シリーズ 睡眠について その11 いびきと睡眠時無呼吸症候群 その22015年10月01日 16:10

◎ 睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは

 何らかの理由で睡眠中に気道の空気の通りが悪くなり、呼吸が一時的に止まる状態が繰り返し何度も起きる病気を睡眠時無呼吸症候群といいます。英語ではSleep Apnea Syndoromeといい、略してSAS(サス)と呼ばれることもあります。
 大きないびきのあとに呼吸が止まり(無呼吸の状態)、しばらく静かな状態が続きいびきが止まったかと思うと、また大きないびきが始まるというのが睡眠時無呼吸症候群患者の典型的ないびきです。こうした特徴的ないびきをかいている人は、睡眠時無呼吸になっている可能性が高いと言えます。

睡眠時無呼吸症候群の一般的な定義(診断基準)
■10秒間以上の無呼吸が、7時間の睡眠の間に30回以上発生する 
あるいは
■無呼吸が1時間の睡眠の間に5回以上発生する

 無呼吸の状態は一時間に5回以上発生し、数十秒から長い時には数分間も続きます。もっとも長い場合で5分近く呼吸が止まっていた、という報告もあります。無呼吸はレム睡眠の時に起こる確率が高く、夜中に何度も目が覚めて睡眠が分断されるため睡眠は浅くなります。

 長いときには数分間も呼吸が止まった状態となり、脳が酸欠状態になると一時的に目が覚めますが、本人はすぐにまた眠りに落ちるために朝になっても目が覚めた記憶がありません。こうして本人はまったく認識しないままに、呼吸が止まって目が覚めるという繰り返しを一晩中続けるわけです。(重度の患者の場合、500回の無呼吸が発生します)いっしょに寝ている家族が異常に気づき、病院に相談に行くことをすすめるケースがほとんどのようです。

 いびきをかくことイコール睡眠時無呼吸症候群だと思っている人もいますが、いびきをかくからといって、必ずしも睡眠時無呼吸症とは限りません。いびきをかく人の30~40%程度が、睡眠時無呼吸症だといわれています。国内の患者数は100万人以上、全人口に占める割合でいうと、1~2%程度だと言われており、年齢にかかわらず子どもから老人までまんべんなく発症します。

 睡眠時に完全に「無呼吸」にならなくても、睡眠中に体内に吸い込む空気量が無呼吸と同様の原因で著しく少なくなることを「低呼吸」といいます。こちらも血中酸素濃度が低下するという意味では、無呼吸よりは程度が軽いとはいえ危険な状態であることは変わりありません。呼吸が止まっていないからと安心はできません。寝起きがすっきりしない、日中に睡魔に襲われるなどの症状がある人は、低呼吸になっている可能性が誰にでもありえると考えたほうがいいかもしれません。

 睡眠時無呼吸症候群になると日中に強烈な眠気に襲われ、運転中や会議中などでも突然眠ってしまうという異常な事態になることがあります。特に運転中に突然眠ることは、事故に直結する危険な現象です。また、一日を通して気分がなかなか高まらず、仕事や勉強に対する意欲も低くなります。集中力、判断力、注意力、記憶力などが悪影響を受け、効率性や生産性は下がります。周囲から見ると怠けているように見え、社会的に欠陥がある人間という烙印を押さえれてしまうかもしれません。睡眠時無呼吸症候群という睡眠障害がまだ社会に広く知られていないため、間違ってうつ病と診断されてしまったり、社会から断絶されてしまうことにもなりかねません。
 
◎ 睡眠時無呼吸症候群の原因と対策

 睡眠時無呼吸症候群の主な原因は肥満によって空気の通り道が狭くなっていることです。気道がふさがって酸素が不十分となり、血中の酸素濃度が低下するため、脳が休息できません。睡眠の質が低いので、昼間も集中力が上がらず、だるさや眠気が抜けない。昼間に強烈な眠気に襲われて、車を運転中に眠ってしまうケースもあり非常に危険です。(アメリカではSASと認められると、運転免許が交付されないようです)
 睡眠時無呼吸症候群は治療が必要な病気ですが、治療に入る前に自分でできる対策があります。

1.ダイエットをする
 睡眠時無呼吸症候群の症状がある人の多くは、肥満傾向にあるという事実があります。舌やノドの周囲にも余分な脂肪があるために、上気道が狭くなりやすいのです。まずはダイエットで余計な脂肪を落とすところから始めるのも効果的です。

