第22回産業ストレス学会の報告 12014年12月03日 16:30

 大阪で開催された標記の学会に参加しました。
 まあ、面白かったというのが感想です。
 それより、大阪という街のエネルギーに圧倒されて、「ここは私の住むところではない」という感じで帰ってきました。
 特にどこか寄り道もせず、会議にはびっちり参加してきました。
 これから、おそらく10回くらいにわたり、報告しますが、全て私のメモによる「要約」とか「概要」、「感想」などですので、お間違えの無いように。

<「箱づくり法」から見た求職中のうつ病患者の作業特性と主観的体験内容の特徴>

{目的] メンタJレヘルス不調で休職した場合、職場に復帰する際には、業務(作業)遂行能力の回復が不可欠である。しかし、現在の復職支援では、作業遂行能力の評価や作業特性の把握について十分に検証されていない。そこで作業遂行能力検査としての「箱づくり法Jを実施し、休職中のうつ病患者の作業特性と主観的体験内容の特徴を分析した。
[対象と方法] 当研究所を利用するうつ病患者を対象として、本研究の説明を口頭及び書面にて行い、研究の同意が得られた21名(平均年齢40.1±6.8歳、男性15名・女性6名)を対象者とした。なお本検査は、本人の事前の申し込みによって無償で実施した。方法は、「箱づくり法j の実施マニュアルに沿って、個別に実施した。
[結果] 検査の全所要時間は平均41.6±6.1 (平均±SD)分。箱制作時間は平均16.2±3.3分で、あった。客観的な評価尺度の機能別遂行得点では、対人領域に比べ、課題領域の得点が低く、特に一般成人に比べると「手順段取り」が3.7点/5点。「状況対処」3.9点/5点で低かった。
 作成された箱の他者採点は、60.7±10.4点であった。主観的な評価尺度としての体験内容は、箱制作の「難しさ」や「予測判断の不全感」「不快気分」が高かった。自己採点は71.0±11.1点であった。
[考察} 本対象者の作業特性として、手順段取り力や状況対処能力が低く、箱制作時間が若干長い。実際に制作された箱の得点も一般成人に比べると低く、作業遂行能力の低下が示唆される。本人も難しさを感じており、不快気分も強く感じている。しかし、援助を求める気持ちが低く、状況を回避したい気持ちも低いため、苦手な作業を続け困難な状況が継続することが示唆された。また、疲労感を充分に感じられない(過労状態)ため、休息を取るという対処行動にもつながらないと考えられた。今回は休職中のうつ病の作業特性について、主観的に傾向を見るにとどまっている。今後は、事例数を増やし客観的に分析していく必要がある。
・検査は、別室(個室)で実施し、所要時間は約1時間
・検査者は、作業療法土

・労働者のメンタルヘルス不全、休職、職場復帰の問題は産業精神保健領域において注目される問題の1つである。
・メンタルヘルス不全は、特に気分障害の発症が多い。
・うつ病の症状には思考障害があり、そのことが業務遂行の阻害因子と考えられる。
・そのため職場復帰には業務(作業)遂行能力の回復が不可欠である。
・しかし、現在のうつ病における復職支援プログラムでは気力や認知機能(思考のとらえ方)の回復に主眼が置かれており、作業遂行能力の評価は不十分で、作業遂行特性は明らかにされていない。

<箱づくり法とは>
 実際に箱を作り、ふりかえるという一連の作業を通じて、対象者の作業遂行能力・対人関係能力などを評価する、準構造化された作業面接である。
 作業体験を共有することによって、客観的指標と主観的体験内容に基づき、具体的な援助方法を対象者とお互いに確認することが出来る。

<箱づくり法の概略手順>
l. たて、横、高さ、がそれぞれ5センチの箱を実際に組み立てる。 完成に必要な手助けや見本もあり、時間制限はないが時間を計るので『早く、きれいにつくる』。途中での休憩やトイレは申し出てとれる。
2.客観的指標-過程別遂行得点プロフィールと機能別遂行得点プロフィール(43項目の行動観察)、工程の所要時間、完成箱の他者採点。
3.主観的指標-箱づくり体験プロフィール(83項目の自己記入式質問紙法)と主観的な箱の自己採点
 結果はダイヤグラムに示され、作業過程と結果の両面から解釈する

客観的指標-機能別遂行得点のプロフィール 0~5点
<対人領域・関係能力>
1.作品交流
2.出会い
3.二者交流
4.間合い
5.役割関係
<課題領域・作業遂行能力>
6.イメージ着手
7.手順段取り
8.可逆的思考
9.課題集中
10.状況対処

