あなたは、ガンを知っていますか? その42015年01月06日 15:07

ガンとどうつきあうか?ガン治療の基本

ガン細胞の誕生と転移、そして治療の可能性

 おさらいをしておきましょう。ガンは、ある臓器にできた、たった1つの異常な不死細胞が、免疫の攻撃をかいくぐって生き残った結果できるものです。
 この細砲がつぎつぎと自分と同じ不死細胞をコピーしていき、どんどん大きくなります。ただし、実際に検査でわかるような「ガン」になるまでには10~30年かかることが普通です。
 ガンは、自分が生まれた臓器から栄養を奪い取って成長しますが、やがて住処(すみか)が手狭になると新天地をもとめて移動したがります。これを水際で捕える「関所」のようなものがリンパ腺(リンパ節)です。
 さらに、ガン細胞の中には血液のなかに泳ぎだして、新大陸である別の臓器をめざす不埒者もいます。 こうなると治癒はむずかしくなります。まだ血液の海を渡って他の臓器に転移していない状態、つまりリンパ腺にとどまっている場合であれば、治癒の可能性は残ります。

鳥かごと鳥

 ガンは、限られた栄養を、正常細胞とガン細胞とが奪い合う一種の「椅子とりグーム」のようなものです。ただ、ふつうの椅子とりゲームとちがって、ガン細胞の数がそんどん増えていくので、ゲームを続ければ続けるほど、正常細胞にとって椅子の確保がむずかしくなる。
 しかし、ゲームのルールは単純ですから、ガンは物理的・数学的にとらえることができる。つまり、物理法則に相当する「公式」が成り立つのです。
 その公式の一つとして、転移してしまったガンは、大腸ガンの肝臓転移(本当の意味での全身転移とはいえません)など一部例外はあるものの、基本的に治癒しにくいという点があげられます。
 血液のなかにガン細胞が流れ込んで、他の臓器に転移するわけですから、ーカ所にだけ転移することはまれです。植民地を世界中に作って、五大陸に進出していった、かつての西洋諸国と同じです。

 ガンの転移があれば、その際の治療は、全身にばらまかれたガン細胞に対するものになりますから、全身的な治療、つまり抗ガン剤が治療の中心になります。
 しかし、残念ながら、強い抗ガン剤を使ってもガンが完治する可能性は低く、治療の目的は延命となります。
 これを「鳥かごと鳥」にたとえてみます。
 早期のガンの治療は、鳥かごの中の鳥を捕まえるようなもので、比較的簡単です。
 リンパ腺にまで転移したようなある程度進行したガンは、鳥が鳥かごから出て、部屋の中を飛び回っている状態です。鳥かごに入っているときよりは大変ですが、がんばれば捕まえられるでしょう。
 転移したガンは、鳥が部屋の窓から外に出て行ったようなもの。鳥を捕まえることはむずかしくなります。
 それでも、たまたま鳥が部屋に入ってくる可能性はゼロではありません。気がついたら、鳥が自分からかごのなかに入っていることだってあり得なくはないでしよう。これが、末期ガンからの「奇跡の生還」です。

 ガンが治るかどうかは、最終的には確率的なものですので、奇跡はつねに起こり得る。その意味で、大逆転の希望はいつも失われませんが、それでも外に出て行った鳥がかごに戻ってくるような奇跡は、望んで得られるものではありません。転移したガンはこれと同じで、治らない確率が高い状態、というのが正確な表現です。

ガン治療の3つの基本
 -手術・放射線治療・化学療法

 さて、現代医学において、ガンの治療として、はっきりと効果が証明されているのは、手術・放射線治療・化学療法の3つです。
①【手術】は、ある臓器にとどまっているガンとまわりのリンパ腺をメスで切り取ってしまう治療法です。ガンの組織だけを切ろうとするとガン組織を取り残す心配がありますので、普通はガン組織のまわりの正常な組織も含めて切除します。ガン細胞を完全に切除できれば、ガンは完治することになります。たとえば早期の胃ガンで転移がない場合は、手術療法でまず100%治すことができます。ただし、切り取った部分以外にもガン細胞か存在すれば、再発の可能性が残ります。

