シリーズ 労働安全衛生とは その12015年07月17日 10:15

 7月はじめてのブログですが、今回から「労働安全衛生とは」をシリーズでお送りしたいと意気込んでみました。最近の問い合わせは、「安全衛生委員会」に関するものがちらほらとあるのですが、ほとんどの方が、いきなり安全衛生委員会で何やったらいいだろうかというようなお話ですので、その前に、労働安全衛生の現状やら、安全配慮義務などの契約上の問題等を若干解説し、その上で、職場における労働安全衛生の舞台として、安全衛生委員会を取り上げます。
 知ってる人にとっては、「今更なにを」かもしれませんが、あるいは、「おまえの理解はちがうぞ」ということもあるかもしれませんが、ぜひご指摘ください。

 では、まず、
 一般的に、労働安全衛生というと「おたく」がいて、めっぽう詳しく、なんやかやとうるさい存在というイメージです。しかし、やってみると、労使協働作業の典型で、極めて強力な接点でもあります。

 職場には、3種類ありまして、
① 真面目に取り組む職場
② どうしても取り組まねばならない危険な職場
③ 取り組みたくない、目を背けてばかりいる職場 です。
 もう一つあげるなら、労使ともに「何も知らない」という危険な職場もあります。

● 労働安全衛生の歴史
 これから見てみましょう。昔は、「死亡災害の歴史(先人の血で書かれた文字)=怪我と弁当はテメエ持ち」と言われてきました。
 法的には、
○ 工場法(1911年 明治44年 施行5年後)
○ 労働者災害扶助法(1931年 昭和6年)
 -戦後-
○ 労働基準法(1947年 昭和22年)
○ 労働安全衛生法(1972年 昭和47年
という対策がなされてきました。

 1912年、足尾鉱山のじん肺(けい肺)問題が始まりで、「安全専一」というスローガンも生まれました。北海道では炭鉱事故が多く起きて多くの人命が失われています。

 「血塗られた歴史」というのはおだやかでありませんが、それ以外に表現できません。つまり、労働者が大量に死ぬと、原因に関する法律が変わってきたのです。

 労働災害の原因は、
① 企業の経営姿勢
② 無理な作業日程
③ 化学物質への無知
④ 技術の進化~ロボット殺人
⑤ 人間のおごり~福島原発
などが原因と言うことになります。

 特に労働安全衛生法が出来てからは、劇的に死亡災害が減少してきます。できる前の昭和34年には死亡災害が約7千人でしたが、法整備がすすむにつれて、今日では、死亡災害は1千人前後となっています。
 まあ、これはどう考えても、ゼロに限りなく近くなければならん話ではあります。

● 休業4日以上の被災労働者数
 労災統計では、休業4日以上の被災労働者数も公表します。これは、労基法で、3日までは使用者の責任とされているためです。(労働者災害補償法14条)

1961年・昭和36年 48万人 1928人/10万人
  -労働安全衛生法(1972年 昭和47年)-
1975年・昭和50年 35万人  972人
1990年・平成2年  21万人  447人 
2000年・平成12年 13万人  243人
2010年・平成22年 11万人  197人
2012年・平成24年 12万人  225人
2013年・平成25年 11.8万人 218人/10万人
 最近の危惧としては、災害で3人以上死亡する「重大災害」が増加していることです。爆発や化学薬品の中毒・薬傷が多いことです。

 北海道の労災は発生率の人口比が相変わらず高いことにあります。
 H25の死亡64名、死傷6,644名で、都道府県の比較では人口が7番目なのに労災死亡者数は全国2位、死傷者は3位です。労働者10万人あたり死亡者・死傷者ともに全国1位で、東京都と比べると死亡者数で3倍、死傷災害は1.6倍。さらに健診の有所見率でも建設業・運輸交通業で全国平均より10%以上高いということになります。

<事例>
 苫小牧の労災は、コーンの粉じん爆発
 鉄鋼業は、室蘭で、支えをはずしたら転がった。
 食品加工エレベーターは、人が乗れないはずの搬送エレベーターに乗って挟まれた。
 バケットも、人が乗ってはならないはずのユンボのバケットに乗った。
 林業では、伐採した木の倒れる方に避難した。
 いずれも、経験というか、危機感が足りなかったといえます。