<推察>
・うつ病患者の作業特性とLて、手順段取り力や状況対処能力が低く、箱制作時間が若干長いことから、作業遂行能力の低下が見受けられた。
・箱制作に対して、本人も難しさを感じており、不快気分も強く感じている。
・能力を評価されるストレスに対して、過敏に反応する傾向が伺える。
・そのストレス状況に対して、他者に援助を求める気持ちが低く、状況を回避しようと思う気持ちも低いため、苦手な作業を続け、困難な状況が継続する傾向があることが推察された。
・自己採点と他者採点の得点に10点程度差があり、自己採点が高いことから、結果に対して自己評価が甘い傾向がある。
・加えて、一般成人他者採点が73.3であることを踏まえると、対象者の65.65点の作業遂行能力は明らかに低いと言える。
・つまり、ストレスに過敏に反応する一方で、自分の作業結果に対して、これで出来ていると思う自己認識のズレ(甘さ)がある可能性が示唆された。

<まとめ>
・うつ病患者21名に作業遂行能力検査として「箱づくり法」を実施した結果、機能別遂行得点において、「手順段取り」、「状況対処」能力が低かった。
・箱制作結果に対する自己採点が、他者採点より有意に高かった。
・作業遂行能力は一般成人と比べると低いが、自分の作業結果に対して低いとの認識は薄く、自己認識にズレがある可能性が示唆された。
・一方、ストレスに対して、過敏に反応する傾向が伺えた。

(参考)
EAP研究所-精神科ショートケア 復職支援プログラム「SPICE」
・医療法人あけぼの会のメンタルヘルスサポートサービスの1つとして、精神科ショートケアの復職支援プログラム「SPICE」がある。
•「SPICE」の対象:うつ病等により休職中の方
「SPICE]の目的:他の人達との関わりや、具体的な作業活動を通して精神機能の向上、対人関係能力の改善、作業能力の改善をはかり、よりスムーズな職場復帰、職場再適応と就労継続に結び付けていくことを目的としてしる。
・実施プログラム:「個別面接」、「ワークエクササイズ、」、『グループミーティング」や、身体表現能力の回復のための体験型の「ボディーワーク」、「リラクゼーション」さらに講義形式の「認知行動療法」、「キャリアセミナー」などを行っている。

第22回産業ストレス学会の報告 22014年12月04日 12:01

<就労者における発達障害の傾向とインターネット依存>

[背景] 近年、就労者のメンタlレヘルスにおいては、発達障害とその傾向についての理解が重要な要素とみなされつつある。一方で、インターネット依存頃向は、アルコール、薬物への依存傾向、ギャンブルや買い物への依存と並び、人々の心理的健康および、生産的能力に関わる重要な要素として近年注目を集めている。
 これまで、インターネットへの依存傾向に関連する要因として、様々な心理社会的要因、および生物学的要因が報告されてきた。その中で、発達障害の傾向とインターネットへの依存傾向の関連についても一定の知見が集積されつつある。
 今回、就労者の精神的健康に、発達障害の傾向およびインターネットへの依存傾向が与える影響を明らかにする事を目的として、適応障害の診断を受け治療中の就労者を対象に、予備的調査研究を行った。就労者の精神的健康度の低さが発達障害の傾向とネット依存傾向の双方に関連する事が予想された。

[方法] 一般診療所外来受診中で、適応障害の診断を受けている就労者を対象に調査票への記入を求めた。調査票はAQ(自閉症スペクトラム指数尺度) GUIP、GHQ-28およびECR_GO等からなり、提出をもって同意を得た。
 得られた結果について、SPSSを用いて統計解析を行った。なお、本研究は京都大学医の倫理委員会の承認を得て行った。

[結果]AQ総得点とインターネット依存傾向の間に有意な相関は認めなかった。AQ注意転換下位項目とインターネット依存傾向には相関を認めた。インターネット依存傾向と、GHQの不安項目とに有意な相関を認めた。

[考察]本研究においては、自閉症スペクトラム指数で評価される発達障害頃向のうち、特に注意転換(切り替え)の難しさと、インターネット依存との傾向が強く示唆された。また、精神的健康のうち不安の強さがインターネット依存に関連しており、就労者におけるインタ←ネット依存傾向と特性としての傾向および心理的健康に関連する傾向が明らかとなった。