②【放射線治療】は、臓器にできたガンにだけ、あるいは、予防的にそのまわりのリンパ腺などをふくめて放射線をかける治療です。ある決まった範囲(数ミリ程度の場合もあります)にだけ影響を与えるので、手術と同じ局所治療です。

③【化学療法=抗ガン剤治療】は、抗ガン剤などの化学物質を点滴や飲み薬の形で投与するもので、化学物質が全身に行き渡る点で、手術や放射線治療と異なります。全身に転移がある状況では、(手術や放射線治療などの)局所治療ではダメですので、理屈の上では唯一効果のある治療法です。
 しかし、ほとんどのガンで完治するためには、局所治療である手術か放射線治療か、どちらかが必要なのです。逆に言えば、化学療法だげで治るガンはまずありません。

クルマ選びとガン治癒

 手術・放射線治療・化学療法のうち、日本ではなんといっても手術がガン治療の代名詞でした。
 医師に「ガンです」と告知されると、次は「先生、切れるのでしょうか?」というのがおきまりの台詞だったのです。そして、切れれば大丈夫、切れなければ絶望、というのがこれまでのガン患者さんのお気持ちでした。
 しかし、これは日本独特の風習にすぎません。欧米では、自分のガンをいかに楽に、安く、的確に治療するのがよいか、患者さんが主体的に考えるのです。

 特別なことではありません。クルマ選びと同じです。クルマを買うときには、いろいろなカタログを集めて比較するものです。セールスマンが「このクルマがいいから買いなさい」などと言ったらどうでしょう。きっと「オレのクルマなんだから、オレが決める!」と腹が立つはずです。ガンも同じ。ガン治療は自分で選ぶ時代、が来ています。

ガンは千差万別

ガンにもいろいろある

 「ガン」は1つひとつ違います。ガンと言っても千差万別なのです。「ガン」という言葉は、ガンが、結核・エイズ・心筋梗塞などと同じ、一つの病気であるという誤解を与えます。
 しかし、ガンは千差万別で、治癒率が99%のガンも、0%に近いガンも存在します。どちらも同じく「ガン」と呼ばれますが、患者さんの立場からすれば、とても同じ病気にはみえないはずです。
 ガンはDNAのコピーミスが原因ですので、ひとつとして同じガンは存在しないのです。しかも、ガン細胞は、どんどん突然変異をくりかえして性質が変わっていきます。ですから、すべてのガンはそれぞれに違った、「世界に1つだけの」病気なのです。
 しかし、どの臓器からできたものかによって、ガンの性質はおおよそ決まります。たとえば、タチの悪さで言えば、①膵臓ガン、②肝臓ガン、③肺ガン、④乳ガン、⑤前立腺ガン、⑥甲状腺ガンの順で、番号が小さいほどより悪質です。

ガンの完治は定義できない

 さて、驚かれるかもしれませんが、実はガンの「完治」にはっきりした定義はありません。
 結核や肝炎などの感染症であれば、細菌やワイルスがカラダのなかから消えれば完治を意味します。
 しかし、ガンの場合には、なにせ(だれのカラダの中にも)毎日5000個ものガン細胞が新たに発生していることもあって、ガン細胞がカラダから完全になくなることはありません。乳ガンや前立腺ガンなどでは、治療後20年以上経ってガンが再発することもあるのです。この場合、過去に治療を行った同じガン細胞が再発するわけですが、カラダのどこに潜んでいるのかよくわかっていません。

 しかし普通は、治療後5年間再発しなければ、まず大丈夫だろうと考えて、5年生存率(ガン治療から5年経った時点で患者さんが生きている確率)を治癒率として使っているのです。ただし、乳ガンや前立腺ガンでは、10年生存率をもって治癒率と考えることが一般的。
 繰り返しますが、ガンが完治したと100%断言することは不可能です。ガンの治癒とは、「再発しない確率が非常に高くなった状態」と考えるしかありません。

