の知識・技術、心理学、社会学、福祉学、家政学
4.看護の姿勢~「苦しんでいるのは患者であって看護師ではない」
保健師助産師看護師法5条では、「医師の診療上の補助」ということになっていますが、患者と一番身近に接するのは看護師などですから、そこが「健康」であるかどうかは、とても大事なんだと思います。
ところが、各病院の「看護師接遇マニュアル」とは、いわば看護師の「演技指導」マニュアルでありますが、これは「印象操作」ということです=白衣の天使。患者にあくまでも「共感的」でなければならず、怒りや拒否は「あるまじきこと」とされています。
一方、患者は、十分なケアが得られないことから、欲求不満や不安、孤独に取り残されるとともに、医療事故の恐怖にさらされていると心の底では思っています。
そのため、日々ケアする看護従事者に怒りや暴力が向けられることがあります。
看護師は、ユニフォームに着替えた瞬間に気持ちを切り替え、別人格(=看護師)になるという仮面行為をすることになります。
そうすると、「看護師としての自分」と「本当の自分」が乖離することになります。そしてできるだけ患者と共感しようとして、患者の家族歴を調べたり、患者の心理を理解しようとするなど、「深層演技」を重ねますが、何かにより傷ついた感情は、容易に消え去らないことになります。
「表層演技」と「深層演技=同調」
マニュアル的な接客態度のことを「表層演技」
本心から行おうとする接客態度のことを「深層演技」
本当はつらいのに「つらさを見せてはいけない」と元気に振る舞うと、自分の感情を感じないようにする(否認)ことが常態化することにより、だんだんと自分の気持ちがわからなくなっていきます。
そのストレスのはけ口の一つの証が、喫煙でした。
2006年のJTの調査によると、喫煙率は一般女性の10.5%(JT調査)に対し、看護師は24.5%と高かったのですが、敷地内全面禁煙により7%台(2014年)になりました。
2014年の名古屋大学の調査です。
「健康増進法制定以前の1997年に看護師を対象として行われた調査では、新人看護師の喫煙率は33%と高いという報告もある。(今回の調査で)もっとも喫煙率が高かったのは、主任クラスの対象者で、喫煙率は22.6% (24名中7名)であった。」
「新人看護師は、入職時から、すでに職場での喫煙ができない環境であった。敷地内禁煙である施設の看護師を対象とした調査でも喫煙率は7.1%と低い結果が得られている。」
という実態です。
総括的にいうと、看護師等の「共感疲労」は、PTSDの研究で明らかになってきたものですが、「代理受傷」とか「代理トラウマ」などという二次的PTSDです。これで何らかの精神疾患を発症すると、労災になります。
また、「バーンアウト」は「燃え尽き症候群」と言うことですが、共感や同情の情緒的な蓄えが枯渇してしまうと、疲労困憊してしまうことによってなります。
しかし、「深層演技」が仕事のやりがいになることも大いにあります。大事なのは、「本当は・・・」の部分を自覚しておくこと、できればそれをどこかで発散しておくということです。
他人の力を借りてストレスを軽減することは、一人で抱え込むことを防ぎ、非常に大切なコーピング技術の一つです。 『自分には、どのような人的ネットワークがあるのか?』を実際に把握しておくことで、ストレスに対して多様な選択肢を持って行動することが可能となります。
まあそうはいえ、労働組合の組織としては、「どうにかしなければならん」わけです。
今回提起したのは以下の4点でした。
1.医療機関のリスクアセスメント
2.短時間正職員の導入
3.参加型の職場改善(たとえばPOSITIVEプログラムや各種のアクションチェックリスト)
4.最高のチャンスは、安全衛生委員会
医療機関における労働者は、多くの有害業務にも関与し、「リスクアセスメント」の実施対象としても優先度の高い職場の一つと考えられます。
手法としては、安全衛生委員会による職場巡視がありますが、一つ問題があります。それは、たいていの場合、産業医は自分のとこの医者だということです。したがって、医者というだけで、経営の一端を担う場合も多くあり、中立どころか、経営よりとなっているかもしれないということです。
これを防ぐには、OSHMSの「外部監査機能」を使うと良いでしょう。