 運送業でも、交通事故だけじゃなく、荷掛けのロープやつり上げ(玉掛け)の不慣れなどがありますが、特に荷積みの際の荷崩れは重大事故になります。

 最近の事故は現場力の低下が大きな原因と言われています。現場力の低下とは、危険感性の低下であり、それは、①熟練労働者の不足・人員削減(人事)、②自動化の進展・自分で触らない(技術)、③設備の高齢化・更新機会現象(設備)、④技術の継承が出来ない(教育)などで、設備を知る人材が不足、どこに危険があるか分からない、ということです。
 事故は週末の夜間に起きていることが多いのですが、「設備でなにが起きているか分かっていない」ため、対処が不可能、あるいは遅くなって、事故が大きくなると言われています。
 つまり、1.過去の事故事例の検証、2.危険予知訓練(KYT)を常に実践という労働安全の原則がおざなりにされているのです。

 次回は、「ヒューマンエラー」についてです。
 じゃんじゃん。

シリーズ 労働安全衛生とは その2 ヒューマンエラー2015年07月21日 09:21

 さて、その2は「ヒューマンエラー」です。

○ 人は絶対にミスをする
○ 人間の認知システムはあいまい
○ うっかりミス、行為のスリップ、失念
 
 人間の認知システムがコンピューターと違って、文脈を読むことができるのですが、これは「思い込み」につながります。
 行為のスリップは、熟練にともなう副作用のことで、意図は正しいのに行為が違っている(手順が変わったことに従わない)こと。
 失念は、覚えた情報を適切なときに思い出せない=連絡の漏れや手順のやり忘れ。
 「集中せよ。さすれば何事も成し遂げられる」は、ぼやっとしている人には有効ですが、すでにめいっぱい集中(本人なりに)している人には返って能率を下げることにもなります。7:3の法則というのがあって、7は仕事に意識を向け、3は集中力や身体の管理に向けるのが正しいのです。


 例えば、上の図は、ちゃんと読めてしまいますね。意味も分かります。不思議ではありませんか?

 一方、「人間は忘れる」と言うことも忘れないでください。
 「エビングハウスの忘却曲線」というのがあって、20分後には42%忘れる、1時間後には56%忘れる、1日後には74%忘れる、となっています。だから「1度言ったことは忘れるな!」は通用しないのです。安全教育も「前に受けた・・・」ではだめです。繰り返し受けることが必要になります。

● 安全の大前提とHEの4原因
 これを整理すると、
○ 人間はミス・間違いを犯す
○ 機械・設備は故障する
○ 絶対安全は存在しない~原発事故
○ 意識の低下、意識の中断、意識の迂回、意識の混乱

 意識の低下は、温湿度、照明、騒音、粉じんなどの不快環境や、長時間労働・年齢などによる身体機能の低下でおきます。
 意識の中断は、持病や脳出血、SAS等で意識を失うことです。
 意識の迂回は、心配事・悩み・不安・不満などがあると、意識が回り道をして、見落としや聞き落としがおきやすくなることで、運転中の携帯電話などが代表的です。
 意識の混乱とは、作業の手順が通常と違う、自然の流れと異なるときに起こりやすくなります。例えば、扇風機の羽根羽根をとめるねじなど。

 「安全のABCだけでは防止できない」と言うことになります。安全のABCは「あたりまえのことを」「ぼんやりしないで」「ちゃんとやれ」ということらしいのですが、安全衛生ではこういう略語が多く、時々イラッとします。

 HE(ヒューマンエラー)を防ぐ方法として、一番有名なのは、「指差喚呼」ですね。JRの運転手が信号や停車駅などを確認する時、指差しして、「~~よし!」とかってやるやつです。
 これは年をとると、忘れっぽくなりますけど、忘れ物防止にもけっこう役に立ちます。

 同じように、「コメンタリー・ドライビング(ブツブツ運転)」だとか、「役割交換ロールプレイ」などもHEの防止に役立ちます。

 しかし、ある職場(最近民間になった)で行っている「お立ち台」は、事故があった人をみんなの前でさらし者にすることらしいのですが、HEの予防にはなんの役にも立ちません。単なるハラスメントです。
 なぜなら、「事故を起こしました。二度と起こさないように気を付けます」で済ませてしまうと、「どういう場面で、どういう原因で事故が起こったか」、「何に気を付ければ防止できるのか」が、さっぱり分かりませんし、情報の共有化もできないからです。

 ということで、じゃんじゃん。

シリーズ 労働安全衛生とは その3 安全配慮義務2015年07月22日 15:35

● 労働安全衛生とは?

