第22回産業ストレス学会の報告 6 ― 2014年12月10日 14:42
<産業ストレスに関わる専門職の連携について>
私は、精神科医として労働者を中心とした精神科診療に、また公的な機関や企業の精神科非常勤産業医として、事業所の健康管理室や人事労務担当者と関わっているが、いずれの場においても役割の違う、あるいは職種の異なる専門職との連携協働がうまく機能していないように感じることも少なくない。
精神科(心療内科)診療のなかで、精神保健福祉士や心理職、看護師との連携、さらに薬剤師との連携協働は必須と考えられるが、診療報酬の問題、協働することに対する意識の問題や教育の問題等があり、なかなかうまく機能していないのが、実状と考えられる。
特に心理職、福祉職との迷携は、精神科診療で精神科医が一定の時間しか取れない以上、必須のことである。
また私が経験する産業精神保健現場での精神科医の役割は一定ではない。大きく分けて、職場内診療所で精神疾患の診療を行う場合と精神疾患のみの相談や復職判定、復職支援プログラムの作成などを行う“産業精神科医”としての対応を要する場合がある。
前者の場合でも、一医療機関ではなく職場内診療所で診断治療を行う以上、産業医的な配慮と産業保健スタッフとの連携が大切である。
また、後者の場合には、産業医等産業保健スタッフや人事労務担当者、管理監督者等の連携・協働も必要になる。
さらに、精神科主治医と事業所の産業保健スタッフや人事労務担当者との連携については、職域に関連する諸学会で、シンポジウム等が組まれることもあり、お互いの立場、役割を尊重しながら、どのように連携・協働していくかは大切なテーマである。
精神科医療現場での多職種との連携、産業精神保健現場での精神科医としての役割と協働、そして精神科主治医と産業保健スタッフや人事労務担当者との連携について、その実際、そして問題点や困難さについてまとめることにより、労働とこころの健康の調和について考察していきたい。
1.極めて少ない精神科のスタッフ
全国に3,689の精神科診療所があるが、医師は3,936いるものの、医師以外のスタッフは9,361となっている。
特にその中で医師や医療スタッフの協働が少ない。何を協働するかと言うことになると、それは「受理面接(インテーク)」は精神科ソーシャルワーカーであり、治療は精神科医が行い、心理査定は臨床心理士等の心理職が担当することになる。これらを経て、インテーク・カンファレンスを行い、治療方針が決まっていく。治療とは、薬物療法、心理療法、環境調整などとなる。
協働という観点になると、医師は患者よりのスタンスになる一方、スタッフによる評価や対応では科学的に対応する必要が求められ、お互いに専門性を理解し尊重することと、その権限を越えないことが重要である。
2.事業所から見た精神科医とは
・診断書の病名や休業期間が曖昧でわかりにくい。(診断には月程度の期間が必要となる)
・何でも休業させる(生活に支障が出ている場合や本人の希望に出来るだけ沿うことが信頼の手始めである)
・患者の希望で復職診断書を記載する(生活の窮状を訴えられる)
・薬物療法中心で、心理療法(カウンセリング)や心理教育がない。
3.精神科医が休業を進める理由
・病状から出勤できないと推測できる。
・出勤を続けることによりさらなる悪化をきたす、あるいは事故や自殺などの危険性があある。
・職場に原因がある場合、職場から遠ざける必要性を認める。
※ただし、職場の状況は本人からの訴え以外に資料がない。
以上の理由で、休業を指示するときに説明しなければならないことは、
・休業が必要な精神医学的根拠及びその目的。
・休業は医師が主体的に行う判断であること。
・休業は療養に専念することが前提になっていること。
・職場にも療養に専念できるような配慮があると考えられること。
※人事的配慮はまだ先の課題。
4.診断書の病名や休業期間が曖昧な理由
・状態像での病名記載(抑うつ状態、不安状態など)である。
・診断名の不確かさ(PTSD、適応障害など、患者サイドからの情報から判断)がまだある。
・正しい診断名を記載できないという場合も(病名への誤解、啓発が不十分など)ある。
・休業期間については、初期の段階で経過の予測が難しいため。
5.産業保健←→精神科医(主治医)
<主治医に>
・産業保健スタッフや管理者同伴面談に無理解だ。
・復職に向けての心理教育や判断が不十分。
・診断書に職場の人事や処遇などに関わる要望内容を記載している。
<産業医・スタッフに>
・産業医の復職面談で説教や圧迫面接している。無理解や復職引き延ばしがある。
・復職可能診断書の処理が遅れがち。
・復職時の配慮について意見書を求めながら、結果的に無視することがある。
・事業所の事務処理を優先した診断書を要求する。
・見通しの立たない段階で診断書を要求する。
6.協働が機能するために
・それぞれの職種の専門性を尊重する。
・それぞれの役割、位置づけを尊重する。
・職種や役割を逸脱しない(越権行為をしない)。
・コンダクターの存在が必要。
※どの職種も「協働」については学業教育の段階でなされていないことが問題の根幹にある。
