認知症サポーター その3 (続き)2015年12月21日 14:28

 さてさて、認知症の続きをやるのを忘れていました。
 前回は風邪気味のため、途中で断念しましたが、今回は、「行動・心理症状」についてです。
 認知症は誰にも起こりうる脳の病気によるもので、85歳以上では4人にI人にその症状があるといわれています。認知症の人が記憶障害や認知障害から不安に陥り、その結果まわりの人との関係が損なわれることもしばしば見られ、家族が疲れ切って共倒れしてしまうことも少なくありません。しかし、周囲の理解と気遣いがあれば穏やかに暮らしていくことは可能なのですから、それを理解することは、とても大事なことなのです。

 それで、記憶障害などの中核症状がもとになり、本人の性格や素質、周囲の環境や人間関係などが影響して出現する症状を「行動・心理症状(BPSD)」と呼びます。
 例えば、元気がなく、引っ込み思案になることがありますが、これは、なんらかの失敗→自信喪失→動作に支障という機序になり、将来の望みを失ってうつ状態になる場合もあります。
 特徴としては、以下のことがあげられています。

○周囲が気づく前から、本人は何かおかしいと気がついています。
○これまでテキパキできた料理も手順が悪く、時聞がかかるうえに、うまくできなくなります。
→「味が違う」「おいしくない」等といわれ、自信を失います。客には出前をとり、毎日の食事も出来合いのお総菜ですますようになったりします。
○家の整理、整頓や掃除もできなくなります。
→片づけるつもりが散らかって収拾がつかなくなり、室内はごちゃごちゃ、大事なものは見つからなくなってしまうことになります。
○意欲や気力が減退したように見えますので、うつ病とよく間違えられます。周囲から身だしなみなどがだらしなくなったと思われることもあります。
○すべてが面倒になり、以前はおもしろかったことでも、興味がわかないという状態がでてきます。

 能力の低下を強く自覚し、密かに認知症に関する本で調べたりしている人もいます。
 自ら認知症を疑って将来に望みをなくし、うつ状態になることもありますので、本人に恥をかかせないよう、自信をなくすような言葉はさけ、本人の尊厳を傷つけるようなことがないようにすることが重要なサポートです。

 また、「できることをやってもらう」ことは必要ですが、できたはずのことができなくなるという体験は、本人が自信をなくす結果になって逆効果です。自分の能力が低下してしまったことを再認識させてしまっては、ますます自信を失わせますから、それとなく手助けをして成功体験に結びつける支援が重要です。

 例の2として、身の回りの動作に支障がでできます。
 認知症が進行すると、入浴、更衣、排泄、食事など、基本的な生活動作に援助を必要とします。
 特に、排泄の失敗は、本人にとっても非常にショッキングなできごとです。失敗の原因は、いろいろあることを理解しておくことが必要です。
 そのほか、以下のことが起こるようになります。

①トイレの場所がわからなくなります
 場所の見当識障害。初めは夜間だけですが、その後日中でもわからなくなりますので、トイレの場所をわかりやすく、風呂場、玄関のたたきなど、トイレと間違えやすい場所のドアを隠す。夜間は、廊下の明かりをつけておく、トイレの明かりをつけドアを開け放しておくといった対応が考えられます。

②衣類の着脱に手間取って汚してしまうことが起こります
 脳血管性認知症で運動障害がある場合や、アルツハイマー型認知症で、更衣がうまくできなくなっている場合などに起こります。脱ぎ着に時間がかからない衣服で着なれているものにします。

③尿意、便意を感じにくくなります
 排尿、排便の周期を観察して、定期的なトイレの誘導で対応できます。

 例の3として、周辺の人が疲弊する「もの盗られ妄想」があります
 しまい忘れをきっかけに、妄想が起きます。
 いつもと遣う場所に預金通帳をしまいこみ、そのことを忘れるなどの「大事なものをしまい忘れる」というのは、記憶障害の中核症状ですが、自立心が強い性格で、心ならずも家族に迷惑をかけている状況を認識している場合、人に頼らず、自立して生きていきたいという気持ちから、自分が忘れるわけなどない(忘れたことが受け入れられない)という思いが現れます。
 その思いを整理する方法として、「通帳がない! 」、「そばで世話をしてくれている人が盗んだ!」と言う「ものとられ妄想」がでます。
 なくし物が出てくればそれでおさまる妄想ですから、周囲の人はあまり深刻にならず、疑われている介護者が疲弊しないよう、心理的な支援をすることが大事です。こういう妄想は、時期が来れば自然に見られなくなります。

