ヨーロッパ人の1/3が死んだ「黒死病」、歴史の教訓2020年05月07日 10:59

労働力不足で社会が崩壊、急拡散の背景に当時の「教え」

 「あたらしい生活様式」というものが求められている。要するに今までの「多生産多消費」はもう通じなくなったということなのだが、一朝一夕に意識が変えられるだろうか。
 
 ペストのパンデミックはこれからの社会を予見させる。

  西暦1347年のある日、地中海の港に停泊した大型帆船から、歴史上最も危険な疫病の1つが解き放たれた。「黒死病」だ。

 積荷や乗客に紛れて上陸したネズミたちには、病原菌をもつノミが付いていた。同じことがヨーロッパじゅうの港で繰り返された結果、1347年から1351年にかけてヨーロッパを襲った黒死病のパンデミックは史上最悪の規模となり、ヨーロッパの人口の3分の1が命を落としたとされる。

 黒死病の正体がアジアとヨーロッパで周期的に流行する腺ペストだったことに、ほとんどの歴史学者が同意している。腺ペストはペスト菌が引き起こす疾患で、6世紀にビザンチン帝国(東ローマ帝国)で大流行して2500万人の命を奪った「ユスティニアヌスの疫病」も同じものだった。

 1894年に日本の北里柴三郎とフランスのアレクサンドル・イェルサンという2人の細菌学者が同時期にペスト菌を発見した。

 のちにエルシニア・ペスティスと命名されたこの細菌は、ネズミなどの小型げっ歯類に寄生するノミによって媒介される。ノミの体内で増殖したペスト菌は、ノミが噛みついた際に相手の体内に送り込まれる。通常、ペスト菌はノミとげっ歯類の間を行き来するだけだが、一定の条件下では、ノミの宿主であるげっ歯類を皆殺しにしてしまい、ノミは別の宿主を探さざるをえなくなる。それが人間だ。ペストは動物から人間に伝染する動物由来感染症(ズーノーシス)なのである。

 ペスト菌が人々の家庭に忍び込むと、16〜23日後になってようやく最初の症状が出る。症状が出て3〜5日後には患者は死亡する。コミュニティーが危険に気づくのはさらに1週間後で、その頃にはもう手遅れだ。ペスト菌は患者のリンパ節に移行し、腫れ上がらせる。患者は嘔吐し、頭痛に苦しみ、高熱によりガタガタと震え、せん妄状態になる。

 リンパ節が腫れ上がるペストは「腺ペスト」と呼ばれる。しかし、これはペストの3つの病型のなかの最も一般的なものにすぎない。第2の病型である敗血症性ペストはペスト菌が血液中に入ったもので、皮膚の下に黒い斑点が現れ、おそらく「黒死病(Black Death)」という名前の由来となった。肺ペストでは呼吸器系がおかされ、患者は激しく咳き込むので、飛沫感染しやすい。中世には敗血症性ペストと肺ペストの致死率は100%だったと言われる。

 黒死病がこれほど速く、広大な領域に広まったのはなぜか、歴史学者も科学者も不思議に思っていた。「これだけ速く広まったのは飛沫感染したからであり、主な病型は腺ペストではなく肺ペストだった」と主張する研究者もいる。しかし、肺ペストはむしろゆっくり広がる。患者はすぐ死に至り、多くの人に広めるほど生きられないからだ。

 大半の証拠は、黒死病の主な病型は腺ペストであること、ノミだらけのネズミや旅人が船に乗ることで遠くまで広めたことを示している。海上貿易が拡大していったこの時代、食料や日用品は、国から国へと、どんどん長い距離を運ばれるようになっていた。これらと一緒に、ネズミや細菌も1日に38kmのペースで広まっていった。

 黒死病の犠牲者は膨大な数に上ったと推定されているが、具体的な数字については論争がある。パンデミック前のヨーロッパの人口は約7500万人だったが、1347年から1351年までの間に激減して5000万人になったと見積もられている。死亡率はもっと高かったと見る研究者もいる。

 人口が激減したのは、黒死病に罹患した人々が死亡しただけでなく、畑や家畜や家族の世話をする人がいなくなり、広い範囲で社会が崩壊したからである。中世のパンデミックが終わったあとも小規模な流行は続き、ヨーロッパの人口はなかなか回復しなかった。人口増加が軌道にのってきたのは16世紀頃である。