2.ネット依存と精神症状の併存

AD/HD(注意欠陥・多動性障害)は100%
抑うつ症状 75%
敵意・攻撃性 66%
強迫症状 60%
不安症状 57%
にそれぞれの障害が見られた

3.尺度

AQ-J(自閉症傾向)
GPIUS2(ネット依存傾向)
GHQ-28(精神健康度)
を使用した。

4.結果

・注意転換困難は自閉症傾向における見通しの持ちにくさやこだわりの傾向、没頭性に関連する。
・注意転換困難はADHDにおける衝動性とも関連しており嗜癖行動の本質に関わる要素でもある。
・不安症状とネット依存との関連は広く報告されている。
・適応障害にある就労者においては、注意転換の困難さが不安症状とともにネット依存に影響を与えている。注意困難に視点をあてることは就労者のネット依存及び不安症状、不適応状態に改善につながるかもしれない。

※注意とは、特定の事象に気を向ける、気を付ける心的活動のことです。
 注意には、ある特定のものに注意を集中する「注意の集中機能」、あるものから他のものに注意を移す「注意の転換機能(こだわり)」、あるものに注意を向け続ける「注意の持続機能」、一度に2 つ以上のものに注意を向ける「注意の分配機能」、これらの機能を総合的に調整する「注意の総合調整機能」があります。
 注意の各機能を働かせるためには、一定以上の意識レベルが保たれている必要があります。
 したがって、ネット依存が疑われる場合には、「極度のこだわり」が強く見られることになります。

 また、一時話題になった「ゲーム脳」についても、特にファイティング系のゲームは、前頭前野に悪影響があるという研究もあり、すくなくとも10歳まではさせない方がよいといわれていますが、これも、若者の「キレやすい」ことに影響しているかもしれません。

 ということで、じゃんじゃん。

第22回産業ストレス学会の報告 32014年12月05日 10:25

<新型ウツ等の対応困難事例の支援-労務管理と連携した職場復帰支援を中心に> 2の1

 一般の管理・監督者や産業保健スタッフでは解決が難しい問題行動を示す精神疾患(対応困難事例)は、パフォーマンスや協調性に問題があり改善が難しいケース(自閉症スペクトラム症、注意欠如・多動症、パーソナリテイ障害(PD)、統合失調症等の一部)、周囲に迷惑を及ぼしていながら病識に乏しく家族の協力も得られず治療が困難なケース(統合失調症等の一部)、長期の休業を繰り返すケース(統合失調症、双極性障害、うつ病、アルコール関連障害等の一部)である。

 近年、対応困難事例として注目されるいわゆる「新型うつ病」は、人事労務管理担当者や産業保健スタッフが挙げるその特徴から、多くが自己愛牲パーソナリテイ障害の傾向を有していると推測される。うつ病者は執着性格やメランコリー親和型性格を有しているという先入観を抱いていると、「新型うつ病」は不思議な新しいうつ病に見えるであろう。しかし、パーソナリティ障害の傾向のために不適応を来してうつ病を発症したと考えれば、不思議な存在ではない。
 また近年、軽症うつ病が気軽に医療機関を受診するようになり注目されるようになったと思われるが、職場では昔から少なからず見られた病態である。

 「新型うつ病Jなどの対応困難事例への対応の基本姿勢は、「親身のお世話と毅然とした態度jである。
 自らを被害者と位置づけ過大な配慮を要求する本人と、本人の要求を忌々しく感じる職場との対立は、ことに職場復帰の場面で先鋭化することが多い。関係者の感情的な対応や法令・規則に沿わない対応は、本人とのさらなる感情的対立やトラブルを引き起こすこととなる。産業保健スタッフとしては、現実に生じ得る問題に対して、法令や判例も踏まえて対応法や考え方を明確にしておくとともに、当該管理者だけでなく人事労務管理担当者と連携することが求められる。

1.うつ病の病前性格

・執着気質~熱中性、凝り性、徹底性、几帳面、強い責任感→感情的疲労状態に陥り発病
・メランコリー親和型~秩序への過度な固執と自己への過度な要求水準
→几帳面、堅実、綿密、勤勉、強い責任感、仕事熱心、誠実、律儀、世話好き、権威・序列の尊重
→古い秩序から新しい秩序への適応に問題

~「アメリカでは受け入れられず、ドイツでも廃れたものの、日本の精神医学界には影響を与えたのだ。この性格は特に日本で尊重される人格特性である。(Watters)」~