私は、精神科医として労働者を中心とした精神科診療に、また公的な機関や企業の精神科非常勤産業医として、事業所の健康管理室や人事労務担当者と関わっているが、いずれの場においても役割の違う、あるいは職種の異なる専門職との連携協働がうまく機能していないように感じることも少なくない。
精神科(心療内科)診療のなかで、精神保健福祉士や心理職、看護師との連携、さらに薬剤師との連携協働は必須と考えられるが、診療報酬の問題、協働することに対する意識の問題や教育の問題等があり、なかなかうまく機能していないのが、実状と考えられる。
特に心理職、福祉職との迷携は、精神科診療で精神科医が一定の時間しか取れない以上、必須のことである。
また私が経験する産業精神保健現場での精神科医の役割は一定ではない。大きく分けて、職場内診療所で精神疾患の診療を行う場合と精神疾患のみの相談や復職判定、復職支援プログラムの作成などを行う“産業精神科医”としての対応を要する場合がある。
前者の場合でも、一医療機関ではなく職場内診療所で診断治療を行う以上、産業医的な配慮と産業保健スタッフとの連携が大切である。
また、後者の場合には、産業医等産業保健スタッフや人事労務担当者、管理監督者等の連携・協働も必要になる。
さらに、精神科主治医と事業所の産業保健スタッフや人事労務担当者との連携については、職域に関連する諸学会で、シンポジウム等が組まれることもあり、お互いの立場、役割を尊重しながら、どのように連携・協働していくかは大切なテーマである。
精神科医療現場での多職種との連携、産業精神保健現場での精神科医としての役割と協働、そして精神科主治医と産業保健スタッフや人事労務担当者との連携について、その実際、そして問題点や困難さについてまとめることにより、労働とこころの健康の調和について考察していきたい。
1.極めて少ない精神科のスタッフ
全国に3,689の精神科診療所があるが、医師は3,936いるものの、医師以外のスタッフは9,361となっている。
特にその中で医師や医療スタッフの協働が少ない。何を協働するかと言うことになると、それは「受理面接(インテーク)」は精神科ソーシャルワーカーであり、治療は精神科医が行い、心理査定は臨床心理士等の心理職が担当することになる。これらを経て、インテーク・カンファレンスを行い、治療方針が決まっていく。治療とは、薬物療法、心理療法、環境調整などとなる。
協働という観点になると、医師は患者よりのスタンスになる一方、スタッフによる評価や対応では科学的に対応する必要が求められ、お互いに専門性を理解し尊重することと、その権限を越えないことが重要である。
2.事業所から見た精神科医とは
・診断書の病名や休業期間が曖昧でわかりにくい。(診断には月程度の期間が必要となる)
・何でも休業させる(生活に支障が出ている場合や本人の希望に出来るだけ沿うことが信頼の手始めである)
・患者の希望で復職診断書を記載する(生活の窮状を訴えられる)
・薬物療法中心で、心理療法(カウンセリング)や心理教育がない。
3.精神科医が休業を進める理由
・病状から出勤できないと推測できる。
・出勤を続けることによりさらなる悪化をきたす、あるいは事故や自殺などの危険性があある。
・職場に原因がある場合、職場から遠ざける必要性を認める。
※ただし、職場の状況は本人からの訴え以外に資料がない。
以上の理由で、休業を指示するときに説明しなければならないことは、
・休業が必要な精神医学的根拠及びその目的。
・休業は医師が主体的に行う判断であること。
・休業は療養に専念することが前提になっていること。
・職場にも療養に専念できるような配慮があると考えられること。
※人事的配慮はまだ先の課題。
4.診断書の病名や休業期間が曖昧な理由
・状態像での病名記載(抑うつ状態、不安状態など)である。
・診断名の不確かさ(PTSD、適応障害など、患者サイドからの情報から判断)がまだある。
・正しい診断名を記載できないという場合も(病名への誤解、啓発が不十分など)ある。
・休業期間については、初期の段階で経過の予測が難しいため。
5.産業保健←→精神科医(主治医)
<主治医に>
・産業保健スタッフや管理者同伴面談に無理解だ。
・復職に向けての心理教育や判断が不十分。
・診断書に職場の人事や処遇などに関わる要望内容を記載している。
<産業医・スタッフに>
・産業医の復職面談で説教や圧迫面接している。無理解や復職引き延ばしがある。
・復職可能診断書の処理が遅れがち。
・復職時の配慮について意見書を求めながら、結果的に無視することがある。
・事業所の事務処理を優先した診断書を要求する。
・見通しの立たない段階で診断書を要求する。
6.協働が機能するために
・それぞれの職種の専門性を尊重する。
・それぞれの役割、位置づけを尊重する。
・職種や役割を逸脱しない(越権行為をしない)。
・コンダクターの存在が必要。
※どの職種も「協働」については学業教育の段階でなされていないことが問題の根幹にある。
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