 ただし、もの盗られ妄想がより複雑な妄想になることもあります。
 妄想的になりやすい素質を持った人にストレスがかかったときに、単純なもの盗られ妄想から「家の財産をねらっている」とか「家を乗っ取られる」といった妄想に発展します。
 これには「妄想的になりやすい」という素質が深く関与している場合がありますので、妄想を治療する抗精神病薬が効果を上げることが少なくありません。

 単純なもの盗られ妄想にしては、訴えがオーバーだったり、執拗だったりするときは、妄想の対象となっている人を守るためにも、本人の症状を軽減するためにも、認知症をよく理解している専門医に相談することが重要です。

 これらの「行動・心理症状」は、周囲の配慮と環境の整備で補うことができます。あまり深刻にならないことと、理性のしっかりしているときにいっていたことと「病気の言わせること」とをしっかり区別して心構えを作ることが肝心でしょう。
 とりあえず、その3でした。
 じゃんじゃん。

認知症サポーター その42015年12月22日 09:31

 行動障害の例です。
 自分のことや周囲で起こっていることが正しく把握できなくなると、行動がちぐはぐになり、日常生活にも支障が出てきます。

 特に有名な「徘徊」は原因を考えて対応することができます。

① 図書館で数時間過ごすのが日課のAさん。ある冬の日、いつもより2時間遅く出かけたため、暗くなった帰り路、道に迷い、夜遅く疲れ果てた姿で自宅に戻ってきた。
→ 場所の見当識障害が原因です。昼間、風景が見えれば大丈夫なので明るいうちに帰れるように工夫すれば一人で活動できます。

② Bさんは、日曜日の朝、通っている教会に行こうと自宅を出たが、迷子になり、昼過ぎ、とぼとぼと家に戻った。
→ 見当識障害が進んでいますので、送り迎えをすることを考えましょう。

③ Cさんは、夕方になると、遠くの郷里に帰ると言ってたびたび家を出て行こうとするが、ある日、介護者が目を離した隙に出て行き、行方不明になり、翌日、思いがけない場所で保護された。
→ Cさんの症状は、脳の活性が徐々に下がってくる夕方に、場所や時間の見当識障害が深まることがあります。昼寝などで夕方の意識をはっきりさせ、場合によっては薬を使います。

④ Dさんは、妻と買い物の途中、行方不明に.なった。2日後に遠く離れた町で保護された。
→ 常に誰かの見守りが必要になります。介護の支援を考えましょう。

⑤ Eさんは、家の中でも外でも、じっとしていないで歩き続ける。人や物を押しのけ、突き飛ばしてとにかく歩く。
→ 常に誰かの見守りが必要で、介護の支援が必要です。薬物療法が有効な場合もあります。

 このように、徘徊を例に原因を探ってみますが、原因を考えれば対応策もでてきます。

 認知症の診断・治療はとにかく早期発見、早期受診・診断、早期治療が大事なわけですが、その後の認知症の人の生活を左右する非常に重要なことです。認知症はどうせ治らないから医療機関にかかっても仕方ないという誤った考え方は改めましょう。
 
 特に初期は専門の医療機関の受診が不可欠です。認知症の診断は初期ほどむずかしく、熟練した技術と高度な検査機器を要する検査が必要となります。
 受診の内容は、CT、MRI、脳血流検査などの画像検査、記憶・知能などに関する心理検査に加え、脳梗塞、甲状腺ホルモン異常など、認知症のような症状を引き起こす身体の病気ではないことを確認する検査を行います。
 
 早い時期に受診することのメリットは、病気が理解できる時点で受診し、少しずつ理解を深めていけば生活上の障害を軽減でき、その後のトラブルを減らすことも可能です。
 また、障害の軽いうちに障害が重くなったときの後見人を決めておく(任意後見人制度)等の準備をしておけば、認知症であっても自分が願う生き方を全うすることは可能です。