 大災害の影響は生活のあらゆる領域に及んだ。パンデミック後の数十年間は労働力不足により賃金が高騰した。かつての肥沃な農地の多くが牧場になり、村が丸ごと打ち捨てられることもあった。英国だけで1000近い村が消えた。地方から都市に向かって大規模な移住が起きたため、都市は比較的速やかに回復し、商業は活気を取り戻した。田舎に残った農民は遊休地を手に入れ、土地を持つ農民の権力が増し、農村経済が活性化した。

 実際、歴史学者たちは、黒死病から新しい機会や創造性や富が生まれ、そこからルネサンスの芸術や文化や概念が開花し、近代ヨーロッパが始まったと主張している。

 いま新たな脅威が起きようとしている。
 それはおそらく食糧危機だろう。
 農業は多くの人手で成り立っているが、日本はその成果たる農産物を国民の食糧の6割以上外国からに頼っている。
 まずこれは工業生産品の輸出の代償としての政策結果らしいが、世界が順調ならまだしも、まったく不調な今日に食料政策の無策のしっぺ返しを食らうだろう。
 特に東京など人口密集地域では飢餓問題になるかもしれない。

 それともう一つは先の記事にもある通り、深刻な労働力不足が大きな社会変革をもたらすだろうということ。
 コロナ前の現状で日本の労働事情は100万人を超える外国人労働で成り立ってきた。
 したがって、「元に戻る」ためには、たとえ国内のコロナが終息したにしても、コロナが猛威を振るってるだろう諸外国からの労働移動によって、第3次、第4次のピークを覚悟するか、それとも外国労働に依存する「多生産」体制を考え直すかの選択が迫られるだろう。

 これからの生き残りを考えると、特に企業は従業員の生活環境ときょう活動におけるリスク分散を考慮して、過密都市からの脱皮にいち早く取り組む企業が残れるということになる。

はてはて、それはどこだ?
じゃんじゃん。

世界各国の新型コロナ対策、明暗分かれた原因は?2020年05月13日 09:45

 世界各地の感染症情報を伝えるメーリングリスト「ProMED-mail」に、4カ月前「中国の武漢で原因不明の肺炎が発生」という情報が流れた。新型コロナウイルスの大流行が始まることをしらせる最初の警告だ。現在、COVID-19は6大陸に広がり数十万人の死者を出し、世界的な経済危機も引き起こしている。

 英インペリアル・カレッジ・ロンドンなどの世界中の研究グループは、各国における感染速度の抑制方法に劇的な違いがあること、そしてどの対策が全体として最も効果的だったかをデータで明らかにした。感染拡大の抑制に関して、他よりはるかにうまくやった国や州、都市もわかった。

 まずはドイツとスウェーデンを例に比べてみよう。両国における最初の感染報告は共に2020年1月下旬で、4日しか違わなかった。どちらも医療資源があり、欧州でも豊かな国だ。にもかかわらず、Webサイト「Our World in Data」によれば、スウェーデンの1万人当たりの死者数はドイツの3倍にも達した。一方のドイツは、5月に入って段階的な制限緩和へと進んでいる。

「迅速で包括的な新型コロナ対策が、この対照的な結果をもたらした可能性が高いです」と話すのは、インペリアル・カレッジ・ロンドンMRCアウトブレイク分析センターで働く感染症疫学者ニコラス・グラスリー氏だ。

 いわゆる「アウトブレイク(感染爆発)」に対して防衛線を展開したのは、ドイツが早かった。「検査」「接触者の追跡」「国境の制限」などの封じ込め対策で、感染を完全に止めようとした。また「社会的制限措置」と呼ばれる対策もスウェーデンより数日早く開始している。学校の閉鎖、公共イベントの禁止、感染拡大を防ぐための外出禁止など、より厳しい制限もいち早く実施した。ちなみに5月1日時点でも、スウェーデンは完全封鎖を発令していない。

高リスクのグループを検査する

 COVID-19が自国で確認されてからの各国の反応を評価する際に、専門家らが注目するのが人口当たりの検査数だ。アウトブレイクを抑えたとされる国々(韓国、ドイツ、ベトナム、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランド)はすべて、この検査率を高めることから始めた。初期の情報から、どのグループがどのくらいの頻度で検査を受けるかが重要であることも示された。

「医療従事者など、高リスクのグループを対象とした検査が、最も効果的であることがわかりました」とグラスリー氏は話す。確かにスペインなど、被害が大きかった所では、医療従事者が全感染者の20%を占めている。インペリアル・カレッジ・ロンドンMRCセンターからの最近の報告では、医療従事者やその他のリスクのあるグループを毎週検査することで、感染率を3分の1減らすことができたと推定している。

