シリーズ 睡眠について その11 いびきと睡眠時無呼吸症候群 その22015年10月01日 16:10

◎ 睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは

 何らかの理由で睡眠中に気道の空気の通りが悪くなり、呼吸が一時的に止まる状態が繰り返し何度も起きる病気を睡眠時無呼吸症候群といいます。英語ではSleep Apnea Syndoromeといい、略してSAS(サス)と呼ばれることもあります。
 大きないびきのあとに呼吸が止まり(無呼吸の状態)、しばらく静かな状態が続きいびきが止まったかと思うと、また大きないびきが始まるというのが睡眠時無呼吸症候群患者の典型的ないびきです。こうした特徴的ないびきをかいている人は、睡眠時無呼吸になっている可能性が高いと言えます。

睡眠時無呼吸症候群の一般的な定義(診断基準)
■10秒間以上の無呼吸が、7時間の睡眠の間に30回以上発生する 
あるいは
■無呼吸が1時間の睡眠の間に5回以上発生する

 無呼吸の状態は一時間に5回以上発生し、数十秒から長い時には数分間も続きます。もっとも長い場合で5分近く呼吸が止まっていた、という報告もあります。無呼吸はレム睡眠の時に起こる確率が高く、夜中に何度も目が覚めて睡眠が分断されるため睡眠は浅くなります。

 長いときには数分間も呼吸が止まった状態となり、脳が酸欠状態になると一時的に目が覚めますが、本人はすぐにまた眠りに落ちるために朝になっても目が覚めた記憶がありません。こうして本人はまったく認識しないままに、呼吸が止まって目が覚めるという繰り返しを一晩中続けるわけです。(重度の患者の場合、500回の無呼吸が発生します)いっしょに寝ている家族が異常に気づき、病院に相談に行くことをすすめるケースがほとんどのようです。

 いびきをかくことイコール睡眠時無呼吸症候群だと思っている人もいますが、いびきをかくからといって、必ずしも睡眠時無呼吸症とは限りません。いびきをかく人の30~40%程度が、睡眠時無呼吸症だといわれています。国内の患者数は100万人以上、全人口に占める割合でいうと、1~2%程度だと言われており、年齢にかかわらず子どもから老人までまんべんなく発症します。

 睡眠時に完全に「無呼吸」にならなくても、睡眠中に体内に吸い込む空気量が無呼吸と同様の原因で著しく少なくなることを「低呼吸」といいます。こちらも血中酸素濃度が低下するという意味では、無呼吸よりは程度が軽いとはいえ危険な状態であることは変わりありません。呼吸が止まっていないからと安心はできません。寝起きがすっきりしない、日中に睡魔に襲われるなどの症状がある人は、低呼吸になっている可能性が誰にでもありえると考えたほうがいいかもしれません。

 睡眠時無呼吸症候群になると日中に強烈な眠気に襲われ、運転中や会議中などでも突然眠ってしまうという異常な事態になることがあります。特に運転中に突然眠ることは、事故に直結する危険な現象です。また、一日を通して気分がなかなか高まらず、仕事や勉強に対する意欲も低くなります。集中力、判断力、注意力、記憶力などが悪影響を受け、効率性や生産性は下がります。周囲から見ると怠けているように見え、社会的に欠陥がある人間という烙印を押さえれてしまうかもしれません。睡眠時無呼吸症候群という睡眠障害がまだ社会に広く知られていないため、間違ってうつ病と診断されてしまったり、社会から断絶されてしまうことにもなりかねません。
 
◎ 睡眠時無呼吸症候群の原因と対策

 睡眠時無呼吸症候群の主な原因は肥満によって空気の通り道が狭くなっていることです。気道がふさがって酸素が不十分となり、血中の酸素濃度が低下するため、脳が休息できません。睡眠の質が低いので、昼間も集中力が上がらず、だるさや眠気が抜けない。昼間に強烈な眠気に襲われて、車を運転中に眠ってしまうケースもあり非常に危険です。(アメリカではSASと認められると、運転免許が交付されないようです)
 睡眠時無呼吸症候群は治療が必要な病気ですが、治療に入る前に自分でできる対策があります。

1.ダイエットをする
 睡眠時無呼吸症候群の症状がある人の多くは、肥満傾向にあるという事実があります。舌やノドの周囲にも余分な脂肪があるために、上気道が狭くなりやすいのです。まずはダイエットで余計な脂肪を落とすところから始めるのも効果的です。