 認知症の治療

 認知症自体を元に戻すことは現在でも難しいのですが、その進行を遅らせることは十分可能です。
 アルツハイマー病は早期ほど、薬で進行を遅らせることができます。初期から使い始めると健康な時間を長くすることも可能になります。
 脳血管性認知症は、治療が可能です。薬や身体活動を高めるリハビリテーション、脳梗塞など、脳血管性認知症の原因となる病気の再発防止などにより、進行を止める可能性が、高くなります。
 また、下記のMCIは運動と頭の体操で、ほぼ完全に回復することが可能であるとある番組で見ました。一縷の希望です。

 今後の見通しを立てて備えることが必要です

 認知症の経過は個人差が大きく、進行が遅い人や進行が止まってしまう人もいます。進行すると、身体機能の低下が起こり、数年から十数年の経過で歩行ができなくなり寝たきりになります。最終的には食べ物を飲み込むことができなくなり、肺炎を繰り返すようになります。
 したがって、軽症のうちから専門家との信頼関係を築くことが必要になります。
 終末医療や介護の方針については、家族や後見人などに任せなければなりません。認知症が進行したのちの見通しを立て、自分の意思にかなった生活を送るためには、日頃から周囲の人に自分の生き方、考え方を理解してもらうよう心がけることが重要です。

 認知症の予防についての考えかた

 認知症の予防とは?認知症発症のリスクを少なくすることです。
 
 脳血管性認知症の予防は、高血圧症、高脂血症、肥満などの対策が有効です。
 アルツハイマ一病の予防は、運動・食事をはじめとする生活習慣病対策には、発症を遅らせる効果が認められています。
 老化による脳の病気の加速因子を防ぐには、脳や身体を使わないこと「廃用」は認知症の発症や進行を加速させます。廃用の背景には、うつ病やアルツハイマー病初期にみられるうつ状態が、しばしば隠れています。

 大事なことは「脳の活性化を図る」ことです。
 脳の活性化にはいろいろな方法がありますが、何をするにしても大切なのは、① ~④ を心がけ、楽しく行うことです。ただし、本人が嫌がるのに無理強いするのは、ストレスや自信喪失につながり逆効果になります。

① 快い刺激で笑顔に~心地よい刺激や、笑うことにより、意欲をもたらす脳内物質(ドーパミン)がたくさん放出されます。

② コミュ二ケーションで安心~社会との接触が失われると、認知機能の低下を促進させます。友人や家族などと楽しく過ごすことが大切です。

③ 役割・日課を持つ~人の役に立つことを日課に取り入れることが、生活を充実させ、認知機能を高めます。

④ ほめる、ほめられる~ほめても、ほめられでもドーパミンがたくさん放出されます。脳を活性化させる学習や活動をするときは、ほめて、やる気が起きるようにすることです。

 認知症の予防のために「何をしたらよいか」ではなく、どう刺激ある日常を送るかが重要です。

※ MCI (軽度認知障害)とは?

  日常生活に支障をきたす程度には至らないため認知症とは診断されないが、記憶障害と軽度の認知障害が認められ、正常とも言い切れない中間的な段階をMCI (軽度認知障害)と呼びます。
 MCIには各種認知症疾患の前駆状態が含まれています。MCIと診断された人の半数以上に、その後アルツハイマー病等への進行がみられるとのデータがあります。一方、この状態に長期間とどまったり、正常に戻る人もいます。
 この段階で脳の活性化を図ることや、運動習慣は認知症の予防に非常に重要です。

 MCIですか。ふむふむ。この段階に私はすでにいるのかもしれません。あるいは、限りなく近づいているかもしれません。昨日も、斜め向かいのうちの名字が思い出せなくて、連れ合いにも恐ろしくて聞けなくて、こそっと、町内会の名簿を見てしまいました。少し行ってるかもしれません。 実は、あなたも。
 ひひ、じゃんじゃん。

認知症サポーター その52015年12月24日 10:28

 さて、これまでをまとめてみると、
 「認知症の本人に自覚がない」は大きな間違い。認知症の症状に最初に気づくのは本人です。」と言うことから、
 「認知症の人は何もわからないのではありません。誰よりも一番心配なのも、苦しいのも、悲しいのも本人です。」
 ということがわかりました。
 発症のきっかけは、もの忘れによる失敗、家事や仕事がうまくいかなくなるといったことが多くなり、何となくおかしいと感じ始めます。
 認知症特有の「言われても思い出せないもの忘れ」が重なると、本人が何かが起こっていると不安を感じ始めます。

