第22回産業ストレス学会の報告 9 ― 2014年12月16日 10:15
<メンタルヘルス不調に関する法的諸問題~最近の労災認定判例を中心に~>
「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平成23年12月26日基発1226第I号)の発出以降に労働者が発症または増悪した(以降「発症等」という)精神疾患に対する労災認定率が上昇していることが指摘されている。
また、精神疾患を発症等した労働者が、労基署長による労災保険給付の不支給処分の取消を求める行政訴訟、及び、労働者が精神疾患を発症等したことに起因して、使用者に損害賠償を求める労災民事訴訟の件数がいずれも増加しているとの指摘もある。
前者の行政訴訟における最も主要な争点は、労働者が発症等した精神疾患に「業務起因性」があか否かの問題であり、後者の民事訴訟における最も主要な争点は労働者の発症した精神疾患に業務起因性がある場合に、当該発症等について使用者に安全配慮義務の違反があるか否かの問題である。
ところで、労働者が発症等した精神疾患に業務起因性が認められるためには、当該労働者が従事していた業務自体が、社会通念に照らして、当該精神疾患を発症等させる一定程度以上の強度の危険性を内在、または随伴していることが必要であるとするのが裁判例の大勢である。
また、最高裁平成12年3月24日(電通事件)判決を経て、現在では、使用者の、労働者の精神疾患に対する安全配慮義務の具体的内容は、
①労働者の労働時間や職務内容等の労働実態を正確に把握する義務、
②労働者の心身の健康状態を正確に把握する義務
③把握した労働実態と健康状態を基に労働者が精神疾,患を発症等しないように適切な揚置を講ずる義務
から成るとされている。
そこで、業務起因性の存在及び安全配慮義務の違反を肯定する際の裁判所の考え方を分析的に検討することにより、精神疾患によって休職していた労働者が、復職する際に必要とされる配慮を含め、使用者が労働者の心の健康に関する安全配慮義務を尽くす際に、産業保健スタッフに期待されている法的な役割を考察する。
以下、参考となる判例を示す。
※労判~労働判例、最判~最高裁判例、労経速~労働経済判例速報
<企業の責任>
富士電機E&C事件 H18.1.18 名古屋地裁 労判918-65
<産業医の位置づけと職務>
三菱電機事件 H11.11.25 静岡地裁 労判786-46
(財)大阪市K協会事件 H23.10.25 大阪地裁 (未掲載)
富士通BSC事件 H24.8.21 東京地裁 労経速2156-22
<業務上・外の判定>
東芝事件(解雇制限) H26.3.24 最判 (民訴が先 理由~求償できない)
トヨタ自動車事件(相当因果関係) H15.7.8 名古屋高裁
川崎重工事件(認定基準) H22.9.3 神戸地裁
四国化工機工業事件(平均的・もっとも脆弱) H21.12.25 高松高裁
<認定基準を判決で尊重>
ヨコハマズボルタ事件 H24.11.28 東京地裁 労判1069号63頁
富士通京都事件(いじめ) H22.6.23 大阪地裁 労判1019号75頁
アテスト(ニコン熊谷 派遣) H17.3.31 東京地裁 労判894号21頁
<環境的要因>
日本電気事件(長時間労働)H22.3.11 東京地裁
トヨタ自動車事件(労働密度・残業規制)H15.7.8 名古屋高裁
マツダ自動車事件(持ち帰り残業) H23.2.28 姫路地裁
大丸松坂屋(労働時間・持ち帰り) H26.1.17 東京地裁 労判961-68
南田市役所事件(質的過重) H18.6.2 高知地裁 労判926-82
長田消防署事件(質的過重) H15.12.11 大阪高裁 労判869-59
粕屋農協事件(質的過重) H21.5.19 福岡高裁 労判993-76
モンタボー事件(過重) H21.1.14 大阪地裁 労判990-214
土浦協同病院(過重自殺) H17.2.22 水戸地裁 労判891-41
十全総合病院(過重自殺) H19.5.28 大阪地裁 労判942-25
佼成病院(過重自殺) H19.3.14 東京地裁 労判941-57