 ただ、こう話す同氏も「検査は万能ではない」と付け加える。というのも、症状が現れることなく感染する事例が多発しているからだ。このため、大量の調査員を動員したり、スマートフォンのアプリを開発したりすることで、「接触者」(感染者に接触した人)追跡の網を広げる新しい取り組みが多数登場した。広範な検査と積極的な接触者の追跡で、感染拡大を抑えた国もある。「接触者が見つかったらまずは隔離し、解放後も安全になるまで継続的に検査する必要がある」とグラスリー氏は言う。

ルールに従う

 初期にCOVID-19が流行した地域では、検査、接触者の追跡、隔離などの封じ込め対策で、多くの問題が発生した。このため、アフリカなど、最近になって新型コロナに襲われた国は、「社会的距離」「学校閉鎖」「在宅勤務」などの社会的制限を即座に実行に移した。

「多くのアフリカ諸国は、すぐに制限を実施しました」とエル=サドル氏は話す。同氏が所属するICAPは、アフリカ諸国との仕事を20年近くしてきた。「西欧や米国で起きたことを見て、封じ込めはうまくいかないと、アフリカ諸国は確信したのです」

 しかし、こうした社会的制限も、国民が義務や公式ガイドラインに対応しなければ、効果が異なる可能性がある。これは、その国の文化が大きく影響する要素だ。2008年のある調査では、ヨーロッパ8カ国の7000人以上に、キスや握手から対面での会話まで、日々の社会的接触に関して日記をつけてもらった。その結果、社会的交流の違いにより、特定の国では、呼吸器ウイルスが急速に拡散する可能性が高いと予測された。

「病気の感染につながるような接触者数は、イタリアでは1日平均20人だったのに対し、ドイツでは8人でした」とグラスリー氏は話し、この傾向はCOVID-19にも当てはまると考えられると付け加えた。

 GoogleやAppleをはじめとする巨大IT企業が、スマートフォンの匿名化したデータの共有を始めたため、公衆衛生の研究者は、制限命令に対する世間の反応を評価できるようになった。こうしてわかったことの1つは、人々が緊急事態宣言を気にかけず行動するように見えることだ。

 ノースイースタン大学のベスピニャーニ氏のグループが、米国の主要都市における移動データを調べたところ、市、州、国家がCOVID-19の緊急事態宣言を出した後でも、ほとんどの人が外に出ることをやめていないことがわかった。多くの都市で、徐々に外出や移動が減るが、通常時の50%未満に減少するのは完全な外出禁止令が出された後だった。

「私たちが個人として何をするのか。私たちの行動が、感染拡大の傾向や軌跡を変えられるのです」とベスピニャーニ氏は話す。

 興味深いことに、どのリーダーのメッセージが、人々の行動を変えることに成功したのかに関しても、移動データから明らかになっている。ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は、2月下旬から定期的にFacebookのライブ動画で国民に率直に話しかけたことで称賛された。実際、1カ月後に封鎖を実施した際、移動が激減し、政府の政策が幅広く支持されていたことがうかがえる。

 国がこのパンデミックを乗り越えるうえでは、わかりやすく共感できるメッセージが基本になるだろうと、エル=サドル氏は言う。ワクチン開発に時間がかかり、自然免疫が弱まると、世界の多くの地域でウイルスの複数の波が発生し、感染者の増減が繰り返されるかもしれない。つまり、封じ込め期と社会的制限期の間を、行ったり来たりすることになる。

「必要なのは、非常に明確かつ一貫したメッセージです」とエル=サドル氏は語る。「人々は、こうしたメッセージを渇望しています。明快なものを求めているのです」

 だとさ。
 維新の会の支持率が大阪の吉村知事のおもtづらから上がっているらしいけど、あの裏にいるのは例の松井や橋本であり、それを動かしている二階であることをわすれちゃあならんわね。

 じゃんじゃん。

 ところで、今の状況は、100年前にもあったのですね。
 あの「スペイン風邪」というやつで、国内では3次の波が2年間にわたり押し寄せ、およそ50万人が死亡したということです。
 それが今のCOVID-19となにがちがうのかというと、医学的なレベルはもちろん違いますが、ウイルスの治療や予防の方法がわからないということでは全く変わりがなく、社会環境としては、当時もマスクはあったようで、違うのは「水道があるかないか」「密度の防止」の2点だそうです。密度の防止はラジオもテレビもない時代に情報を求めて人が集まるのは防ぎようがなかったということです。
 しかし100年も前なら忘れちゃったんだろうね。