2.横向きで寝る
 仰向きで寝ると重力のせいで、睡眠中に舌がノドの奥に落ちやすくなります。舌が上気道をふさいでしまうのを防ぐために一番簡単にできる対策は横向きに寝ることです。寝ている間に仰向きに戻ってしまわないように、枕の片側半分の下にタオルを折りたたんで入れておき、少し傾斜をつけておくという方法があります。真横を向くことができなくても、首や体がすこしでも傾けば上気道に空気が通りやすくなります。また、自分の頭に合った高さの枕を使って気道を確保することも大切です。

3.鼻呼吸の習慣をつける
 普段から口呼吸をしている人は、睡眠中も口で呼吸をしています。口から息を吸い込むと非常に大量の空気が入ってくることになり、狭くなった上気道を通ろうとしたときノドを振動させていびきが発生します。鼻で呼吸するようにすれば症状はだいぶ変わってくるはずです。

4.寝酒をやめてアルコールをひかえる
 もともといびきがひどかったり、睡眠時無呼吸の症状が出る人は、アルコールを飲んで寝たときのほうがより症状が悪化します。これはアルコールによって筋肉のゆるみが増長され、舌によって上気道がふさがれやすくなるためです。

 睡眠時無呼吸症候群は、自分でその症状を自覚することは通常難しいので、どうしても家族の協力が必要です。睡眠中に呼吸が止まっていると家族が気づいた場合は、早急に医師に相談してください。呼吸器科、耳鼻咽喉科に連絡して、睡眠時の呼吸障害についての専門家がいるかどうか問い合わせてみてください。

 上記の方法を試しても症状が改善しない場合でも、深刻に考え込む必要はありません。睡眠時無呼吸症候群には効果的な治療法がたくさん用意されていますし、完全に治すことが十分に可能な病気です。経験の多い専門家に適切な処置をしてもらえれば、睡眠状態が劇的に改善することが多いに期待できるのです。

◎ 睡眠時無呼吸症候群になりやすい人

 睡眠時無呼吸症候群になりやすい人として代表的なのが、肥満の人、首が短い人、下あごが小さい人、高齢者です。
 これらの人たちは上気道がもともと狭い上に、睡眠中はノド周囲の筋肉が緩んでしまい上気道が完全にふさがってしまいます。このようにして、10~90秒もの間、呼吸が停止することになります。無呼吸状態が終わり、呼吸を再開する際に非常に大きないびきをかきます。

 一緒に寝ている人が驚くほどの大音量のいびきをかいているにもかかわらず、ほとんどの場合、当の本人はそのことにまったく気づいていません。無呼吸やいびきの自覚はないものの、深い眠りが非常に少ないために朝起きた時に、すっきり爽快とはいかないようです。

 睡眠時無呼吸症候群は30代くらいから増え始め、年齢が上がるにつれて症状は悪化するという特徴があります。これは30歳を過ぎたころから代謝が下がってくるため太りやすくなり、年齢とともにノドや首周辺の筋肉が衰えていくことが原因だと考えられます。特に40~60歳の肥満傾向の中高年男性に多く、女性にはほとんど発症しません。ただし、閉経して女性ホルモンが分泌されなくなる更年期を過ぎた後は、女性でも睡眠時無呼吸症候群の症状が出てくる場合もあるため、女性ホルモンの量が関係しているのではないかと考えられています。

 肥満の傾向がある人は、まずは自分のBMI値(肥満度を示す基準値)を計算してみましょう。これは体重を身長で2回割ることによって計算できます。

BMI=体重(Kg)÷身長(m)÷身長(m)

 たとえば、身長170センチで体重が65キロの人は、BMI = 65(kg) ÷ 1.7(m) ÷ 1.7(m) = 22.49 となります。
 なお、BMI値の標準値は22となっています。睡眠時無呼吸の症状が出る人は、BMI値が26を超えている方が多く、肥満傾向があります。 重症患者になればなるほど、BMI値も高くなる傾向にあります。