日本トランスシティ事件 H21.5.28 名古屋地裁 労判1003-74
富士通ソーシャルサイエンスラボ事件 H23.3.25東京地裁 労判1032-65
フォーカスシステムズ事件 H24.3.22 東京高裁 労判1051-40
<パワハラ>
日研化学事件 H19.10.15 東京地裁 労判950-5
中部電力事件 H19.10.31 名古屋高裁 H19.10.31 労判954-31
日本ヘルス工業事件 H19.11.12 大阪地裁 労経速1989-39
小田急レストランシステム事件 H21.5.20 東京地裁 労判990-119
前田道路事件 H21.4.23 高松高裁 労判990-134
ザ・ウインザーホテル事件(通常人が許容できる・・・) H24.10.19 札幌高裁 労判1064-37
<パワハラといじめ>
川崎水道局事件 H14.6.27 横浜地裁 労判833-61
誠昇会北本共済事件 H16.9.24 さいたま地裁 労判883-38
<安全配慮義務>
電通事件 H12.3.24 最判 労判779-13
システムコンサルタント事件 H12.10.13 最判・大阪地裁 労判791-6
萬屋建設事件 H24.9.17 前橋地裁 労判1062-32
日本赤十字事件 H24.10.2 甲府地裁 労判1064-52
護衛艦たちかぜ事件 H26.4.23 東京地裁 労判1023-5
<健康情報>
東芝事件 H26.3.24 最判 労判1094-22
日本ヒューレット事件(休職命令) H24.4.27 最判 労判1055-5
第一興商事件 H24.12.25 東京地裁 労判1068-5
富士通四国システムズ事件 H20.5.26 大阪地裁 労判973
<復職>
片山組事件 H10.4.9 最判 労判736-15
JR東海事件 H11.10.4 大阪地裁 労判771-25
カントラ事件 H14.6.19 大阪高裁 労判839-47
伊藤忠商事事件 H25.1.31 東京地裁 労判1083-83
※ 明日は定期健診のため、明後日の午後まで、不在となります。
「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平成23年12月26日基発1226第I号)の発出以降に労働者が発症または増悪した(以降「発症等」という)精神疾患に対する労災認定率が上昇していることが指摘されている。
また、精神疾患を発症等した労働者が、労基署長による労災保険給付の不支給処分の取消を求める行政訴訟、及び、労働者が精神疾患を発症等したことに起因して、使用者に損害賠償を求める労災民事訴訟の件数がいずれも増加しているとの指摘もある。
前者の行政訴訟における最も主要な争点は、労働者が発症等した精神疾患に「業務起因性」があか否かの問題であり、後者の民事訴訟における最も主要な争点は労働者の発症した精神疾患に業務起因性がある場合に、当該発症等について使用者に安全配慮義務の違反があるか否かの問題である。
ところで、労働者が発症等した精神疾患に業務起因性が認められるためには、当該労働者が従事していた業務自体が、社会通念に照らして、当該精神疾患を発症等させる一定程度以上の強度の危険性を内在、または随伴していることが必要であるとするのが裁判例の大勢である。
また、最高裁平成12年3月24日(電通事件)判決を経て、現在では、使用者の、労働者の精神疾患に対する安全配慮義務の具体的内容は、
①労働者の労働時間や職務内容等の労働実態を正確に把握する義務、
②労働者の心身の健康状態を正確に把握する義務
③把握した労働実態と健康状態を基に労働者が精神疾,患を発症等しないように適切な揚置を講ずる義務
から成るとされている。
そこで、業務起因性の存在及び安全配慮義務の違反を肯定する際の裁判所の考え方を分析的に検討することにより、精神疾患によって休職していた労働者が、復職する際に必要とされる配慮を含め、使用者が労働者の心の健康に関する安全配慮義務を尽くす際に、産業保健スタッフに期待されている法的な役割を考察する。
以下、参考となる判例を示す。
※労判~労働判例、最判~最高裁判例、労経速~労働経済判例速報