2.新型うつ病の登場

 SSRIが登場した後、「うつ病は心の風邪」と言われるとともに、新型うつ病も登場した。
 その特性は、(野村総一郎 2011)
①大うつ病と言える重症度を持っている。
②几帳面、真面目人間、他者配慮といった古典的メランコリー親和型には全く合致しない。
③誘因としてストレス状況があり、そこに向き合えず逃げている感じ。復職への危機意識も乏しい。
④自分に問題があるという認識は持つが、どこかに被害者である、損しているという認識がある。
⑤状態は無気力、倦怠、仕事自体への興味関心が薄いが、ネットやゲームといったデジタル世界に傾斜する傾向(いわゆるオタク的)。
⑥治療者との関係は否定的でないが、置かれた状況への洞察は薄く、深まりにくい感じ。

3.新型ウツ病者の特徴(広瀬徹也 2008)

①連休後や月曜日に欠勤しがち
②職場恐怖の症状が出やすく、職場に近づくと不安が強くなり、引き返すことがある。極端には遁走することも。
③抑うつ気分や希死念慮は目立たず、おっくう、だるさなどの抑制・倦怠感、易疲労性が全体に出て、寝込みから欠勤にいたる。ただし、身体症状や心気症状は見られない。
④一般の過労気味の就労者が週末には寝だめをしたり、家でゴロゴロしがちなのと対照的に、週末は朝早く起きたり外出やドライブに行くなど活発に過ごす。長い休業にあるものが臆面もなく海外に行くのもその延長上の現象と考えられる。
⑤評価に敏感であり、認めてくれる上司の下では軽躁を思わせるほど張り切り、良い成果を上げることもあるが、逆の場合は極端に落胆し、欠勤となりやすい。反省や自責はないがさりとて職場や上司を攻撃するほどの精力性は示さない。
⑥他人を押しのけるほどの自己顕示性はないが、自己愛的でプライドは高く、それが傷つけられることには耐えがたいため、それを守るのに汲々としがちである。
⑦典型的には30歳前後の高学歴の男性が圧倒的に多く、女性にもてる傾向があり、既婚者や恋人がいる例がほとんどである(ただし遷延後の離婚はありうる)。
⑧転職に走ることなく、休職期間満了まで留まる傾向がある。
⑨病識に乏しく、自ら受診することは稀で,上司・妻・親などの強い勧めで受診入院に至る。
⑩抗うつ薬の効果は初期にはある程度みられるが次第に目立だなくなる。

※自己愛的性格の特徴と弱力性ヒステリー性格の特徴を併せ持ち、気分障害、特に非定型うつ病の体質と相まって、抑うつや不安、恐怖、軽躁を示しやすくなる。

4.うつ病か「不適応」か

① 「職場不適応症」という言葉は昔からあった。それは、「職場に問題があり、 あるいはそこに働く個人にも問題があって、その職・職場に適応しがたい」または、「能率を損ない、職場にも迷惑を及ぼし、生活経済、家庭、自己の心身にも損勘定を生ずるという一貫した不具合の現れ」(1971 小沼十寸穂)
②うつ病という側面から見ると、新型うつ病は「典型的な」うつ病者が抱える執着気質やメランコリー親和型が認められないので、不思議なうつ病という印象になるが、職場不適応という側面から見ると、性格や能力で職場や学校に不適応した人がウツ症状を呈したと見なすことが出来、不思議なことではなくなる。従来の典型的うつ病も、その病前性格のために不適応を来たし、ウツ症状を呈していると見なすことも出来る。
③病像の違いは、真面目で要領が悪い人や、未熟な性格でもその性格の偏りと置かれた状況との兼ね合いでうつ病に陥ることがあり、もとの性格の違いで病像が違ってくることもある。従来ウツでは、心身の不調が生じてもがんばり続けるため重症化することが多いが、一方、困難な状況から逃げ出す、自責感に乏しい(=責任転嫁しやすい)人は、ストレス状況から離れると軽快する。そして気軽に受診していることが考えられる。
④「大うつ病に匹敵する重症度があるか」については、ほとんどが本人からの聴取による診断であり、生活態度を含めた実態としては、内因性と認めがたい面もあるのではないか。