○ 「私は忘れていない!」に隠された悲しみ

 認知症になったとき多くの人が「私は忘れてなんかいない」「病院に行く必要はない」と言い張り、家族を困らせます。
 これは、「私が認知症だなんて!!」というやり場のない怒りや悲しみや不安から、自分の心を守るための自衛反応といえます。
 周囲の人が「認知症という病気になった人」の本当の心を理解することは容易ではありませんが、認知症の人の隠された悲しみの表現であることを知っておくことは大切です。

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 そしてこのことは、メンタル疾患の全てにおいて、言えます。ただ、私の感じていることから言うと、認知症よりも他のメンタル疾患の方が、「本人が気付いてくる期間」は圧倒的に短いです。したがって、周囲も「おかしいのでは?」「いつもと違う」と気がつくことはとても難しいと言うことになります。
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○ 認知症の人への支援とは

 こころのバリアフリーと「人間杖」が必要です
 認知症の人は自分の障害を補う「杖」の使い方を覚えることができません。「杖」のつもりでメモを書いてもうまく思い出せず、なんのことかわからなくなります。認知症の人への援助には障害を理解し、さりげなく援助できる「人間杖」が必要です。
 交通機関や店など、まちのあらゆるところに、温かく見守り適切な援助をしてくれる人がいれば外出もでき、自分でやれることもずいぶん増えるでしょう。こころのバリアフリー社会をつくることが認知症のサポーターの役割です。
 
○ かかわる人の心がまえ--さりげなく自然にが一番の支援

 だれでも自分や家族が認知症になる可能性があります。
 健康な人の心情がさまざまであるのと同じように、認知症の人の心情もさまざまです。「認知症の人」がいるのではなく、その人が認知症という病気になっただけです。私たちがすべきことは、認知症の障害を補いながら、さりげなく、自然に、それが一番の支援です。

○ 若年性認知症の人がかかえる問題

 若年性認知症の人は、働き盛りで、就学期の子どもがいる場合も多くあります。そのため、仕事を辞めなければならないと、経済的困難に陥ってしまいます。
 また、高齢の人の場合に比べ、周囲の人、そして家族も病気を理解し受け入れるのに往々にして時聞がかかります。現役途中で認知症になった人への地域での手助けが求められています。

○ 認知症の人への対応ガイドライン

<基本姿勢> 認知症の人への対応の心得 “ 3つの「ない」”
1 驚かせない
2 急がせない
3 自尊心を傷つけない

 認知症の人への対応には、認知症に伴う認知機能低下があることを正しく理解していることが必要です。そして、偏見をもたず、認知症は自分たちの問題であるという認識をもち、認知症の人を支援するという姿勢力が重要になります。
 認知症の人だからといってつきあいを、基本的には変える必要はありませんが、認知症の人には、認知症への正しい理解に基づく対応が必
要になります。
 記憶力や判断能力の衰えから、社会的ルールに反する行為などのトラブルが生じた場合には、家族と連絡をとり、相手の尊厳を守りながら、事情を把握して冷静な対応策を探ります。
 ふだんから住民同士が挨拶や声かけにつとめることも大切です。日常的にさりげない言葉がけを心がけることは、いざというときの的確な
対応に役立つでしょう。

○ 具体的な対応の7つのポイント

① まずは見守る
 認知症と思われる人に気づいたら、本人やほかの人に気づかれないように、一定の距離を保ち、さりげなく様子を見守ります。近づきすぎたり、ジロジロ見たりするのは禁物です。
② 余裕をもって対応する
 こちらが困惑や焦りを感じていると、相手にも伝わって動揺させてしまいます。自然な笑顔で応じましょう。
③ 声をかけるときは1人で
 複数で取り囲むと恐怖心をあおりやすいので、できるだけ1人で声をかけます。
④ 後ろから声をかけない
 一定の距離で相手の視野に入ったところで声をかけます。唐突な声かけは禁物。「何かお困りですか」、「お手伝いしましょうか」、「どうなさいました?」、「こちらでゆっくりどうぞ」など。
⑤ 相手に目線を合わせてやさしい口調で
 小柄な方の場合は、体を低くして目線を同じ高さにして対応します。
⑥ おだやかに、はっきりした話し方で
 高齢者は耳が聞こえにくい人が多いので、ゆっくり、はっきりと話すように心がけます。早口、大声、甲高い声でまくしたてないこと。その土地の方言でコミュ二ケーションをとることも大切です。
⑦ 相手の言葉に耳を傾けてゆっくり対応する
 認知症の人は急がされるのが苦手です。同時に複数の問いに答えることも苦手です。相手の反応を伺いながら会話をしましょう。たどたどしい言葉でも、相手の言葉をゆっくり聴き、何をしたいのかを相手の言葉を使って推測・確認していきます。

