DVD 「ストレスの不思議」の要約 その32015年02月18日 10:04

○脳への影響

 サボルフスキーの研究は、ストレスがもたらす更に深刻なダメージを明らかにしてきた。慢性的なストレスと過剰な糖質コルチコイドにさらされることによって、脳細胞が破壊されるほどの強烈なダメージを受ける。
 1980年代始め、サボルフスキーは、ストレスが脳に伝わる道筋を追跡していた。
 研究チームはラットに慢性的なストレスを与え、その脳細胞を検証。健常なラットの脳細胞に比べ、ストレスを受けたラットの脳細胞は、驚くほど小さかった。
 多くの点で最も興味深かったのは、海馬が萎縮していたこと。神経生物学では、海馬は脳内の学習と記憶を司る部分とされている。ストレスは、記憶に関わる脳の部位を萎縮させていた。

 ストレスが記憶に及ぼす影響は、2種類ある。
 まず、慢性的なストレスは、脳の回路を変えることで、我々の記憶力を低下させる。一方、急性のストレスの場合は、違った症状が出る。たまにストレスで頭が悪くなったと表現する人がいるが、まさにそのような状態で、それまで熟知していたことが、しばらくの間思い出せなくなってしまう。

 ストレスは私たちの気分を憂鬱にする。シャイブリー博士は、憂鬱とは正反対の喜びの感情を手がかりに、その仕組みを解明しようと考えた。ストレスや喜びと社会的順位は関連しているのではないかと睨んだ。

 ストレス同様、快感も脳内の物質と結びついている。神経伝達物質であるドーパミンが脳内で放出され、受容体と結合すると快感を感じる。
 ペットスキャンを使い、ストレスを受けていないボスザルの脳と順位の低いサルの脳を調べた所、ドーパミンと受容体の結合が、順位の低いサルははるかに少ない。ドーパミンが少ないと普段から楽しめることも楽しくなくなってしまう。例えば、太陽や緑の木々がどんより見え、食べ物も美味しく感じられなくなる。そうした症状は、脳の機能によるものであり、脳がそのように機能するのは社会的地位が低いことに起因していると考えられる。
 社会的地位が低い状態にあるという現実そのものがストレスだが、惨めな気分を味わうことによって、更に大きなストレスがかかる。自分が持っていない物を鼻先で見せつけられたら、社会の中で貶められた気分になるだろう。

 カリフォルニア州リッチモンド。社会格差が通りからもひと目で分かるこの街を心臓医 ジェフリー・リッターマンは、通勤で通る。住民のストレスや健康状態は、こうした町並みから窺い知ることが出来る。
 この辺りに住む人は、平均余命がかなり長く、大半は健康。
 しかし、丘の上に近づくにつれ、だんだん貧しい地域に入ってくる。町並みが変わると同時に社会的階層も下がってくる。そしてそれと呼応するように住民の健康状態もはるかに悪くなっている。
 この辺りの平均余命は、先程通った中産階級エリアほど長くはない。人々は常に警戒し、ピリピリしている。このようにストレスの多い生活は、体内にストレスホルモンを分泌させ、徐々に健康を蝕んでいく。
 リッターマン医師の患者 65歳男性は、この危険な地域で、子どもたちの指導員を務めている。
 「昨年は殺人が47件、ここ4日間で発砲が11件、3人の死者が出ている。犠牲者の9割は、この子たちの親戚か知り合い。」
  慢性的なストレスは、彼の体に大きなダメージを与えた。5年前には心臓発作を起こし、糖尿病にもかかっている。この仕事に就いて20年になるが、とにかくストレスだらけ。長年の間にコレステロールの数値や血圧、血糖値が上がってきた。そのおおもとは、すべてストレス。

○肥満との関係

 イギリスの公務員を対象とした調査では、社会的階層によるストレスと太り方の関連が見出されている。単に太るというだけでなく、脂肪の付き方が問題。体の中心、つまりお腹の回りに脂肪がつく肥満は、社会的地位、さらには慢性的なストレスと関連している可能性がある。

 シャイブリー博士は、「階級社会を形成するサルにも人間と同じような傾向が表れている。順位の低いサルは、ボスザルよりもお腹回りに脂肪がつきやすくなっている。ストレスが体脂肪の蓄え方まで変えてしまう可能性があるという発見には、驚いた。」と語る。

 サボルフスキーやシャイブリーのような研究者は、ストレスが肥満の重要な要因になりうると考えている。しかもそれは、危険な脂肪。
 お腹回りの脂肪は、体のほかの部分に付く脂肪より、はるかに悪性。お腹の回りに付く脂肪は、普通の脂肪とは異なるホルモンや化学物質を作り出す。そのため、健康に及ぼす影響も異なる。

 このような脂肪を付けないためには、ストレスを軽減しなければならない。しかし、私たちの社会はストレスを減らす事とは、全く逆のことに価値を置いている。現代社会の中で賞賛されるのは、一度に幾つもの仕事をこなすような人たち。でもそのような生活には、非常に多くのストレスがかかる。
 私たちは価値観を変え、バランスの良い落ち着いた生活を送る人を尊重すべき。

○「飢餓の冬」の生存者

 ある痛ましい歴史の一コマをきっかけに、知らない間に受けるストレスの恐ろしさが明らかになった。
 1944年厳しい冬とナチスの占領政策により、オランダは食料危機にさらされた。「飢餓の冬」と呼ばれるこの時期を生き延びた人々にとって、当時の苦しみは、忘れがたいものとなっている。

 オランダの研究者 テッサ・ローズブーム博士は、飢餓の冬の体験者から話を聴き、その影響を調べてきた。
 飢餓は、他のストレスと同様の反応を体に引き起こすことが知られている。そしてその影響は、当時母親のお腹の中にいた胎児にも及んでいる可能性がある。
 戦時中の詳細な記録から、2400人を超える該当者を割り出すことに成功し、飢餓の時期、もしくはその直後に生まれた人々のデータを分析した結果、胎児の頃飢餓にさらされた人々は、そのストレスによってもたらされた影響に、60年以上経った今も苦しめられていることが分かった。
 飢饉の時、母親のお腹の中にいた人々は、心臓に疾患があったり、コレステロールの数値が高いだけでなく、ストレスに敏感であることが分かった。飢饉の前に生まれた人や、その後に身籠られた人たちより健康状態が悪かった。母親の血液中のストレスホルモンが、胎児の神経系を変化させたと研究者はみている。胎児の時初めて出会った強烈なストレスの衝撃は、60年後の今も彼らの体に残っているのである。

 ストレスは、脂肪の付き方を変えるだけではない。
 このような強いストレスは、脳の中の化学物質や大人になってからの学習能力、そしてストレスへの対応能力などにも影響を及ぼす。それだけでなく、胎児の時に受けたストレスは、うつ状態や精神疾患になりやすいかどうか、といったことにまで影響する可能性がある。
 飢餓の冬に見られた現象は、生まれる前の環境や経験から受けたストレスが、その後の人生に傷跡を残し続けるということを明らかにした。

つづく。じゃんじゃん。
追伸。私も海馬が萎縮中です。
「マタハラ」はこの意味でも犯罪だ。

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