2.横向きで寝る
 仰向きで寝ると重力のせいで、睡眠中に舌がノドの奥に落ちやすくなります。舌が上気道をふさいでしまうのを防ぐために一番簡単にできる対策は横向きに寝ることです。寝ている間に仰向きに戻ってしまわないように、枕の片側半分の下にタオルを折りたたんで入れておき、少し傾斜をつけておくという方法があります。真横を向くことができなくても、首や体がすこしでも傾けば上気道に空気が通りやすくなります。また、自分の頭に合った高さの枕を使って気道を確保することも大切です。

3.鼻呼吸の習慣をつける
 普段から口呼吸をしている人は、睡眠中も口で呼吸をしています。口から息を吸い込むと非常に大量の空気が入ってくることになり、狭くなった上気道を通ろうとしたときノドを振動させていびきが発生します。鼻で呼吸するようにすれば症状はだいぶ変わってくるはずです。

4.寝酒をやめてアルコールをひかえる
 もともといびきがひどかったり、睡眠時無呼吸の症状が出る人は、アルコールを飲んで寝たときのほうがより症状が悪化します。これはアルコールによって筋肉のゆるみが増長され、舌によって上気道がふさがれやすくなるためです。

 睡眠時無呼吸症候群は、自分でその症状を自覚することは通常難しいので、どうしても家族の協力が必要です。睡眠中に呼吸が止まっていると家族が気づいた場合は、早急に医師に相談してください。呼吸器科、耳鼻咽喉科に連絡して、睡眠時の呼吸障害についての専門家がいるかどうか問い合わせてみてください。

 上記の方法を試しても症状が改善しない場合でも、深刻に考え込む必要はありません。睡眠時無呼吸症候群には効果的な治療法がたくさん用意されていますし、完全に治すことが十分に可能な病気です。経験の多い専門家に適切な処置をしてもらえれば、睡眠状態が劇的に改善することが多いに期待できるのです。

◎ 睡眠時無呼吸症候群になりやすい人

 睡眠時無呼吸症候群になりやすい人として代表的なのが、肥満の人、首が短い人、下あごが小さい人、高齢者です。
 これらの人たちは上気道がもともと狭い上に、睡眠中はノド周囲の筋肉が緩んでしまい上気道が完全にふさがってしまいます。このようにして、10~90秒もの間、呼吸が停止することになります。無呼吸状態が終わり、呼吸を再開する際に非常に大きないびきをかきます。

 一緒に寝ている人が驚くほどの大音量のいびきをかいているにもかかわらず、ほとんどの場合、当の本人はそのことにまったく気づいていません。無呼吸やいびきの自覚はないものの、深い眠りが非常に少ないために朝起きた時に、すっきり爽快とはいかないようです。

 睡眠時無呼吸症候群は30代くらいから増え始め、年齢が上がるにつれて症状は悪化するという特徴があります。これは30歳を過ぎたころから代謝が下がってくるため太りやすくなり、年齢とともにノドや首周辺の筋肉が衰えていくことが原因だと考えられます。特に40~60歳の肥満傾向の中高年男性に多く、女性にはほとんど発症しません。ただし、閉経して女性ホルモンが分泌されなくなる更年期を過ぎた後は、女性でも睡眠時無呼吸症候群の症状が出てくる場合もあるため、女性ホルモンの量が関係しているのではないかと考えられています。

 肥満の傾向がある人は、まずは自分のBMI値(肥満度を示す基準値)を計算してみましょう。これは体重を身長で2回割ることによって計算できます。

BMI=体重(Kg)÷身長(m)÷身長(m)

 たとえば、身長170センチで体重が65キロの人は、BMI = 65(kg) ÷ 1.7(m) ÷ 1.7(m) = 22.49 となります。
 なお、BMI値の標準値は22となっています。睡眠時無呼吸の症状が出る人は、BMI値が26を超えている方が多く、肥満傾向があります。 重症患者になればなるほど、BMI値も高くなる傾向にあります。

 肥満の人の場合は、ダイエットにより体重が減ると症状が改善することがあります。一般的に肥満の人のほうが睡眠時無呼吸症候群になりやすいと言われていますが、日本人の場合はもともとアゴが小さい人や舌が厚い人が多く、肥満でない人でも症状が出ることがあるようです。これは持って生まれた民族の体質ですから、若い人でも油断はできません。また、小さな子どもでも決して例外ではありません。お子さんの寝息に耳を傾けてみて、もしも睡眠中に呼吸停止が見られるようでしたら、一日も早く医師に相談してください。