 こんな新興感染症は忘れたころにやってくるんじゃあなくて、ほぼ毎年やってくるんだよ。SARS やMERSはよく出るけど、そのほか鳥インフルや豚コレラなんかは毎年じゃあないですかね。
 それと、抗生物質の進歩と耐性菌とのまさにイタチごっこのなかで、人間さまはいきていくのだあよ。

 さて、生き延びるのはなにだろうか。

 また、ところでなんだけど、最近、虫が少ないと思わないですか?
 はてさて、どうしてでしょうね。

新型コロナ、気づかぬうちに重症化する「サイレント低酸素症」2020年05月22日 10:49

自宅生活中にこんな症状が出てきたら危険なサインかも

 患者の家を訪れたノルウェーの医師マリ・セイム氏は当惑していた。

 その60代男性の体調が変化したのは1週間以上前のこと。インフルエンザのような症状を示し、呼吸数が上昇しているという。セイム氏は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を強く疑いながら男性の家に向かったが、そこで目にしたのは予想外の光景だった。

「その男性は椅子に腰掛けて、ほほ笑んでいたんです」とセイム氏は言う。「少しも具合が悪そうには見えませんでした」

 それでも男性の呼吸は速く、通常の3倍ほどのスピードだった。唇と指がかすかに青白くなっていた。男性がどれほど深刻な状態にあるかをセイム氏が本当に理解したのは、血液中の酸素飽和度を測定したときだった。正常だと90%を大きく超えるはずが、セイム氏が確認した数値は66%だった。一瞬、セイム氏は装置が故障しているのではないかと考えた。もう一度確認したがやはり66%で、セイム氏はすぐに救急車を呼んだ。

 この男性が示していた症状は「無症候性(サイレント)低酸素症」。COVID-19の患者に広く見られるものの、初期には見落とされていた特徴である。ほかの呼吸器疾患とは異なり、COVID-19は初期段階でさほど息切れを起こすことなく、ゆっくりと体内から酸素を奪ってゆく。患者が呼吸困難や胸部の圧迫感を感じるころには、すでに重篤な状態になっていることもある。

 無症候性低酸素症に驚かされる医師は少なくない。患者の中には、錯乱していてもおかしくないほど酸素が欠乏している者もいるのに、彼らは意識をはっきりと保ち、落ち着いて質問に受け答えをし、携帯電話も使える。科学者たちは、なぜCOVID-19がこのような症状を引き起こすのか、どのように体を蝕むのかを理解しようとしている。

息切れが起きない理由

 息切れ(呼吸困難)は多くの場合、肺組織の弾力性の低下と並行して起こる。呼吸器疾患の多くでは、炎症などによって肺が硬化するが、それは体内の二酸化炭素の排出能力にも影響を与える。体内の二酸化炭素濃度が高まると、通常はそれがトリガーとなって呼吸の衝動が引き起こされる。二酸化炭素濃度の上昇によって脳に発せられる緊急警報が、つまりは息切れの正体だ。

 COVID-19の患者の場合、病気の発症時には、どうやらこうしたトリガーが働いていないようだと、米ペンシルベニア大学で肺疾患および救命救急を担当する医師キャメロン・バストン氏は言う。通常であれば警報のトリガーとなるはずの二酸化炭素の増加が起こらないまま、酸素がひっそりと危険なレベルまで低下するというのだ。

「肺に問題がある場合、ほぼすべての臨床例において、酸素の吸収と二酸化炭素の排出の両方の問題を含んでいます」と、米国ニューヨークのベルビュー病院でCOVID-19の肺炎治療に10日間、ボランティアで協力した救急医のリチャード・レビタン氏は言う。「ただしこの病気は例外です」

 無症候性低酸素症は、以前から高山の登山者やパイロットの間で見られた。高度が上がると気圧が下がり、呼吸に利用できる酸素は少なくなるが、呼吸が速くなることで、二酸化炭素の排出は継続して行われる。高度障害とCOVID-19では、原因も治療法も大きく異なると、レビタン氏は強調する。ただし、酸素の減少に対する体の反応のひとつとして呼吸が速くなるという点はよく似ている。