5.産業保健スタッフや人事担当者が考える新型ウツの特徴

○自己中心的傾向~自己中心的態度や行動。自分の行動の責任を他者や状況に転嫁する。
○自己愛的傾向~自己愛と言える程度までに行動や態度の偏りが顕著で、他人を操作して自分の希望を叶えようとする。能力(知的水準)が高い場合があり、理想と現実のギャップにより発症する例がある。制度を利用した権利主張・他者への批判や攻撃性が出やすい。
○回避的傾向~新しい状況や変化、自分がチャレンジすべき状況、自分の能力が試される場面を回避しようとする傾向。回避するために詳細であまり意味のない条件や本来の意図とは異なる条件を示したりする。
○短絡・享楽的行動傾向~自分の行動の結果や影響を考えずに行動する傾向。カラオケ・ゲーム・海外旅行などの享楽的な行動を後先を考えず没入する傾向として観察される。
○権利主張傾向~職場や企業の制度、前例などを自分の要求やご都合よく解釈し、当然の権利として要求主張する。しばしば自己愛傾向と同時に存在する。

6.自己愛性PDの定義(DSM-5)

 誇大性(空想または行動における)、賞賛されたいという欲求、共感の欠如の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。

①自己の重要性に関する誇大な感覚(例:業績や才能を誇張する、十分な業績がないにもかかわらず優れていると認められることを期待する)。
②限りない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛の空想にとらわれている。
③自分が “特別” であり、独特であり、他の特別なまたは地位の高い人たちに(または団体で)しか理解されない、または関係があるべきだ、と信じている。
④過剰な賞賛を求める。
⑤特権意識、つまり、特別有利な取り計らい、または自分の期待に自動的に従うことを理由なく期待する。
⑥対人関係で相手を不当に利用する、つまり、自分自身の目的を達成するために他人を利用する。
⑦共感の欠如:他人の気持ちおよび欲求を認識しようとしない、またはそれに気づこうとしない。
⑧しばしば他人に嫉妬する、または他人が自分に嫉妬していると思い込む。
⑨尊大で傲慢な行動、または態度。

7.自己愛性PDの対応

 自己愛傾向の他、回避傾向や短絡・享楽的傾向も診断を支援する特徴に入っている。
 新型ウツの全てが自己愛性PDに該当するわけではないが、新形ウツの定義が存在しないため、様々なPDが含まれる可能性があり、新形ウツのケースの多くは自己愛性PDに該当するかその傾向を有すると推測されている。
 学生時代には「教えられたことを試験やレポートで再現する」「具体的に指示されたことを実行する」という能力で無難に過ごしても、職場で求められる「組織の目標の中での自分の位置づけ、役割、上司や同僚の意図を正確につかみ、自分のすべきことを主体的に判断し、しばしば上司から叱責されながらそれを実行し続ける」こととは大きなギャップがあり、破綻をきたしているのではないか。
 対応の基本となる考え方は、「会社としては、あなたが就労できる為の正当な支援をしましょう。ただし、あなたも就労にあたっては正当な努力を払ってください」という在り方である。
 このような会社の在り方は、全面的に患者の愁訴を受容して病理を強化することなく、しかも患者に被害感を抱かせない。あくまで会社側は正しい手続きを取り続けることで、患者に「私は会社の被害者だ」という立場を許さないのである。
 もし仮に会社側が「あなたの言動は社会通念の上で筋が通らないので、会社を辞めてください」という強行的な手段に出た場合、患者を怒らせた結果、裁判が長期にわたって続くかもしれない・・・また仮に会社側が、患者の病理を強化している治療者の主張を全面的に受け入れたとしたら、患者の休職は長期間続くことは間違いない。そうならないことの留意さえ会社側にあれば、患者は自ずと、理想化された自己イメージが傷つかない、自分の適性にあった場所へと去っていく。

第22回産業ストレス学会の報告 42014年12月08日 10:40

<新型ウツ等の対応困難事例の支援-労務管理と連携した職場復帰支援を中心に> 2の2

8.新形ウツへの対応の基本

 ひと言では「親身なお世話と冷静で毅然とした対応」になる。感情的な厳しい対応は避けて、ルールや筋を通して出来る限りの配慮をするとともに例外扱いはしない。「被害者意識を持たせない」とともに、安易な甘えは受け入れてもらえないという社会の基本ルールを覚えさせる。
 親身な対応は少しずつ内心の自尊心や自信を強め、評価に対する過敏を軽減してくれることが期待される。特権意識や甘えを許すことは、ますます増長させ、本人をだめにしてしまうかもしれない。状況に耐えられず転身を図ることは、やむを得ないこと。