 肥満の人の場合は、ダイエットにより体重が減ると症状が改善することがあります。一般的に肥満の人のほうが睡眠時無呼吸症候群になりやすいと言われていますが、日本人の場合はもともとアゴが小さい人や舌が厚い人が多く、肥満でない人でも症状が出ることがあるようです。これは持って生まれた民族の体質ですから、若い人でも油断はできません。また、小さな子どもでも決して例外ではありません。お子さんの寝息に耳を傾けてみて、もしも睡眠中に呼吸停止が見られるようでしたら、一日も早く医師に相談してください。

 高齢者になると筋肉が衰え、のどや舌の周囲の筋肉も同様に衰えてきます。そうすると睡眠中に舌がのどの奥に落ち込むこととなり、筋肉のあった若い頃に比べるといびきをかきやすくなり、睡眠時無呼吸を発症するリスクも高まります。

◎ 睡眠時無呼吸症候群は命に関わる病気

 睡眠時無呼吸の患者は、数十秒の呼吸停止を多いときには一晩に数百回も繰り返しながら、自分でも気づかないながらも頻繁に覚醒し、ぐったりと疲労して朝を迎えます。いわゆる熟睡ができていない夜が慢性的に続きますから、心身ともに異常が出てきて当然です。睡眠中は酸素不足により血圧は上昇、心拍数は増えて心臓や血管に非常に大きな負担をかけることになります。

 健康な人は睡眠中は血圧が下がりますが、睡眠時無呼吸の患者の場合は、一晩中ずっと覚醒しているようなものですから、寝ている間も血圧が下がらずに血管や心臓に負担をかけ続けることになります。通常は降圧剤で血圧を下げることができますが、睡眠時無呼吸患者の場合は効果が出ないことが多いようです。
 こうして血管や心臓に負担をかけ続けると、そこから派生してさまざまな他の病気を誘発することになります。無呼吸によって体内の酸素量が慢性的に減るために、脳や心臓だけでなく呼吸器系や循環器系などの様々な器官や内臓に深刻な悪影響を与えることになります。

 また、睡眠中に分泌されるホルモンが正常に分泌されなくなり、血中の脂質が上昇したり免疫力が弱くなるため、心臓疾患、脳卒中、糖尿病などの病気を引き起こす原因にもなります。睡眠時無呼吸の患者は糖尿病や高血圧も併発しているケースが多く、血管や脳や心臓にかかわるあらゆる病気の発症率が健康な人よりも非常に高いこともわかっています。
 治療を受けずに放置する期間が長くなればなるほど、不整脈、狭心症、心筋梗塞(血管が詰まって血液が流れない状態)、脳梗塞、高血圧などの原因になります。ここまでくるともはや生命に関わる重大な事態ですし、最悪の場合は睡眠中の突然死というケースもあります。
 睡眠時無呼吸症候群の患者は、健康な人と比べると死亡率が高くなるという報告がアメリカでありました。中でも睡眠時無呼吸症候群単独の場合よりも、心臓や血管の病気と併発している場合は、平均死亡率が急激に高まります。

◎ 睡眠時無呼吸症候群の自己診断

 専門医に相談する前に、自分が睡眠時無呼吸症候群であるかどうかを自己診断することができます。以下の項目のうち、自分があてはまると思うものにチェックをしてください。

■長期間にわたっていびきをかいている。
■睡眠中に呼吸が止まっていると家族や他人に指摘された経験がある。
■毎日のように日中に強烈な眠気に襲われる。(※)
■居眠りによる交通事故の経験や未遂がある。
■会話中や会議中など、通常ありえない状況で眠ってしまったことがある。(※)
■集中力や注意力がなくなったように思う。
■日中にぼーっとしてしまう時間が増えた。
■物覚えが悪くなった。
■目覚めが非常に悪い。
■朝起きたときに、口の中がカラカラに乾いている。
■朝起きたときに、頭痛がすることがある。
■体重や体脂肪率が増えてきて肥満傾向である。(※)
■一日中だるさ・疲労感が抜けない。疲れやすく、体が重い。
■食欲が出ない。
■毎晩のように夜中にトイレに起きる。
■人と会うなどの対外的行為が億劫で、わずらわしく感じるようになった。
■性的欲求が弱くなった。

 これらの項目のうち、半分以上にあてはまる人は睡眠時無呼吸に陥っている危険性があります。また、※印がついたものすべてにあてはまる場合は、睡眠時無呼吸症候群を発症している可能性が非常に高いと考えられます。一日も早く専門医に相談されることをおすすめします。