 こうしたプロセスは飛行機のパイロットでも確認されていると、ノルウェー特殊作戦司令部の医師であり、減圧治療を専門とするウィリアム・オッテスタッド氏は語る。「無症候性低酸素症はその特徴から、サイレントキラーとも呼ばれます」。その理由は、機内の圧力が急激に低下すると、パイロットが意識不明に陥り、飛行機を墜落させてしまうことがあるからだ。

 無症候性低酸素症を早期に発見できると、COVID-19の症状改善に効果があるかどうかについては、まだ十分な研究が行われていない。それでも、低酸素症が長期化すれば、心臓やその他の体内システムに負担がかかる可能性があり、またバストン氏の指摘によると、補充酸素を投与された慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者は、平均余命が改善されているという。

肺で何が起きている?

 現在のところ、コロナウイルスがどのように低酸素症を引き起こすのかについては、まだわかっていないことが多いと、オッテスタッド氏は言う。ただし仮説は存在する。

 仮説の一つは、肺から血管へ酸素が移動する際に通過する「肺胞」が関係している。新型コロナウイルスは、ヒトの細胞表面にあるたんぱく質受容体に結合することで侵入する。この受容体は、肺全体にも肺胞にも豊富に存在している。

 ウイルス侵入によって肺胞の細胞が損傷すると、肺胞から血液への酸素の通過が妨げられる可能性がある。一方で、二酸化炭素は、酸素よりも容易に血液から肺へと移動するため、さほど大きな影響を受けないと、オッテンスタッド氏は述べている。

 もう一つの仮説は、肺の中の酸素移動と血液の流れにすれ違いがあるというもので、全米ユダヤ医療研究センターの呼吸器科医ウィリアム・ヤンセン氏が提唱している。通常、肺の中でも空気が多く通る領域には多くの血液が流れ、酸素を取り込みやすくしている。しかしこの機能が、COVID-19の患者では正常に働いていない可能性がある。つまり、損傷を受けた肺の領域により多くの血液が流れ込み、健康な部分への血流が少なくなっているのだ。

 酸素が豊富な領域へせっかく血液が流れても、それが血管内にある小さな血栓によって妨げられることもあると指摘するのは、医療機関ジョンズ・ホプキンス・メディスンのイーニッド・ネプチューン氏だ。

 血液が凝固しやすくなることが、COVID-19の患者の死因になっている可能性を指摘する声は少なくない。一部では、患者に抗凝血剤を使用して血液凝固を防ぐことも議論されているが、ヤンセン氏は、この手法を普及させる前に、まずは大規模な試験を行うべきだと警告している。

 また、COVID-19に見られる無症候性低酸素症のメカニズムは、この病気特有のものではない可能性もあるとバストン氏は言う。少ない症例ではあるものの、氏が過去に診た患者の中には、細菌性肺炎など、ほかの病気が原因で無症候性低酸素症になった人もいるという。

心配な人は

 現在、多くの医療専門家が、症状が進行していない限り、人工呼吸器の使用を控えることを提案している。その代わりに試みられるようになっているのが、酸素を補充したり、患者をうつぶせに寝かせて酸素の流れを良くしたりするなど、体内への機器の挿入を伴わない初期段階での支持療法だ。

 レビタン氏は、COVID-19が引き起こす無症候性低酸素症への認知を高めることで、人工呼吸器が必要なほど重篤化する前に、人々が早い段階で病院に向かってくれるのではないかと述べている。家庭用のパルスオキシメーター(動脈血の酸素飽和度と脈拍数を測定する装置)も、COVID-19の諸症状を発症した患者をモニターするのに役立つと、レビタン氏は言う。

 ノルウェーの複数の医療施設とスペインの大学の共同研究では、COVID-19の患者の協力を得て、パルスオキシメーターを含むさまざまな検査装置を使って、患者の状態の遠隔追跡を行っている。この研究が目指すのは、病気の進行を早期に発見すること、また軽症の患者が医療施設に長く滞在しなくてもすむようにすることだ。

 医師たちは一般に、家庭用パルスオキシメーターの使用が病気の進行を監視するのに有用であることに同意している。しかしヤンセン氏は、この機器の使用にあたっては、必ず医療の専門家に相談するよう強調している。COVID-19に対する恐怖が拡大する中、人々が医療施設に行って感染する危険を避けようとして、医師と話をすることなく自己診断を行うようになっているのではないかと、ヤンセン氏は危惧している。

 しかし、家庭用のパルスオキシメーターが売り切れらしいのですよ。
 じゃんじゃん。