「短時間労働」で成功した例として、山形県の「三友堂病院」があります。ビジョンは「有能な人材確保と育成」だとか。
1日の労働時間が短い、または、週の労働日数が少なくても、正職員と同様に、賞与・退職金・有給休暇・福利厚生 など が適用されます。これにより離職率が16.7%から3.6%になったということです。
「参加型の職場改善」はいま注目のシステムです。当センターと労働科学研究所が提携した「POSITIVEプログラム」もありますし、「アクションチェックリスト」を使った労働安全衛生マネジメントシステムもあります。
手法としては、職場巡視の後、「保管と移動」、「ワークステーション」、「器具などの安全」、「有害物質」、「休養施設」などの視点で、グループ討議し、良い点3つ、改善点3つを選び、その理由を発表するなどの活動を積み重ねます。
このプログラムにより、普段忙しくて話もできない人とも話ができますし、職場研修としても、単なる講義型より対話型の方が良い結果が得られます。
グループワークで具体的な課題解決案を検討する~職場横断、職種横断、職種別で開催します。
この手法は、職場改善の視点としては、労働環境のみならず、医療安全の面でも、結果を残せるという研究(労働科学研究所)があります。
ということで、最後はもしかしたら「宣伝」だったのかもしれません。
医療という業種は、特別な業種ではありません。
人の命を扱うという意味は、その他の業種でも同等です。
したがって、他の業種や職場と同様に、採算性は求められますが、快適に労働する環境を求めることは、そこで働く人たちの権利であると思います。当たり前ですけど。
それにしても、同じ意味で、教育の現場にも、様々な問題があると思います。それについては、またいつか。
最後までおつきあいいただけた方がいるかどうかわかりかねますが、とりあえず、ありがとうございました。
ということで、じゃんじゃん。
「な~んだ」と思ったら、閉じてください。
ということで、最初に言い訳をこいてから最終回にかかります。
まず、看護師という職業を考えてみます。
1.看護の対象~健康に問題を抱えた人
2.看護の目的~患者の健康の維持、回復、安らかな死
3.必要な知識~看護の知識・技術、心理学、社会学、福祉学、家政学
4.看護の姿勢~「苦しんでいるのは患者であって看護師ではない」
保健師助産師看護師法5条では、「医師の診療上の補助」ということになっていますが、患者と一番身近に接するのは看護師などですから、そこが「健康」であるかどうかは、とても大事なんだと思います。
ところが、各病院の「看護師接遇マニュアル」とは、いわば看護師の「演技指導」マニュアルでありますが、これは「印象操作」ということです=白衣の天使。患者にあくまでも「共感的」でなければならず、怒りや拒否は「あるまじきこと」とされています。
一方、患者は、十分なケアが得られないことから、欲求不満や不安、孤独に取り残されるとともに、医療事故の恐怖にさらされていると心の底では思っています。
そのため、日々ケアする看護従事者に怒りや暴力が向けられることがあります。
看護師は、ユニフォームに着替えた瞬間に気持ちを切り替え、別人格(=看護師)になるという仮面行為をすることになります。
そうすると、「看護師としての自分」と「本当の自分」が乖離することになります。そしてできるだけ患者と共感しようとして、患者の家族歴を調べたり、患者の心理を理解しようとするなど、「深層演技」を重ねますが、何かにより傷ついた感情は、容易に消え去らないことになります。
「表層演技」と「深層演技=同調」
マニュアル的な接客態度のことを「表層演技」
本心から行おうとする接客態度のことを「深層演技」
本当はつらいのに「つらさを見せてはいけない」と元気に振る舞うと、自分の感情を感じないようにする(否認)ことが常態化することにより、だんだんと自分の気持ちがわからなくなっていきます。
そのストレスのはけ口の一つの証が、喫煙でした。
2006年のJTの調査によると、喫煙率は一般女性の10.5%(JT調査)に対し、看護師は24.5%と高かったのですが、敷地内全面禁煙により7%台(2014年)になりました。
2014年の名古屋大学の調査です。