9.対応の工夫

①人事労務管理スタッフとメンタルヘルス専門スタッフで上司を支える

 新形ウツ病者に対応するのは大変難しく、上司の負担は非常に大きい。上司が感情的対応になってしまった場合、「被害者意識」を増長させ、訴訟に発展するリスクもある。

②本人を高く評価する上司の下では優れたパフオーマンスを見せることも

 自信がなく自尊心が傷つきやすいので、褒めるのが上手な上司や評価してくれる上司の下では、うまく適応し能力を発揮してくれる場合も。

③場合によっては、家族に職場の誠意を理解してもらう

 職場が困っていることや、本人・主治医の意見に基づき職場が配慮していることを何度も家族に具体的に説明し、実情を理解してもらうとともに、問題の解決をともに考えてもらう。

10.現実に起きる問題と対応

①長期に連続して休もうとせず、「長く休むと休み癖がつく」「休んだ日だけ病休扱いに」と

 主治医の判断に従い休業するよう説得する。断続的な休業は認められず、回復にも妨げがあることを伝える。ただし、「休み癖」はうつ病による不安である可能性もある。

②休んでいるのに診断書を提出しない、あるいは受診しない

 すでに付与された有給休暇のうちは勤怠処理することになるが、残っていない場合や無断欠勤は就業規則で懲戒解雇になることを本人や家族に伝える一方で、早急に受診して診断書を出すよう厳格に指導する。曖昧な対応は規則違反を見ためたことになる。

③主治医の診断や治療に疑問を感じる

 産業医等が主治医と情報交換できるよう整える必要がある。主治医の選択権は患者にあるので、合理的理由がない場合は安易に転医を促すべきではない。順調に回復しなければ本人や家族に恨みを買う場合も。

④休業中にレジャーやアルバイトをしている

 病気休業中でもレジャーは禁止できない。兼業禁止の就業規則があれば病気中であるかどうかにかかわらずアルバイト等は禁止できるが、「職場復帰の訓練」と主張されると判断に苦しむ。

⑤単身者が休業中に実家に帰らず、また、家族に伝えていない。

 家族に状況を話し実家で療養するよう助言や指導すべきだが、自殺念慮や心神喪失でない限り強制は出来ない。本人が拒否する場合は主治医に会社の意向を伝えるとともに経緯を記録する。

⑥「出勤可」の診断書が出されたが、職場側から見るところでは耐えられる状況にない。

 主治医や本人に職場の状況を話し、再発休業は周囲の信頼を損なうことや自分の自信にも影響すると伝える。

⑦休業期間満了直前に職場復帰し、一定期間就業の後、休業の権利を得たらまた休みはじめる

 職場復帰の可否についての職場判断を主治医や本人に伝える。ただし、勤務態勢の可否判断は「やってみなければ分からない」ということが多くあるので、「ラストチャンス」として認めることも出来る。

⑧社内手続きのために休業を引き延ばせるか

 社内手続きは円滑な職場復帰と再発防止のための手続きであり、社内規定・規則に手きを明記してあり、手続きに要する期間が合理的であって、その間に本人が著しい経済的不利益を被るのでなければ問題ないと思われる。ただし、主治医は“出勤可”の診断書作成した後で、社内手続きに要する期間のため休業診断書は書けないということもありうる。
 そのような事態を防ぐため、職場の受け入れ体制や出勤の時期を職場と調整した後に主治医に診断書を作成してもらうよう、本人に伝えるべき。
 
⑨主治医が職場の事情を無視した要求をする。職務の軽減などにより職場が苦慮する

 就業規則等に基づき、出来ることと出来ない事を主治医や本人(家族)に明確に伝える。後で「期待を裏切られた」とならないように、気を付ける。規則を拡大解釈することは、その後のケースに例外を認めたことになる。

⑩出勤を拒否できるか

 会社は出勤を拒否できる。ただし訴訟に備えて、客観的判断基準を明確にしておく。しかし、ほとんどの場合、「やってみなければ分からない」ことが多いので、試し出勤等の制度を整備すべき。

⑪上司の変更や「やりがいのある仕事」などの要求にも応えるべきか。

 可能な範囲で出来るだけの配慮をし、本人や主治医・家族の理解を得る努力をする。応じられないことはその理由を明確にして、本人や主治医に伝える。

⑫「試し出勤(リハビリ)」は病休扱いでよいか

 会社が許可し、上司の監督下で行うものならば軽作業であろうと労務の提供と見なされる。病休扱いでは通勤途上の事故などで労災が適用されないので、職場における試し出勤は出勤扱いとして実施すべき。就業規則などに勤務時間や賃金の定めをしておくべし。

⑬病気の情報を職場にどの程度伝えておくべきか。本人が隠したがる場合は。

 本人の了解が前提なので範囲や程度について説明し了解を得る。拒否する場合は、そのために就業場や健康管理上の配慮が受けられないなどの不利益を説明し、その説明事実を記録しておく。 