 高齢者になると筋肉が衰え、のどや舌の周囲の筋肉も同様に衰えてきます。そうすると睡眠中に舌がのどの奥に落ち込むこととなり、筋肉のあった若い頃に比べるといびきをかきやすくなり、睡眠時無呼吸を発症するリスクも高まります。

◎ 睡眠時無呼吸症候群は命に関わる病気

 睡眠時無呼吸の患者は、数十秒の呼吸停止を多いときには一晩に数百回も繰り返しながら、自分でも気づかないながらも頻繁に覚醒し、ぐったりと疲労して朝を迎えます。いわゆる熟睡ができていない夜が慢性的に続きますから、心身ともに異常が出てきて当然です。睡眠中は酸素不足により血圧は上昇、心拍数は増えて心臓や血管に非常に大きな負担をかけることになります。

 健康な人は睡眠中は血圧が下がりますが、睡眠時無呼吸の患者の場合は、一晩中ずっと覚醒しているようなものですから、寝ている間も血圧が下がらずに血管や心臓に負担をかけ続けることになります。通常は降圧剤で血圧を下げることができますが、睡眠時無呼吸患者の場合は効果が出ないことが多いようです。
 こうして血管や心臓に負担をかけ続けると、そこから派生してさまざまな他の病気を誘発することになります。無呼吸によって体内の酸素量が慢性的に減るために、脳や心臓だけでなく呼吸器系や循環器系などの様々な器官や内臓に深刻な悪影響を与えることになります。

 また、睡眠中に分泌されるホルモンが正常に分泌されなくなり、血中の脂質が上昇したり免疫力が弱くなるため、心臓疾患、脳卒中、糖尿病などの病気を引き起こす原因にもなります。睡眠時無呼吸の患者は糖尿病や高血圧も併発しているケースが多く、血管や脳や心臓にかかわるあらゆる病気の発症率が健康な人よりも非常に高いこともわかっています。
 治療を受けずに放置する期間が長くなればなるほど、不整脈、狭心症、心筋梗塞(血管が詰まって血液が流れない状態)、脳梗塞、高血圧などの原因になります。ここまでくるともはや生命に関わる重大な事態ですし、最悪の場合は睡眠中の突然死というケースもあります。
 睡眠時無呼吸症候群の患者は、健康な人と比べると死亡率が高くなるという報告がアメリカでありました。中でも睡眠時無呼吸症候群単独の場合よりも、心臓や血管の病気と併発している場合は、平均死亡率が急激に高まります。

◎ 睡眠時無呼吸症候群の自己診断

 専門医に相談する前に、自分が睡眠時無呼吸症候群であるかどうかを自己診断することができます。以下の項目のうち、自分があてはまると思うものにチェックをしてください。

■長期間にわたっていびきをかいている。
■睡眠中に呼吸が止まっていると家族や他人に指摘された経験がある。
■毎日のように日中に強烈な眠気に襲われる。(※)
■居眠りによる交通事故の経験や未遂がある。
■会話中や会議中など、通常ありえない状況で眠ってしまったことがある。(※)
■集中力や注意力がなくなったように思う。
■日中にぼーっとしてしまう時間が増えた。
■物覚えが悪くなった。
■目覚めが非常に悪い。
■朝起きたときに、口の中がカラカラに乾いている。
■朝起きたときに、頭痛がすることがある。
■体重や体脂肪率が増えてきて肥満傾向である。(※)
■一日中だるさ・疲労感が抜けない。疲れやすく、体が重い。
■食欲が出ない。
■毎晩のように夜中にトイレに起きる。
■人と会うなどの対外的行為が億劫で、わずらわしく感じるようになった。
■性的欲求が弱くなった。

 これらの項目のうち、半分以上にあてはまる人は睡眠時無呼吸に陥っている危険性があります。また、※印がついたものすべてにあてはまる場合は、睡眠時無呼吸症候群を発症している可能性が非常に高いと考えられます。一日も早く専門医に相談されることをおすすめします。

