労災保険審査参与勉強会 その22015年12月15日 10:43

 さて、その中味の問題ですが、最初に出てきた厚労省の「労災保険審査制度」に関する説明(係長級)は、話し方も聞きづらかったのですが、とにかく内容がプアで、困りました。
 最近就任された方にはよかったのかもしれませんけど、本質的な制度の位置づけや参与の役割については、うわべだけで終わり、来年4月から行政不服審査法の改正により審査制度が変更される点についても、現実離れした説明に終始していました。
 何がというと、改正により「口頭意見陳述の充実」を審査官レベル(地方労働局)で充実させると言うことになっていますが、今まで一切口頭意見陳述は行われていませんでしたから、これから始めることになりますが、これは雇用保険の立会(申請者と原処分庁の同席)を労災でも行うことになるので、件数の多い労災の場合は非現実的と思います。
 ただ、前回書いた「前置主義」がゆるむようなので、これはいいことです。なんせ不服審査では「棄却」の見通しがついてしまいますが、司法の場では、代理人の腕次第で、認定基準によらない判断もできるからです。したがってますます行政不服訴訟が増えると思います。弁護士は余っているようですから、仕事が増えるのはいいのですが、申請者は費用がかさみます。

 次に、「精神障害の労災認定~実務上の問題点と工夫・苦労」と言うことで、弁護士からのお話でした。
 このお話で注目したのは、「業務外の精神障害が悪化した場合の業務起因性」と言うことでした。
 H23年末に出された精神障害の認定基準(それまでは判断指針でした)では、すでに精神障害を発症した病歴があると、寛解した場合(ほとんど症状がなくなった状態)では、認定基準に沿って新たに業務上外の判断をしますが、その場合でも「ストレスへの脆弱性」がマイナス要因となります。
 また、現在治療中にあると、「業務上の理由により悪化」とは考えずに、「特別な出来事」と称し、月の時間外労働が160時間、3週間で120時間以上、あるいは、生死に関わるような出来事にあったなどがなければ、業務起因性を認めないことになっています。
 これでは、ほとんどの精神障害は認定されないことになります。つまり、今までなんにも精神に問題のなかった「メンタルタフ」が精神疾患にかかった場合しか認定されないと言うことです。そこを実務に精通している法律家がどのように読み解くのかと期待しましたが、残念でした。
 ただ、苦労しているのが感じられたのは、「同僚の証言は、事故のすぐ後なら正直に話してくれる」というくだりで、まさにそうだと思います。時間がたつと、会社は箝口令をしいてきますから。

 もう一つの「労災における労働者性」は聞き応えがありました。
 私は先入観として、どうして参与の勉強会でそんなに案件のない「労働者性」をやるのか理解しかねていましたが、すっきりと理解できました。
 労働者性を考える基準の中味は省略しますが、この先生(弁護士)は労災に大変詳しい方で、経験も豊富なようでした。
 そして、今都会では、バイク便や名ばかり経営者など、労働者性を問われる案件が多いからかもしれませんが、この方の話は、戦前の工場法からの経過をすっきりと整理してくださいました。ただ、時間がなくて、十分最後まで聞けなかったのは実に残念です。労働者性を巡っては、戦前の方が広い考え方であったらしく、今のように「特別加入」が規制枠とはなっていなかったようです。先生の結論としては、「クラフト・ユニオン」を形成することが、労働者性突破の切り口ということでした。
 まあ、これだけでは何のことやらという感じでしょうが、参与制度は実に大変だけど、重要であるとの認識を深めてきました。

 連合本部もこれだけやったのだから、次は参与のネットワークを作るくらいになってくれればいいのですが、勉強会後の交流会で担当者は、「2年に1回くらいやればよい」とか言ってました。あまり期待はできません。
 ただ、現職時代にお世話になったH女史が元気でいたことや、中央審査会の参与とお話がいろいろできたので、それは有意義でした。
 この資料は私のところにあります。もしご要望があれば考えてみますので、お知らせください。
 ということで、じゃんじゃん。

 P.S. 次は、第23回産業ストレス学会についてです。