 さてさて、認知症の人はたいてい高齢者です。
 よく「年をとると子供に戻る」といいますが、認知症とはそういうことなのかもしれません。
 小さな子供と接するように、だけど相手は年上でしょうから、敬語と敬意を忘れずに。
 ということでしょう。
 じゃんじゃん。

認知症サポーター その62015年12月25日 09:07

 いやいや、ずいぶん長くなっていますが、大事なことですから、もう少し続けたいと思います。

 今回は、「認知症介護をしている家族の気持ちを理解する」です。
 認知症介護をしている家族などの気持ちを理解し、どんな応援をすればいいのか考えてみることは、認知症の人を支える活動の一環としてとても大切です。

○ 第1ステップ 「とまどい・否定」
 異常な言動にとまどい、否定しようとする。他の家族にすら打ち明けられずに悩む。

 おかしな言動を示しはじめた親や配偶者に対する家族の最初の反応は「あんなにしっかりしていた人がまさか」というとまどい・否定です。
 長年いっしょに暮らしてきた人を認知症と認めることはその人の人格を全否定するかのように感じられ、正面から現実を見ることにとまどいを覚えます。異常な言動に気づいても、それをほかの家族に打ち明けるべきかどうかで悩むのもこの時期の特徴です。

○ 第2ステップ 「混乱・怒り・拒絶」
 認知症への理解の不十分さからどう対応してよいかわからず混乱し、ささいなことに腹を立てたり叱ったりする。精神的・身体的に疲労困憊、拒絶感・絶望感に陥りやすいもっともつらい時期。

 精神的・身体的に疲労困憊し、異常な言動を増幅させる認知症の人に対して「もう顔も見たくない」と拒絶する態度をとってしまうことも珍しくありません。混乱と苦悩は家族全体に広がります。毎日の苦労とこんな生活がいつまで続くのかという不安が重くのしかかり、絶望的な気分へと追いつめられます。
 家族だけで問題を抱え込む段階ではありません。医療や福祉の相談窓口を訪ね、診察を受け、介護サービスを利用すれば、認知症への理解が徐々に進み、諸症状への対応方法もわかってきます。

○ 第3ステップ 「割り切り」
 怒ったり、いらいらしても何もメリットはないと思い始め、割り切るようになる時期。症状は同じでも介護者にとっても「問題」は軽くなります。
 
 さまざまな情報や経験によって、次第に認知症介護に精通してきます。医療・福祉や地域社会から適切に援助・協力を得れば在宅介護で十分やっていけるのではないか、という気持ちに変化しはじめるのもこの段階の特徴です。
 認知症の症状が同じでも「問題」はずっと軽くなります。ただし、認知症がさらに進行して新たな症状が現れることもあります。ここで再び混乱してしまうと第2ステップに逆戻りしかねませんので、落ち着いた対応が必要です。

○ 第4ステップ 「受容」
 認知症に対する理解が深まって、認知症の人の心理を介護者が考えなくてもわかるまでになる。
 認知症である家族のわがままを受け入れられるようになる時期。

 認知症の人の心理を介護者自身が自然に受け止められるようになります。認知症の症状を含め家族の一員としてあるがままを受け入れていく姿は、認知症介護というきびしい経験を通じて、介護者が人間的に成長を遂げた証といえるかもしれません。

 家族の誰かが認知症になったとき、誰しもショックを受け、とまどい、混乱に陥ります。
 まず第l、第2のステップを経験することになります。
 第4ステップの受容にたどりつく間には第1から第3までを行きつ戻りつを繰り返します。その時期を通り抜け、認知症の人の「あるがまま」を受け入れられるようになるためには、介護者の気持ちの余裕が必要です。
 介護者の余裕は、認知症の人本人や家族に対する周囲からの理解や支援と介護サービスの適切な利用などによって得られると考えられます。
 