「健康増進法制定以前の1997年に看護師を対象として行われた調査では、新人看護師の喫煙率は33%と高いという報告もある。(今回の調査で)もっとも喫煙率が高かったのは、主任クラスの対象者で、喫煙率は22.6% (24名中7名)であった。」
「新人看護師は、入職時から、すでに職場での喫煙ができない環境であった。敷地内禁煙である施設の看護師を対象とした調査でも喫煙率は7.1%と低い結果が得られている。」
という実態です。
総括的にいうと、看護師等の「共感疲労」は、PTSDの研究で明らかになってきたものですが、「代理受傷」とか「代理トラウマ」などという二次的PTSDです。これで何らかの精神疾患を発症すると、労災になります。
また、「バーンアウト」は「燃え尽き症候群」と言うことですが、共感や同情の情緒的な蓄えが枯渇してしまうと、疲労困憊してしまうことによってなります。
しかし、「深層演技」が仕事のやりがいになることも大いにあります。大事なのは、「本当は・・・」の部分を自覚しておくこと、できればそれをどこかで発散しておくということです。
他人の力を借りてストレスを軽減することは、一人で抱え込むことを防ぎ、非常に大切なコーピング技術の一つです。 『自分には、どのような人的ネットワークがあるのか?』を実際に把握しておくことで、ストレスに対して多様な選択肢を持って行動することが可能となります。
まあそうはいえ、労働組合の組織としては、「どうにかしなければならん」わけです。
今回提起したのは以下の4点でした。
1.医療機関のリスクアセスメント
2.短時間正職員の導入
3.参加型の職場改善(たとえばPOSITIVEプログラムや各種のアクションチェックリスト)
4.最高のチャンスは、安全衛生委員会
医療機関における労働者は、多くの有害業務にも関与し、「リスクアセスメント」の実施対象としても優先度の高い職場の一つと考えられます。
手法としては、安全衛生委員会による職場巡視がありますが、一つ問題があります。それは、たいていの場合、産業医は自分のとこの医者だということです。したがって、医者というだけで、経営の一端を担う場合も多くあり、中立どころか、経営よりとなっているかもしれないということです。
これを防ぐには、OSHMSの「外部監査機能」を使うと良いでしょう。
「短時間労働」で成功した例として、山形県の「三友堂病院」があります。ビジョンは「有能な人材確保と育成」だとか。
1日の労働時間が短い、または、週の労働日数が少なくても、正職員と同様に、賞与・退職金・有給休暇・福利厚生 など が適用されます。これにより離職率が16.7%から3.6%になったということです。
「参加型の職場改善」はいま注目のシステムです。当センターと労働科学研究所が提携した「POSITIVEプログラム」もありますし、「アクションチェックリスト」を使った労働安全衛生マネジメントシステムもあります。
手法としては、職場巡視の後、「保管と移動」、「ワークステーション」、「器具などの安全」、「有害物質」、「休養施設」などの視点で、グループ討議し、良い点3つ、改善点3つを選び、その理由を発表するなどの活動を積み重ねます。
このプログラムにより、普段忙しくて話もできない人とも話ができますし、職場研修としても、単なる講義型より対話型の方が良い結果が得られます。
グループワークで具体的な課題解決案を検討する~職場横断、職種横断、職種別で開催します。
この手法は、職場改善の視点としては、労働環境のみならず、医療安全の面でも、結果を残せるという研究(労働科学研究所)があります。
ということで、最後はもしかしたら「宣伝」だったのかもしれません。
医療という業種は、特別な業種ではありません。
人の命を扱うという意味は、その他の業種でも同等です。
したがって、他の業種や職場と同様に、採算性は求められますが、快適に労働する環境を求めることは、そこで働く人たちの権利であると思います。当たり前ですけど。
それにしても、同じ意味で、教育の現場にも、様々な問題があると思います。それについては、またいつか。
最後までおつきあいいただけた方がいるかどうかわかりかねますが、とりあえず、ありがとうございました。
ということで、じゃんじゃん。
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