⑭出勤開始直前に本人の状態が急変する

 本人がまだ自信のない状態なのに家族等からの圧力で出勤しようとする場合や、無理をしてでも早く出勤しなければと思い込んでいる場合、あるいは不安感や抵抗感を本人が自覚できていない場合などでは、直前に状態が悪化することがある。最悪の場合前夜に自殺する場合もあるが、産業スタッフは、本人の非言語的情報を把握するよう努めるべき。そのようなケースもあることを心得ておく。

⑮出勤開始後に本人が治療をやめてしまったり、服薬等が不規則になっている

 本人に通院と服薬をきちんと指導し、従わなければ、家族や主治医に伝えるとともにその経緯を記録する。

⑯仕事が出来ない、覚えない、ミスが多い、指示を守らない、忘れる、反抗的、攻撃的、頻繁に休むなど

 退職を促すとかえってこじれかねない。放置すると容認したことになる。問題行動には本人に都度注意するとともに、反発など改善しない場合は、その状況を記録し、何度でも家族や主治医に伝え、対処を話し合う。

⑰再発・休業を繰り返し、出勤しても能力は極めて低い。

 これまで職場が主治医や本人の意向を踏まえて可能な限り配慮をしてきたが、それでも本人が休業を繰り返し勤務に耐えられないことを、過去の記録などから客観的に示し、具体的事実を示して主治医や家族と考える。

11.中小企業の困難事例から気がつくこと

①就業規則等の整備がなされていないことが多い。
②多くの時間をかけて対応しなければならないことが理解してもらえない。
③精神科の受診は、社員を病気と診断させて退職に追い込むための手続きの一つであるとの誤解が、本人・家族側や会社側にもある。
④上記の②と③をただそうとすると嫌な顔をされる。

第22回産業ストレス学会の報告 52014年12月09日 11:40

<地域若者サポートステーション事業実践>

 2000年代に入って社会問題として認知されるようになった若年無業者対策として創設されたのが、「地域若者サポートステーション」事業である。
 「地域若者サポートステーション」においては、長らく無業状態に留まる若者、就労ばかりか他者関係も回避する若者が数多く利用している。
 すぐに就労支援へと移行できる若者は少数で、多くは、就労以前の内的条件整備への支援を必要としている。社会活動全般に対するエネルギーが低下した状態で来所し、その半数近くは臨床機関を受診していた。
 就労経験がありながら無業状態が続いていた2事例を検討することにより、若者が直面している就労困難の要因を考察する。
 「人と関わるのが怖く、うまく話せないjため短期アルバイトや派遣就労を繰り返した30代男性は、「働かねばならないと思うが何ができるのかわからなくなって」ひきこもり状態になっていった(事例1)。

 学生アルバイトは難無くこなしていたものの就活で「社会へ出ることへの不安」を感じた20代女性は、就職直後から体調不良と「仕事を考えると涙が止まらなく」なり、退職後も「漠然とした不安」のため採用されても就労できない状態にある(事例2)。

 どちらの事例も、上司からの強い叱責のような具体的な外的ストレスがみられないことや、その訴えが職務内容や職務遂行上の技能習得ではなく、自らの内的条件に関することであることが共通している。彼らは、職場という未知の環境における他者関係や、その関係における自分のあり方に困惑し、その困惑は心の苦しみとして体験できずに身体化されていた。人に会う、働く、そのものがストレスと思えるこれらの事例は、産業ストレスという文脈に収まりきらないところがあるが、「働く」ということを求めて来所する若者のストレス反応を示しているのである。

1.実態と特徴
 NEET384人の支援を行っているが、自ら来所するのが3割、家族など他者からの紹介で来るのが7割である。全体の43%が治療中となっている。若年者の範囲は、「生物的大人と社会的大人」の両方であるから、15歳~39歳までとなっている。
 そのうち、進路を決められたのが23%、ハローワークなどにいくようになるのが9%の計32%が就職に向かうが、その他は、紹介できる状態にないもの。
 特徴的には
①エネルギーの低下が甚だしく、発動性が見られない。
②何も決められない。失敗を恐れる気持ちが強いであり、ディスティミア親和あるいはパーソナリティ障害(PD)のC群(不安型)と思われる。