 まず、「労働契約」は使用者と労働者が締結するものです。
 この契約によって、労働者は労働力を使用者に提供することになります。
 一方、労働力の提供を受ける使用者には、労働者が「安全」で「衛生的」に働けるような環境をつくる「安全配慮義務」が発生します。労働者は命まで提供しないからです。
 そこで、職場の安全衛生のレベルは労働安全衛生法によって、安全委員会・衛生委員会・安全衛生委員会が「決める」のではなく、チェックすることになります。あくまでも職場の安全確保は使用者の責務です。

 これを正確に表現すると「使用者(雇用者)と労働者(被雇用者)の関係は、労働と賃金の関係ですが、労働契約の条件である、労働時間や賃金制度、雇用期間、職業訓練、災害補償などは「就業規則」で定めます。(労基法15条 労働条件の明示 89条就業規則)。その中に安全衛生も当然含まれます。
 労働者の労働力を使うためには、安全で衛生的な職場が保障されなければ、命をかけて働くことになり、そんな職場には今時だれも来ません。これを「安全配慮義務(労働契約法5条、労働安全衛生法71条2項)」と言います。従って、職場の労働安全と労働衛生は使用者の義務となります。」と言うことになります。

 ここでいう「使用者」とは、社長だけではありません。民法715条では「使用者等の責任」となっていますから、社長はもちろん、管理監督者の全員、そして、安全配慮義務としては、平社員であろうと、他人に指示する業務内容であれば、負うことになります。

● 安全配慮義務の構成要件
 「安全配慮義務」の概念は広がりつつあります。単に雇用契約に限らないで、病院や介護施設においても、患者・入所者とは双方向で、課せられます。
 その構成要件は、
 ①物的環境の整備(川義事件)
 ②予防・回避措置=安全衛生教育(安衛法66条)
 ③危険発生=操業停止などの措置(私傷病含む)
 ④(長時間労働等の)働かせ方(電通事件)
 とされています。
 なお、パワハラ・セクハラなどのハラスメントは「職場環境配慮義務違反」という労働安全衛生法違反(66条、仙台セクハラ事件)です。
 
 これらは法的な観点ですが、職場的には、OSHMS(労働安全衛生マネジメントシステム)やツールとしてのリスクアセスメント(RA)が有名です。
 しかし、これらは相当規模の企業(おそらく3千人以上)でなければ、具体的には労働安全衛生のセクションが明確な企業以外では、実現不可能なシステムです。
 しかし、全面導入された英国での調査でもOSHMSは労働災害の減少に有効であると認められていますから、なんとかならないかと思って取り組んだのが、労働科学研究所と労働国際財団(JILAF)の共同による「POSITIVEプログラム(労働組合が主導する労働安全衛生プログラム)で、北海道では、すでに5回実施しています。

比較的成功していると思われるOSHMSとしての共通点は、
① すぐの改善を目指す
② 自分自身や職場の経験に基づく
③ 低コスト改善に注目する
④ グループワーク(職場・仲間の話し合い)によって改善する
であると指摘されています。(労研・吉川)

 そこで、いきなりの結論(1回目)で恐縮ですが、「システムを作っても動かなければ役に立たない。要は安全衛生委員会が機能するかどうか」ということにさせていただきます。
 取り急ぎ、じゃんじゃん。

シリーズ 労働安全衛生とは その4 安全衛生委員会2015年07月24日 15:12

 さあ、やっと安全衛生委員会にたどり着きました。

まず、設置の基準です。もちろんすべての職場にあるべきなのですが、法的に最低基準が決まっています。

○ 安全委員会~業種により常時雇用する労働者が50人以上、100人以上(安衛令8条)
○ 衛生委員会~全業種50人以上(安衛令9条)
○ 安全衛生委員会(安衛法19条)
常時50人以下~意見を聞く機会(安衛則23-2)
常時10人~50人未満~安全衛生推進者等