○ 認知症サポーターとは、認知症サポーターのできること
 認知症サボーターは「なにか」特別なことをする人ではありません。

 認知症について正しく理解し、偏見を持たず、認知症の人や家族に対して温かい目で見守ることがスタートです。認知症サポーターは「なにか」特別なことをする人ではありません。認知症の人やその家族の「応援者jです。
 認知症はだれでもなる可能性のある病気です。いつ自分や家族が、あるいは友人や知り合いが認知症になるかわかりません。他人ごととして無関心でいるのではなく、「自分の問題である」という認識を持つことが大切です。
 ここでは、「温かい目で見守ること」から一歩進んで、地域や職場などで認知症サポーターとしてなにができるか一例を示しました。一人ひとりがすべて違うように対応は一様ではありません。そのことを心して自分たちになにができるか考えてみましょう。

○ オレンジリングは認知症サポーターのあかし

 認知症サポーターには「認知症の人を応援します」という意思を示す「目印」であるオレンジリング(写真のような)が渡されます。
 まちの中で「この人は認知症かな」と思って声をかけるときにも、オレンジリングを身につけていることで、周囲にも「あの人は、認知症の人のお手伝いをしているんだな」と一目でわかる場合があります。

 だから私は毎日「オレンジリング」をつけているのですが、「それはなんだ?」と聞かれて、「認知症サポーターだから」と答えると、「とうとうおまえも認知症か」という返答が多すぎます。「認知症のサポートを受けるリング」ではなく、「認知症の人をサポートするリング」であるときちんと理解してください。
 それでなくてもMCI(軽度認知障害)ではないかと本人も気付きつつあるのですから。
 大事にしてくださいよ。
 じゃんじゃん。

認知症サポーター その72015年12月28日 10:12

 私自身が認知症ではないことは、ご理解いただけたでしょうか。今のところの話ですけど。

 それで、サポーターのお話の続きになりますが、様々な場面での考え方を整理しています。

○ 地域で

 認知症の人が因っているようすが見えたら「なにかお手伝いすることがありますか」と一声かけてみます。たとえ、具体的な援助はできなくても理解者であることを示すことができます。

 認知症の介護家族には、「近所に迷惑をかけているのでは」という思いがあることがあります。「大変ですね、お互いさまですから、お気づかいなく」といった一言や、ねぎらいの言葉をかけることで、家族の気持ちはぐっと楽になるものです。
 より進んだ支援としては、日頃のおつきあいに応じて家族の不在時の見守りなどを担うことも考えられますが、踏み込みすぎないことも大切です。

<ケース1>
 サポーターになったAさん。サポーターとしてなにができるかを考えてみたが、知り合いには認知症の人はいないし両親は既にいない。だが、散歩でよく会う老夫婦、いつも二人で一緒だが、奥さんの不安そうな面持ちと夫のようすが気になっている。二人の家とAさんの自宅とはほんの数メートルしか離れてはいないが、つきあいはまったくない。Aさんは、もし、奥さんが外で一人で困っているところを見たら力になろうと心に決めている。(サポーターの声)

○ マンションの管理員さんもサポーターに

 マンションで暮らす高齢者が増えるなか、認知症の症状による近隣の人とのトラブルも目立つようになっています。マンションはドアを閉めれば外界と一線を画してしまうこと、日頃からのつきあいが希薄なことから、コミュニティの意識も低いことが多いといわれています。
 マンション管理会社の中には、管理員全員が認知症サポーターになっている会社も増えていますが、マンションの管理員が認知症を理解しているだけでは十分ではありません。居住する一人ひとりが認知症になっても安心して暮らせるマンションをめざして、認知症への理解を深めていくことが必要です。

<ケース2>
 学校でサポータ一養成講座を受け、オレンジリングをもらった高校生のBさん。腕につけることは気恥ずかしくカバンに入れたままだった。
 学校からの帰り、自宅のあるマンションの入り口で中をうかがうようにしているおばあさんを見かけた。オートロックで閉め出されたようだったので、勇気をもって「こんにちは」と声をかけるとおばあさんから「こんにちは」と返事が返ってきた。「中に入りますか?」と尋ねて一緒に入るとおばあさんを探している家族と行き会うこともできた。お礼を言われたBさん、なんだか嬉しくなって、あのおばあさんにまた会ったら挨拶しよう、と思ったことを家族に話した。