<企業の責任>
富士電機E&C事件 H18.1.18 名古屋地裁 労判918-65
<産業医の位置づけと職務>
三菱電機事件 H11.11.25 静岡地裁 労判786-46
(財)大阪市K協会事件 H23.10.25 大阪地裁 (未掲載)
富士通BSC事件 H24.8.21 東京地裁 労経速2156-22
<業務上・外の判定>
東芝事件(解雇制限) H26.3.24 最判 (民訴が先 理由~求償できない)
トヨタ自動車事件(相当因果関係) H15.7.8 名古屋高裁
川崎重工事件(認定基準) H22.9.3 神戸地裁
四国化工機工業事件(平均的・もっとも脆弱) H21.12.25 高松高裁
<認定基準を判決で尊重>
ヨコハマズボルタ事件 H24.11.28 東京地裁 労判1069号63頁
富士通京都事件(いじめ) H22.6.23 大阪地裁 労判1019号75頁
アテスト(ニコン熊谷 派遣) H17.3.31 東京地裁 労判894号21頁
<環境的要因>
日本電気事件(長時間労働)H22.3.11 東京地裁
トヨタ自動車事件(労働密度・残業規制)H15.7.8 名古屋高裁
マツダ自動車事件(持ち帰り残業) H23.2.28 姫路地裁
大丸松坂屋(労働時間・持ち帰り) H26.1.17 東京地裁 労判961-68
南田市役所事件(質的過重) H18.6.2 高知地裁 労判926-82
長田消防署事件(質的過重) H15.12.11 大阪高裁 労判869-59
粕屋農協事件(質的過重) H21.5.19 福岡高裁 労判993-76
モンタボー事件(過重) H21.1.14 大阪地裁 労判990-214
土浦協同病院(過重自殺) H17.2.22 水戸地裁 労判891-41
十全総合病院(過重自殺) H19.5.28 大阪地裁 労判942-25
佼成病院(過重自殺) H19.3.14 東京地裁 労判941-57
日本トランスシティ事件 H21.5.28 名古屋地裁 労判1003-74
富士通ソーシャルサイエンスラボ事件 H23.3.25東京地裁 労判1032-65
フォーカスシステムズ事件 H24.3.22 東京高裁 労判1051-40
<パワハラ>
日研化学事件 H19.10.15 東京地裁 労判950-5
中部電力事件 H19.10.31 名古屋高裁 H19.10.31 労判954-31
日本ヘルス工業事件 H19.11.12 大阪地裁 労経速1989-39
小田急レストランシステム事件 H21.5.20 東京地裁 労判990-119
前田道路事件 H21.4.23 高松高裁 労判990-134
ザ・ウインザーホテル事件(通常人が許容できる・・・) H24.10.19 札幌高裁 労判1064-37
<パワハラといじめ>
川崎水道局事件 H14.6.27 横浜地裁 労判833-61
誠昇会北本共済事件 H16.9.24 さいたま地裁 労判883-38
<安全配慮義務>
電通事件 H12.3.24 最判 労判779-13
システムコンサルタント事件 H12.10.13 最判・大阪地裁 労判791-6
萬屋建設事件 H24.9.17 前橋地裁 労判1062-32
日本赤十字事件 H24.10.2 甲府地裁 労判1064-52
護衛艦たちかぜ事件 H26.4.23 東京地裁 労判1023-5
<健康情報>
東芝事件 H26.3.24 最判 労判1094-22
日本ヒューレット事件(休職命令) H24.4.27 最判 労判1055-5
第一興商事件 H24.12.25 東京地裁 労判1068-5
富士通四国システムズ事件 H20.5.26 大阪地裁 労判973
<復職>
片山組事件 H10.4.9 最判 労判736-15
JR東海事件 H11.10.4 大阪地裁 労判771-25
カントラ事件 H14.6.19 大阪高裁 労判839-47
伊藤忠商事事件 H25.1.31 東京地裁 労判1083-83
※ 明日は定期健診のため、明後日の午後まで、不在となります。
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