第22回産業ストレス学会の報告 42014年12月08日 10:40

<新型ウツ等の対応困難事例の支援-労務管理と連携した職場復帰支援を中心に> 2の2

8.新形ウツへの対応の基本

 ひと言では「親身なお世話と冷静で毅然とした対応」になる。感情的な厳しい対応は避けて、ルールや筋を通して出来る限りの配慮をするとともに例外扱いはしない。「被害者意識を持たせない」とともに、安易な甘えは受け入れてもらえないという社会の基本ルールを覚えさせる。
 親身な対応は少しずつ内心の自尊心や自信を強め、評価に対する過敏を軽減してくれることが期待される。特権意識や甘えを許すことは、ますます増長させ、本人をだめにしてしまうかもしれない。状況に耐えられず転身を図ることは、やむを得ないこと。

9.対応の工夫

①人事労務管理スタッフとメンタルヘルス専門スタッフで上司を支える

 新形ウツ病者に対応するのは大変難しく、上司の負担は非常に大きい。上司が感情的対応になってしまった場合、「被害者意識」を増長させ、訴訟に発展するリスクもある。

②本人を高く評価する上司の下では優れたパフオーマンスを見せることも

 自信がなく自尊心が傷つきやすいので、褒めるのが上手な上司や評価してくれる上司の下では、うまく適応し能力を発揮してくれる場合も。

③場合によっては、家族に職場の誠意を理解してもらう

 職場が困っていることや、本人・主治医の意見に基づき職場が配慮していることを何度も家族に具体的に説明し、実情を理解してもらうとともに、問題の解決をともに考えてもらう。

10.現実に起きる問題と対応

①長期に連続して休もうとせず、「長く休むと休み癖がつく」「休んだ日だけ病休扱いに」と

 主治医の判断に従い休業するよう説得する。断続的な休業は認められず、回復にも妨げがあることを伝える。ただし、「休み癖」はうつ病による不安である可能性もある。

②休んでいるのに診断書を提出しない、あるいは受診しない

 すでに付与された有給休暇のうちは勤怠処理することになるが、残っていない場合や無断欠勤は就業規則で懲戒解雇になることを本人や家族に伝える一方で、早急に受診して診断書を出すよう厳格に指導する。曖昧な対応は規則違反を見ためたことになる。

③主治医の診断や治療に疑問を感じる

 産業医等が主治医と情報交換できるよう整える必要がある。主治医の選択権は患者にあるので、合理的理由がない場合は安易に転医を促すべきではない。順調に回復しなければ本人や家族に恨みを買う場合も。

④休業中にレジャーやアルバイトをしている

 病気休業中でもレジャーは禁止できない。兼業禁止の就業規則があれば病気中であるかどうかにかかわらずアルバイト等は禁止できるが、「職場復帰の訓練」と主張されると判断に苦しむ。

⑤単身者が休業中に実家に帰らず、また、家族に伝えていない。

 家族に状況を話し実家で療養するよう助言や指導すべきだが、自殺念慮や心神喪失でない限り強制は出来ない。本人が拒否する場合は主治医に会社の意向を伝えるとともに経緯を記録する。

⑥「出勤可」の診断書が出されたが、職場側から見るところでは耐えられる状況にない。

 主治医や本人に職場の状況を話し、再発休業は周囲の信頼を損なうことや自分の自信にも影響すると伝える。

⑦休業期間満了直前に職場復帰し、一定期間就業の後、休業の権利を得たらまた休みはじめる

 職場復帰の可否についての職場判断を主治医や本人に伝える。ただし、勤務態勢の可否判断は「やってみなければ分からない」ということが多くあるので、「ラストチャンス」として認めることも出来る。

⑧社内手続きのために休業を引き延ばせるか

 社内手続きは円滑な職場復帰と再発防止のための手続きであり、社内規定・規則に手きを明記してあり、手続きに要する期間が合理的であって、その間に本人が著しい経済的不利益を被るのでなければ問題ないと思われる。ただし、主治医は“出勤可”の診断書作成した後で、社内手続きに要する期間のため休業診断書は書けないということもありうる。
 そのような事態を防ぐため、職場の受け入れ体制や出勤の時期を職場と調整した後に主治医に診断書を作成してもらうよう、本人に伝えるべき。
 
⑨主治医が職場の事情を無視した要求をする。職務の軽減などにより職場が苦慮する

 就業規則等に基づき、出来ることと出来ない事を主治医や本人(家族)に明確に伝える。後で「期待を裏切られた」とならないように、気を付ける。規則を拡大解釈することは、その後のケースに例外を認めたことになる。

⑩出勤を拒否できるか

 会社は出勤を拒否できる。ただし訴訟に備えて、客観的判断基準を明確にしておく。しかし、ほとんどの場合、「やってみなければ分からない」ことが多いので、試し出勤等の制度を整備すべき。

⑪上司の変更や「やりがいのある仕事」などの要求にも応えるべきか。

 可能な範囲で出来るだけの配慮をし、本人や主治医・家族の理解を得る努力をする。応じられないことはその理由を明確にして、本人や主治医に伝える。

⑫「試し出勤(リハビリ)」は病休扱いでよいか

 会社が許可し、上司の監督下で行うものならば軽作業であろうと労務の提供と見なされる。病休扱いでは通勤途上の事故などで労災が適用されないので、職場における試し出勤は出勤扱いとして実施すべき。就業規則などに勤務時間や賃金の定めをしておくべし。

⑬病気の情報を職場にどの程度伝えておくべきか。本人が隠したがる場合は。

 本人の了解が前提なので範囲や程度について説明し了解を得る。拒否する場合は、そのために就業場や健康管理上の配慮が受けられないなどの不利益を説明し、その説明事実を記録しておく。 

⑭出勤開始直前に本人の状態が急変する

 本人がまだ自信のない状態なのに家族等からの圧力で出勤しようとする場合や、無理をしてでも早く出勤しなければと思い込んでいる場合、あるいは不安感や抵抗感を本人が自覚できていない場合などでは、直前に状態が悪化することがある。最悪の場合前夜に自殺する場合もあるが、産業スタッフは、本人の非言語的情報を把握するよう努めるべき。そのようなケースもあることを心得ておく。

⑮出勤開始後に本人が治療をやめてしまったり、服薬等が不規則になっている

 本人に通院と服薬をきちんと指導し、従わなければ、家族や主治医に伝えるとともにその経緯を記録する。

⑯仕事が出来ない、覚えない、ミスが多い、指示を守らない、忘れる、反抗的、攻撃的、頻繁に休むなど

 退職を促すとかえってこじれかねない。放置すると容認したことになる。問題行動には本人に都度注意するとともに、反発など改善しない場合は、その状況を記録し、何度でも家族や主治医に伝え、対処を話し合う。

⑰再発・休業を繰り返し、出勤しても能力は極めて低い。

 これまで職場が主治医や本人の意向を踏まえて可能な限り配慮をしてきたが、それでも本人が休業を繰り返し勤務に耐えられないことを、過去の記録などから客観的に示し、具体的事実を示して主治医や家族と考える。

11.中小企業の困難事例から気がつくこと

①就業規則等の整備がなされていないことが多い。
②多くの時間をかけて対応しなければならないことが理解してもらえない。
③精神科の受診は、社員を病気と診断させて退職に追い込むための手続きの一つであるとの誤解が、本人・家族側や会社側にもある。
④上記の②と③をただそうとすると嫌な顔をされる。

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