○ はたらく場面で

 地域ではたらく人の理解があれば認知症の人が一人で買い物や食事にでかけることが可能になります。日常生活に直接かかわる業種に従事している人びとの理解と協力は、認知症の人の地域での生活の継続にとって大きな支えとなります。

● 商店
 日用品を扱う商店、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどの来店者のなかには認知症の人もいます。計算間違いは、認知症の初期段階からあらわれやすいため、支払いの計算ができない、高額紙幣のみで買い物するなどといったことが見られますが、急がせず認知症の人のベースで対応できれば認知症の人が買物を楽しむこともできます。
 まれに、記憶・判断能力の衰えから商品の代金を払うことを忘れたり、どこで払うかわからず無断で、持っていくという行動をとってしまうことも起こります。このような場合、まず、本人に声をかけて、「支払い」に気づいてもらいます。状況によっては家族などと連絡をとり、事情を把握したうえで、対応策を探ってみましょう。スーパーなどの大型商店では、対応する担当者を決めておくとスムーズな解決につなげることができます。
 スーパーマーケットの中には組織全体で取り組む企業も出てきています。社員は腕になにかを付けられないことになっているため、オレンジリングではなく、胸に「ロバ隊長」バッジをつけたり、店内に「認知症の人が安心して買い物のできる店」であることを客にわかってもらうよう掲示をすることなどが実施されています。

<ケース3>
 一緒に買い物にきた家族から連れがはぐれてしまったという訴えを受けたスーパーJ。あらかじめ作成してあったマニュアルに沿って、まず、館内にいる内に探せるよう手早く、同行者の了解をとって館内放送をした。名前だけでなく、年齢、服装の特徴などの情報を放送したところ、近くにいた人からの連絡でことなきを得た。家族のほっとした様子に救われた。
 館内から出ていってしまうと事故などの心配があるため、手の空いている人を出口に急ぎ配して水際作戦も忘れないようにしてあった。

<ケース4>
 A商店街では近くにできたグループホームの利用者がよく買い物にくるようになった。最初は認知症の人だからという気負いがあったが、笑顔でショッピングを楽しむお年寄りたちに接するうちに、ゆっくり買い物を楽しんでくださいという気持ちになってきた。お金のやりとりにも慣れ、店員のほうが逆に昔の食べ物の話などでお年寄りに教えてもらうこともある。

<ケース5>
 Bスーパーでは、認知症に対応する担当者を決めている。担当者のC子さんは、年配の女性がもう何時間も売り場をうろうろしているのを目にした。そこで、女性に「お疲れでしょう。私はこれから休憩に入るのでご一緒にお茶でもいかがでしょうか」と声をかけた。女性は穏やかに、にこにこと自分の話をしたので、身元もわかり、家族に連絡をとることができた。
 また「認知症の人が安心して買い物できる店」であることがお客にすぐわかるよう店員の名札に明記するといった工夫が提案され、実施に向けて準備している。

● 交通機関
 路線パスの運転手や駅の職員なども、認知症の人と接する機会が多いでしょう。とくにパスの利用者には高齢者が多いので、認知症と思われる人がどこに行こうとしていたのかわからなくなって困っていたり、終点になっても降りようとしない、などの場合には、運転手が事務所に案内し、事務所の職員が対応にあたり、自宅や警察などに連絡を入れるようマニュアル等をつくっておくことが必要です。

<ケース6>
 市営パスの運転手Dさんは、終点に着いても、降りようとせず呆然としている年配の男性に気づいた。座席まで行き「どちらに行かれるので
すか」と声をかけると、男性は10年前に廃線になった路線の停留所名をつぶやくばかり。男性の顔色があまりよくないことに気づいたDさんは、「事務所でお茶でも飲んでいきませんか」と誘い、事務の職員が男性に対応したが、持ち物にあった連絡先から家族とも連絡がとれ、大事にいたらずにすんだ。