2.事例
①の事例では、思春期から対人関係が弱く、仕事が続かない状態。なぜ仕事が続かないかと問うと、「何となく」と答える。自己評価が低い。孤立感が強い。表情の変化が少ない。
②の事例では、仕事が不安だがその理由は、「周囲のやる気のなさに幻滅した」という説明。不登校も経験している。電話に恐怖を抱き、変化への対応ができづらい。
 共通しているのは、自我境界不全と回避傾向にあり、生きることの不安が強い。対処としては、継続的、受容的に傾聴すること。期間としては、6ヶ月以上から改善するまでとなっている。

<「さをり」体験とうつからの回復>

 1980年代後半、心と身体の健康づくり指針において「メンタルヘルスケア」の取り組みが開始され、「心理相談員」が誕生した。1990年代、バブル崩壊後には、毎年3万人超の自殺者、過労死や過労自殺などが問題となり、2000年と2006年に、メンタルヘルス指針が公表された。
 こうして、すべての人が、自分の心の健康は自分で守れるようにセルフケアの知識とスキルを身につけ、必要とあらば人の助けを借りること、不調を早期発見、早期治療し、休養が要るなら適宜休養し、「手引き」に従って適切な職場復帰を行うことが推進されているのである。
 心理相談員の一人としてメンタルヘルス活動に携わってきたが、自分自身が、精神的ピンチを体験した時期もある。
 一ヶ月程の休養の後、心身をリセットして職場に戻ったものの自己否定感や孤独な気分が払拭できない、その頃「さをり織り」に出会った。
 始めは、幅10センチ程度のネクタイみたいなものを、体験で織った。「糸が出ようと、引きつれようと、そんなことはどうでもよい。あなたの好きに織ればよい。自由に思いのままに織りなさいね」と暖かく見守られ、30センチ幅の織りの体験、それから思い切って織り機の幅90センチ全部使って、縦糸通しから全部してみようと挑戦した。
 自分の好きなように糸を通したつもりが、キッチリした模様がシンドく感じた。欲張りで凡帳面、型にはまった行動パターンが私にはある。自由奔放に織っている「さをり教室」のメンバーたちと関わりながら、窮屈の理由は自分が作っていると気づかされた瞬間だった。
 「さをり」創始者は言う。「『感性は生まれた時からそれなりに持っていた』とも気づかずに何事も習うものと思い込んで自らの中のものをおろそかにしていた。ここに誤算があった」と。「さをり」を通じて再学習した点は、まさにこれだったかも知れない。
 個人的な経験に過ぎないが、この織りには、うつからの回復を助ける認知行動療法的な意義が存するように思われる。

1.当事者の気持ち

 「さおり」は布を織るのではなく自分を織ると感じた。失敗だと思っても「面白いね」とほめられる。ほめられるのは久しぶりだと感じた。自分を縛っているのは自分ではないかと感じた。自分の性格を冷静に見つめるとき、「成功と失敗しかない」と思っていたことに気付いた。
 作品は、自分らしいものを作れるようになってきた。
 「心の5指標」である「役割」、「客観」、「共感」、「仲間」、「味わう」がこの作業で体感できたと思う。
 それは作業のためか、あるいは仲間がいるからかと問われたら、相乗効果としか言えない。
 作業療法の一種とは思うが他の作業療法との比較はできていないけれど、3~4ヶ月で気持ちの整理は出来てくると思う。

2.なぜ効果があるか

 発達障害と診断された女性が診断を受けたとたんに、「実はほっとした」との感想をもらした。今までは何が何だか分からずに社会適応できず苦しんできた経験から、自分のことが少しでも理解できるたことは彼女にとって大切なことだったのだろう。
 この女性が「さおり」に取り組み、自分が唯一認められた場所としてその才能を伸ばしている。
 現在は支援学校で「さおり」を教えているが、非常に評判がよい。その理由は、支援学校の生徒に「いつもと変わりなく接することができる」、「声をかけて理解しやすく教えるため、生徒がパニックにならない」と言うこと。まさに自分の特性を生かした才能の開花だと感じた。

 現在の社会は「失敗を許さない」、「先輩がいない」、「マニュアル通り」の社会だと思うが、「さおり織り」は、失敗が“面白い作品”とほめられ、成功につながる、作品に自分(の色)が出てくる、個性が大事にされる、見本や手本がなく歪んだり欠けたりしたものが面白いと評価されることで、自分の価値観や考え方の転換ができるようになるのではないか。
 特にアスペルガーなどの特長があると、すぐ作品に「自分」が出てくるのは面白い点だ。ただ、途中には「納得できない」人もいるから、お互いに影響していることも面白い。