◎ 睡眠時無呼吸症候群の検査

 睡眠時無呼吸の疑いがある場合は、専用の設備のあるクリニックで検査を受ければすぐに結果がわかります。この検査は脳波、心電図、血圧、呼吸停止の回数や長さ、血中酸素濃度など、たくさんの項目について寝ている間にありとあらゆるデータを収集します。通常この検査は一泊入院で行われます。検査用の電極やセンサーなどの器具を身につけたまま一晩普通に寝るだけで、翌朝にはすぐに退院できますから休暇を取る必要もありません。
 検査から一週間程度後に、結果が知らされることになります。

◎ 睡眠時無呼吸症候群の治療 CPAPの利用

 いびきが悪化して睡眠時無呼吸症候群が発症してしまった場合は、どうすればよいのでしょうか。睡眠時無呼吸症候群は程度によっては生命に関わるような深刻な病気ですが、現在は治療方法が複数用意されています。治療の方法は、手術によるものとよらないものの二種類に大きく分類できます。
 よほど深刻な症状でない限り、多くの場合は手術をせずに治療を行うことになります。ここでは手術をしないで治療する方法についてご紹介します。

■持続陽圧呼吸装置(CPAP)の利用
 手術をしない内科的な治療法として最も効果があるとされ、かつ最も一般的に利用されているのが、持続陽圧呼吸装置(CPAP、シーパップ)と呼ばれる装置を使った方法です。これは、専用ホース付きの酸素マスクのようなものを鼻に装着して、空気を送り出す機械から睡眠中に鼻から一定の空気を流し続け、その風圧を利用して強制的に上気道を広げるというものです。送り出しているのはごく普通の空気です。

 寝るときに大げさなマスクを装着するので最初は違和感がありますが、CPAPを利用するとその日から睡眠時無呼吸の症状は著しく改善し、ぐっすりと非常に深く熟睡できるようになります。当初は機械が出す騒音がひどくて眠れないという問題がありましたが、現在では大幅に技術が進歩し、もはや睡眠時無呼吸の代表的な治療法として確立しています。不眠専門のクリニックや病院の中では、睡眠時無呼吸と診断された場合には医師の指導のものCPAPを利用する可能性が十分にあります。また、CPAPの機器は非常に高価なものですが、レンタルして自宅でも利用することができます。現在すでに日本では5万人を超える人たちがCPAPを利用して睡眠時無呼吸を治療しています。

 毎晩マスクを装着して寝るのが面倒になって、CPAPの利用をやめてしまう人がいますが、それでは睡眠時無呼吸はすぐに再発してしまい、治すことができません。根気よくCPAPを使い続けることが、もっとも確実な睡眠時無呼吸の治療法なのです。

■マウスピースなどの利用
 持続陽圧呼吸装置(CPAP)の利用よりも、手軽な治療法にはマウスピースなどを利用する方法もあります。

1.マウスピースの利用
 軽度の睡眠時無呼吸の場合、マウスピースの利用がもっとも手軽な治療方法です。上気道の空気の流れを確保するために、スリープスプリントと呼ばれるアクリル樹脂製のマウスピースのようなものを寝るときに口の中に装着する方法です。マウスピースによって下あごが前に出て、下がのどに落ち込むのを防ぐことにより気道が確保できます。
 口呼吸の習慣がある人もマウスピースを着用すると、あごが固定されることにより自然と鼻呼吸ができるようになります。この方法は鼻づまりなど、もともと鼻の空気の流れがよくないことが原因で睡眠時無呼吸となった患者や、中程度以上の症状のある患者には向いていません。

 持続陽圧呼吸装置(CPAP)のような大げさな装置を使わずに症状の改善ができるので、患者にとっても心理的抵抗が少ない安価で簡単な方法です。ただし、マウスピースは個人の歯型にぴったりと合わせて作る必要があるので、適当な市販品を使うというわけにはいきません。医師とよく相談した上で、自分にぴったり合ったマウスピースが必要です。なお、歯の状態によってはマウスピースの利用が向かない場合もあります。

2.鼻孔を拡張するテープの利用
 いびき対策グッズとして一般的に利用されている鼻孔拡張テープも有効な方法です。こうしたテープは薬局やドラッグストアなどで購入することができますし、最も安全で簡単な方法だと言えるでしょう。特に鼻の通りが悪くて睡眠時無呼吸となっている人には非常に有効な手段です。