<ケース7>
 タクシー運転手Eさんは、認知症に関する研修会で、徘徊している認知症の人についてビデオ学習をした。Eさんには、ただひたすら前を向き協目もふらずにタッタッタと早足で歩く徘徊している人の特徴が印象に残った。以後は、運転中、街中を歩く人たちを意識して観察するようにしている。
 そして「アレ?」と思うようすの高齢者を目にしたときは、最寄りの交番に連絡を入れて番地を伝え、来てもらうようにしている。交番にも認知症について知識をもったお巡りさんがいて対応にあたる。地域での連携体制ができている例である。

● 銀行・郵便局など
 窓口業務の職員が、認知症の人が詐欺などの被害にあって多額の引き下ろし、振り込みをしていないかなどの目配りをし、犯罪被害を未然に防いでいる例もみられます。家族と連絡がとれる場合には、事情を説明し、対応策を改めて考えておくといいでしょう。
 郵便配達職員は、配達先で認知症と思われるひとり暮らし高齢者と会う場面も多いでしょう。配達時に認知症の人のようすを、それとなく確認し、安全面の見守りを担うことも考えられます。

<ケース8>
 F子さんが窓口業務をしている金融機関に、年配の女性が「通帳をなくした」と言って訪れた。紛失届けの方法を銀行のマニュアル通りに説明し手続きをしたが、その女性は同じように訴えて2度3度と窓口を訪れた。その頃から女性が認知症なのではないかと気になりはじめたF子さんは、4度目に、時聞をとって女性の話を聞いてみることに。女性はひとり暮らしだというが、今日の日付などについてもあやふやだった。しかし、話から市内に住む息子がいることがわかったため、F子さんは連絡をとり、息子はそれによってはじめて母の認知症の症状に気づいたという。

<ケース9>
 郵便局で配達を担当するGさんは、ひとり暮らしの高齢者H男さんの郵便受けに新聞や郵便物が何回分もたまっていることに気づいた。局に戻って上司に報告すると、上司は市役所の福祉課に連絡した。福祉課が地域の民生委員に様子の確認を頼んだところ、H男さん宅は以前と明らかに違ったありさまで雑然としており、認知症が進んでいるらしいことが判明した。その報告を受けた福祉課の職員からその旨を家族に連絡することができた。

○ 家族の人は

 認知症の人の家族は、道に迷ってしまうことを想定しておき、探索器を用意したり連絡先等を身につけておいたりして、万が一に備えます。
 同居している場合には、「共倒れ」になることを避けるためにも、介護サービスをうまく使うことや、認知症の人を対象とする家族の会などからの情報を得ることも考えましょう。また、近隣住民からスムーズに協力を得るためには、認知症の人が家庭にいること、その状態についてなるべくオープンにしているほうがよいでしょう。
 同居していない家族に対しての近隣からの情報は、よかれと思ってもいいにくいし、誤解を生みやすいものです。とくに離れて暮らす家族は近隣の人と密に連絡をすることが大切ではないでしょうか。

<ケース10>
 I子さんの母は認知症で徘徊があり、家族が目を離したあいだに一人で電車に乗ってしまい、2駅隣の町で道に迷い保護されたこともある。母親が自動改札の使い方がわからないことに気づいたI子さんは、最寄りの駅の駅員に、母親の写真と特徴を紙に書いて渡し、自動改札を通れず立ち往生していることがあるかもしれないので、母を見かけたら、どのように対応してほしいか、連絡先を伝えて「よろしくお願いします」と頼んでいる。

※ 公益社団法人「認知症の人と家族の会」
● 電話相談 0120 -294-456 土・日・祝日を除く毎日、午前10:00~午後3:00まで。全国どこからでも無料(携帯、PHSは不可)。
 本部の連絡先 〒602-8143 京都市上京区堀川丸太町下ル京都社会福祉会館内 TEL: 075-811-8195 FAX: 075-811-8188
http://www.alzheimer.or.jp/jp/index.html
(上記以外にも、「家族の会jがあります。地域包括支援センターなどにお問い合わせ下さい)

●北海道認知症コールセンター - 家族の会 -
  札幌市中央区北2条西7丁目かでる2・7 4階
  TEL 011-204-6006
  ○相談日 土・日・祝日・年末年始を除く毎日
  ○受付時間 10:00~15:00

● 北海道若年認知症の人と家族の会
〒060-0003
北海道札幌市中央区北3条西7丁目1-1 緑苑ビル608
TEL : 090-8270-2010 / TEL&FAX : 011-205-0804
URL : http://h-himawari.sakura.ne.jp