第26回 じん肺・アスベストプロジェクト から2015年06月25日 13:32

 あんまり毎日書くと、ネタがなくなってしましますが、まぁそれまでがんばって書きます。あまり反応がないから、ほとんど読んでいただけないのでしょうが。

 今回は、3月に開催された標記の研修会から、「胸膜中皮腫のケア」について、聖路加国際大学のN先生のお話です。

 その前に「胸膜中皮腫」について。
 しかもその前に「中皮について」。
 「中皮」とは、肺や心臓などの胸部の臓器や、胃腸・肝臓などの腹部の臓器は、それぞれ、胸膜、心膜、腹膜と呼ばれる膜に包まれ、体の内面もこれらの膜でおおわれています。この薄い膜には、「中皮(ちゅうひ)細胞」が並んでいます。元々は、受精卵が細胞分裂した経過の中で、外皮・中皮・内皮と分かれていくのだそうですが、素人にはよく分かりません。
 「中皮腫とは」と言うことですが、中皮細胞から発生するがんを「中皮腫」といいます。その発生する場所によって、胸膜中皮腫、心膜中皮腫、腹膜中皮腫などがありますが、いわゆる「悪性」腫瘍です。
 中皮腫は、1ヵ所で大きくなっていくタイプ(限局性:げんきょくせい)と膜全体に広がっていくタイプ(びまん性)があります。多くがびまん性に広がっていきます。
 中皮腫は、そのほとんどがアスベスト(石綿:せきめん・いしわた)を吸ったことにより発生します。アスベストを扱う労働者だけでなく、労働者の家族やアスベスト関連の工場周辺の住民にも発生しています。アスベストにさらされること(曝露:ばくろ)が多いほど、またその期間が長いほど発症の危険性が高くなります。

1.中皮腫の特徴

 ばく露後の25~50年(平均40年程度)が潜伏期間ですが、発症後は余命が短く、診断時から平均9~13ヶ月で死亡します。ただし早期発見により完治もあります。5年生存率は4~10%くらいと、非常に厳しい疾患です。

 中皮腫は、複雑な症状が重複して出現します。
 胸痛、咳(せき)、大量の胸水(きょうすい:胸腔内に液体がたまること)による呼吸困難や胸部圧迫感。原因不明の発熱や体重減少などですが、いずれも中皮腫に特徴的な症状とはいえず、早期発見が難しいことになります。
 ADL(日常生活動作)は比較的保たれ、最後まで話ができることが多いといわれています。
 そのほとんどは、アスベストが原因です。胸膜、心膜、腹膜、精巣漿膜にできやすいということです。喫煙は影響しません。( ホ!)

2.治療

 外科的療法としては「胸膜肺全摘術(EPP)」があり、「1A」では完治例もありますが、患者の2割程度だそうです。
 術前には、EPP選択の支援、術後の生活(QOL低下・呼吸困難(96%)・激しい痛み(91%))の説明、不安への対処が必要となります。
 術後は、痛みの管理(不眠等による精神的管理(不安(31%)・うつ(19%))、心房細動に注意する、生活の立て直し(便秘~横隔膜の切除、動悸、痛みの軽減、食事など)などのケアが必要です。

 内科的には化学療法があり、患者の8割はこちらですが、エビデンスがあるのはシスプラチン+アリムタ(ともに抗がん剤)のみであり、症状が改善すれば希望が多くなりますが、結果は大きく変わらないようです。

 中皮腫と肺がんでは、症状の重篤度が違い、息苦しさは中皮腫96%、肺がん65%であり、また、痛みも中皮腫91%、肺がん28~51%と、中皮腫の方が重篤です。

3.呼吸困難へのケア

1)症状の意味を理解する→
2)あらゆる身体的な原因に対処する→
3)症状の認知をやわらげる

 「呼吸困難」の原因は、胸水、肺活量の低下、肺の癒着であり、そのほか、心のう液貯留、貧血、心不全、不安で、一番大きいのは「不安」です。
 呼吸困難はsO2(血中酸素濃度)など生理的データとは無関係に、患者が「苦しい」といえば呼吸困難の対処が必要です。
 対処法としては、オピオイド(麻薬)、酸素療法、家族へ支援(パニックへの対処)、胸水穿刺、手術(胸膜を剥離させる)、化学療法、リハビリ、抗うつ剤、補完療法、扇風機、心理的支援などとなります。
 特に呼吸困難にはオピオイド(モルヒネなど)が効果的で、痛みの我慢は全体症状を悪化させます。
 気管支拡張剤も併用するなどの導入ガイドラインがあります。

 「胸水」には留置胸水ドレーン法があり入浴も可能となります。また、「扇風機」は「空気がたくさんあるから安心」という心理的効果(コントロール感)があり、生活の各場所に設置する必要があります。

 しかし、ターミナル・ケアとなればモルヒネを投与し、改善なければ、セデーション(鎮静剤)を検討することになります。

4.痛みへのケア

 中皮腫の痛みには、炎症、手術、神経性(胸部肋間等)、骨の痛みがあります。痛みへの対処として、オピオイド、非ステロイド系抗炎症剤、家族への支援、化学療法、リハビリ、神経性疼痛への投薬、補完療法、神経ブロック、局所麻酔、心理的支援などが必要です。
 順序としては、
ステップ1~非オピオイド+非ステロイド系抗炎症剤
ステップ2~モルヒネ++下剤
ステップ3~神経障害政疼痛に対する抗うつ剤・抗てんかん剤
ステップ4~限局性胸痛の緩和(局所麻酔や放射線療法)
ステップ5~麻酔科による対処
「ブレイクスルー・ペイン(一時的・突発の強い痛み)」に対処する必要があります。

5.中皮腫患者の症状緩和のコツ

① 症状を過小評価しない。
② 先を見越したケアプランを立てる。
③ 麻酔科等のプロによる適切な治療が必要。
④ 心理的・社会的苦痛の緩和(働けない・家族の生活不安など)。

 身体的、心理的、社会的痛み加え、霊的痛みは「なぜ自分が」と言うことが不安のもとになります。労災認定はそのことへのリベンジの意味を持つのではないでしょうか。
 ADLやQOLの低下が見通せるため、患者と家族を支えるには介護認定をはじめ、訪問看護を最初から想定する方がよいとおもいます。
 患者や家族は医療従事者が頼りであり、病気への理解度を確認しつつ、症状の緩和のための医療を全力で取り組む必要がありますが、結果は残念ながら変わらないのが現実です。

 今回はちょっときつかったですが、ということで。
 じゃんじゃん。

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