検診に向くガン、向かないガン

 ガンは、一まとめにできない病気ですので、早期発見・早期治療がすべてではありませんし、検診が常に有効とも言えません。
 たとえば、90歳の男性が検診で「早期」の前立腺ガンを発見して手術を受けたとしましょう。早期の前立腺ガンが実際に症状を出すには、30年以上かかると言われますので、この患者さんの場合、治療をせず様子を見るのが賢明です。検診がマイナスに作用する例です。
 一方、膵臓ガンのような進行の早いガンを検診で見つけるには、毎月検診を受ける必要があります。検診に向いているガンはそれほど多くないのです。
 しかし、大腸ガン・子宮頸ガン・乳ガンは検診の有効性が国際的に証明されていて、受けないのは損です(乳ガンの場合は触診だけでなく、マンモグラフィーという乳ガン専用のレントゲン検査が必要です)。
 検診の有効性がはっきりしているガンなのに、受診率が低い。これは残念です。「検診向き」、つまり検診を受けることが有効なガンの受診率を上げる必要があります。

告知されたら

 さて、ガンと告知されたときの心構えは、まず情報を集めること。「即入院・即手術」などと言われても、医師に病状などメモを書いてもらい、一度家に帰ることです。

 実際、たった1つの細胞から始まって、数センチのガンに育つまでには、10年、20年以上の年月がかかる。あわてる必要はありません。じっくり情報を集めて、正しい戦略を立てるべきです。その上で、別の医師からも話を聞く「セカンド・オピニオン」をお勧めします。

 すでにご説明したように、ガンを完治させるには、手術か放射線治療が必要です。多くの患者さんは外科で診断を受けるでしょうから、セカンド・オピニオンの相手は、放射線治療の専門医が最適だと思います。

 最後に、インターネットについて。便利で手軽ではありますが、金銭目的のサイトもあり、注意が必要です。その点、以下のガン情報サイトは信頼できますので、ぜひ参照し、うまく利用されるとよいと思います。

▲国立ガンセンター「ガン情報サービス」
http://ganjoho.jp/public/index.html

▲癌研有明病院「ガン・医療サポートに関するご相談」
http://www.jfcr.or.jp/hospital/conference/cancer/index.html

▲ガン情報サイト
http://cancerinfo.tri-kobe.org/


放射線の効用

 放射線治療の特長は、ガンを切らずに治し、臓器の機能や美容を保つ点にあります。例えば喉頭ガンは、手術でも放射線治療でも治癒率は変わりませんが、選択されるのは放射線治療です。手術をすれば声を失うからです。
 乳ガンは、かつて乳房とその下の筋肉を根こそぎ切り取る手術が主流でした。しかし今は、腫瘍の周辺だけをえぐって取り、乳房全体に放射線をかける「乳房温存療法」が主流です。
 直腸ガンが肛門の近くにできると、手術後に人工肛門となる可能性がありますが、手術前に放射線をかけることで、その可能性を減らすこともできます。
 喉頭ガンや直腸ガンは臓器の機能を温存する治療例、乳房温存療法は美容を保つ治療例です。
 放射線治療は、多くの場合、1ヶ月程度の通院ですが、一回の治療は数分で、患部の温度は2000分の1度くらいしか上がりません。なぜ2000分の1度というわずかなエネルギーでガンが消えるのでしょうか?このわずかなエネルギーでもガンのDNA(遺伝子の本体)が切断されるため、ガン細胞の分裂と増殖がうまくいかなくなるのです。

 また、免疫のしくみが、ガン細胞を異物(敵)として認識できるようになることも大きい効果です。このため、ガンが免疫細胞に攻撃されてしまう。放射線は「一種の免疫療法」という側面もあるのです。
 また、放射線治療では、ガンに放射線をできるだけ集中することが大事です。仮に、完全にガン病巣部にだけかけることができ、周りの正常の細胞には放射線が全く当たらないようにできれば、放射線を無限にかけることができ、100%ガンは治ることになります。
 こうした発想はかつては机上の空論でしたが、現在ではけっして夢物語ではなくなってきています。

 なんとも、気軽に話ができなくなったようですが、心を鬼にして、知識普及に努めます。
 なお、5月に全道セイフティーネットワーク集会を開催する予定で、そこでは、メンタルと脳心臓疾患、がんなどの疾病とどう付き合うかや、その人が働く職場での対応などについて、考えたいと思います。
 ちょっと緊張して、じゃんじゃん。

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