◎ 睡眠時無呼吸症候群の検査

 睡眠時無呼吸の疑いがある場合は、専用の設備のあるクリニックで検査を受ければすぐに結果がわかります。この検査は脳波、心電図、血圧、呼吸停止の回数や長さ、血中酸素濃度など、たくさんの項目について寝ている間にありとあらゆるデータを収集します。通常この検査は一泊入院で行われます。検査用の電極やセンサーなどの器具を身につけたまま一晩普通に寝るだけで、翌朝にはすぐに退院できますから休暇を取る必要もありません。
 検査から一週間程度後に、結果が知らされることになります。

◎ 睡眠時無呼吸症候群の治療 CPAPの利用

 いびきが悪化して睡眠時無呼吸症候群が発症してしまった場合は、どうすればよいのでしょうか。睡眠時無呼吸症候群は程度によっては生命に関わるような深刻な病気ですが、現在は治療方法が複数用意されています。治療の方法は、手術によるものとよらないものの二種類に大きく分類できます。
 よほど深刻な症状でない限り、多くの場合は手術をせずに治療を行うことになります。ここでは手術をしないで治療する方法についてご紹介します。

■持続陽圧呼吸装置(CPAP)の利用
 手術をしない内科的な治療法として最も効果があるとされ、かつ最も一般的に利用されているのが、持続陽圧呼吸装置(CPAP、シーパップ)と呼ばれる装置を使った方法です。これは、専用ホース付きの酸素マスクのようなものを鼻に装着して、空気を送り出す機械から睡眠中に鼻から一定の空気を流し続け、その風圧を利用して強制的に上気道を広げるというものです。送り出しているのはごく普通の空気です。

 寝るときに大げさなマスクを装着するので最初は違和感がありますが、CPAPを利用するとその日から睡眠時無呼吸の症状は著しく改善し、ぐっすりと非常に深く熟睡できるようになります。当初は機械が出す騒音がひどくて眠れないという問題がありましたが、現在では大幅に技術が進歩し、もはや睡眠時無呼吸の代表的な治療法として確立しています。不眠専門のクリニックや病院の中では、睡眠時無呼吸と診断された場合には医師の指導のものCPAPを利用する可能性が十分にあります。また、CPAPの機器は非常に高価なものですが、レンタルして自宅でも利用することができます。現在すでに日本では5万人を超える人たちがCPAPを利用して睡眠時無呼吸を治療しています。

 毎晩マスクを装着して寝るのが面倒になって、CPAPの利用をやめてしまう人がいますが、それでは睡眠時無呼吸はすぐに再発してしまい、治すことができません。根気よくCPAPを使い続けることが、もっとも確実な睡眠時無呼吸の治療法なのです。

■マウスピースなどの利用
 持続陽圧呼吸装置(CPAP)の利用よりも、手軽な治療法にはマウスピースなどを利用する方法もあります。

1.マウスピースの利用
 軽度の睡眠時無呼吸の場合、マウスピースの利用がもっとも手軽な治療方法です。上気道の空気の流れを確保するために、スリープスプリントと呼ばれるアクリル樹脂製のマウスピースのようなものを寝るときに口の中に装着する方法です。マウスピースによって下あごが前に出て、下がのどに落ち込むのを防ぐことにより気道が確保できます。
 口呼吸の習慣がある人もマウスピースを着用すると、あごが固定されることにより自然と鼻呼吸ができるようになります。この方法は鼻づまりなど、もともと鼻の空気の流れがよくないことが原因で睡眠時無呼吸となった患者や、中程度以上の症状のある患者には向いていません。

 持続陽圧呼吸装置(CPAP)のような大げさな装置を使わずに症状の改善ができるので、患者にとっても心理的抵抗が少ない安価で簡単な方法です。ただし、マウスピースは個人の歯型にぴったりと合わせて作る必要があるので、適当な市販品を使うというわけにはいきません。医師とよく相談した上で、自分にぴったり合ったマウスピースが必要です。なお、歯の状態によってはマウスピースの利用が向かない場合もあります。

2.鼻孔を拡張するテープの利用
 いびき対策グッズとして一般的に利用されている鼻孔拡張テープも有効な方法です。こうしたテープは薬局やドラッグストアなどで購入することができますし、最も安全で簡単な方法だと言えるでしょう。特に鼻の通りが悪くて睡眠時無呼吸となっている人には非常に有効な手段です。

 私はBMIが21くらいですから肥満ではありませんが、3年前の健診時に睡眠中の血中酸素濃度を測ってみました。
 なんと一晩に20回くらい低下がありました。特に問題ないレベルだそうですけど、一度試してみたらいいかもしれません。特におなか回りの脂が豊富な人は。
 じゃんじゃん。

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