 ここでいつも問題になるのは、「事業場」と言うことです。
 事業場の解釈としては、昭和47年9月18日発基第91号通達の 第2の3「事業場の範囲」で示されています。
 その中で、労働安全衛生法は、事業場を単位として、その業種・規模等に応じて適用することとしており、事業場 の適用範囲は、労動基準法における考え方と同一です。つまり、一つの事業場であるか否かは主として場所的観念(同一の場所か離れた場所かということ)に よって決定すべきであり、同一の場所にあるものは原則として一つの事業場とし、場所的に分散しているものは原則として別個の事業場とされています。
 例外と しては、場所的に分散しているものであっても規模が著しく小さく、組織的な関連や事務能力等を勘案して一つの事業場という程度の独立性が無いものは、直近 上位の機構と一括して一つの事業場として取り扱うとされています。
 また、同一の場所にあっても、著しく労働の態様を異にする部門がある場合には、その部門 を主たる部門と切り離して別個の事業場としてとらえることにより労働安全衛生法がより適切に運用できる場合には、その部門は別個の事業場としてとらえるこ ととしています。この例としては、工場の診療所などがあげられます。
 なお、事業場の業種の区分については、「その業態によって個別に決するもの」とされて おり、事業場ごとに業種を判断することになります。例えば、製鉄所は「製造業」とされますが、その経営や人事の管理をもっぱらおこなっている本社は「その他の事業」ということになります。

 ただし、「何人の規模で設置するのか」は法的事項ではありませんので、その企業などの規模で考えればいいのですが、「統括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医・経験を有する労働者(過半数は労働者の過半数代表)となりますので、最低7名は必要になります。

 次に、何をその委員会でやるのかについても、細かく決まっています。

<安全委員会の重要審議事項~安衛則21・22条>
① 労働者の危険を防止するための基本対策
② 労働災害の原因及び再発防止対策で、安全に係るものに関すること。
③ 労働者の危険の防止に関する重要事項(※2)

(※2)重要事項には次の主要付議事項が含まれます(安衛規則21条)
1.安全に関する規程の作成
2.危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置のうち、安全に係るものに関すること。 →リスクアセスメント
3.安全衛生に関する計画(安全に係る部分に限る。)の作成、実施、評価及び改善に関すること。 →マネジメントシステム
4.安全教育の実施計画の作成
5.官公庁から文書で命令・指示・勧告・指導を受けた労働者の危険の防止に関すること。

<衛生委員会の審議事項 安衛法18条>
① 労働者の健康障害防止基本対策
② 労働者の健康保持増進基本対策
③ 労働災害の原因調査および再発防止策
④ その他健康障害の防止、健康保持増進に関する重要事項(※1)

(※1)重要事項には次の主要付議事項が含まれます(安衛規則22条)
1.衛生に関する規定の作成
2.業務遂行上の危険性又は有害性の調査と結果に基づき講じる衛生に係る措置
3.衛生に関する計画の作成、実施、評価および改善に係る措置
4.衛生教育の実施計画の作成
5.新規の化学物質の有害性調査とその結果に対する対策の樹立
6.作業環境測定の結果とその評価に基づく対策の樹立
7.健康診断および医師等の診断の結果に基づく対策の樹立
8.労働者の健康保持促進を図るために必要な実施計画の策定
9.長時間労働に従事する労働者の健康障害の防止を図るための対策の樹立
10.労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立
11.官公庁から文書で勧告・指導を受けた健康障害防止に関すること

 なお、「安全衛生委員会」という名称にすると、全業種の50人以上の事業場には必須となります。また、構成は総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医、経験を有する労働者~過半数は労働組合か労働者の過半数を代表するもので、審議事項は「安全委員会」と「衛生委員会」の両方の事項です。

<共通事項>

① 運営規則等は自ら定める
② 毎月1回開催
③ 議事の概要を周知
④ 議事録を作成し3年間保存

また、会議の開催時間は労働時間となることが決まっています。(基発第602号)

 長くなるので、とりあえず、じゃんじゃん。