 私はBMIが21くらいですから肥満ではありませんが、3年前の健診時に睡眠中の血中酸素濃度を測ってみました。
 なんと一晩に20回くらい低下がありました。特に問題ないレベルだそうですけど、一度試してみたらいいかもしれません。特におなか回りの脂が豊富な人は。
 じゃんじゃん。

シリーズ 睡眠について その10 いびきと睡眠時無呼吸症候群2015年09月29日 10:25

外はけっこうすごい雨ですね。
一生懸命書いているのに、なんの反応もないのは少しがっかりします。
読んでいるようなことを言う人はいますが、感想などはないのでしょうか。
さて、

◎ いびきのしくみ

 いびきはどのようにして起こるのでしょうか。人が眠っているとき、鼻の粘膜の毛細血管が広がることで、空気の通り道である上気道(じょうきどう)と呼ばれるノド周辺の気道が狭くなります。さらに、睡眠中は筋肉が緩むために、舌がノドの奥のほうに落ちていきます。こうして、上気道が狭くなってしまい、そこを空気が通るとノドの粘膜が振動してしまい音を出します。これがいびきの正体です。

 いびきには良質のものと悪質がものがあります。睡眠中に呼吸が一時的に止まる状態がなければ良質なものなので特に心配する必要はありません。良質ないびきは原発性いびきと呼ばれ、音がうるさいという以外には特に問題はありません。睡眠中に呼吸停止が起こるようですと、悪質ないびきに分類され、なんらかの不調を体が訴えている警告だと言えるでしょう。

 いびきは睡眠中の呼吸が上手にできていない証拠とも言えますから、立派な睡眠障害の一つです。また、いびきをかく人は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)という睡眠障害の一歩手前ですから、たかがいびきと甘く考えてはいけません。

◎ いびきの原因

 狭くなってしまった上気道を無理に空気が通るために、ノドの粘膜などが振動してしまう現象がいびきの正体です。それでは、なぜ上気道が狭くなってしまうのでしょうか。代表的な理由には以下のようなものがあります。

 肥満傾向の人はいびきをかきやすい典型的なタイプです。特に首やノドの周辺や舌そのものに余分な脂肪がついて肥大化しているために、空気が通る気道をさらに狭くしてしまうためです。睡眠中に呼吸をしても空気が上気道をスムーズに流れることができず、大きな振動音(いびき)が出てしまいます。

 また、寝る姿勢も大きく影響します。うつぶせよりも、仰向けに寝た時のほうがいびきをかきやすいと言われています。重力によって舌がノドの奥に落ち込みやすくなり、上気道をふさぎやすくなるためです。
 高齢者は若い人たちと比べると、舌を支える筋肉やノド周辺の筋肉が弱くなってくるため、上気道が狭められていびきをかきやすくなります。
 他にも、鼻炎やアレルギーなどの鼻の病気をもっている人は、鼻の空気の通りが悪い状態で呼吸をするために鼻内部の粘膜部分が振動してしまい、いびきの原因になります。

 舌がのどに落ちて上気道をふさぐのを防ぐためにもっとも簡単で有効な方法は、横向きに寝ることです。しかし、何年も仰向きで寝ている人は急に横向きに寝てくださいと言われてもなかなかうまくいかないでしょう。そんな人は、枕の左右どちらか片方の下にタオルなどを入れて枕自体を斜めに傾けてしまうといいでしょう。完全に横向きにならなくても、体が少しでも斜めになれば上気道に空気が通りやすくなりますから、いびきは改善します。

◎ いびきをかきやすいのはこんな時

 普段いびきをかかない人でも、条件によってはいびきをかくことがあります。以下のような場合には、いびきをよりかきやすくなります。

■疲労がたまっている時
 疲れているときのほうが、よりいびきをかきやすくなります。疲れていると疲労回復のために、人体はより多くの酸素を必要とします。そのために、普段は鼻で息を吸っている人も無意識に、睡眠中により多くの酸素を取り入れようとして口で呼吸をします。
 疲労によって睡眠中の筋肉はゆるみ、上気道がふさがれて空気の通り道が狭くなっているところに、口から吸い込まれた大量の空気が一気に通ろうとしますから、抵抗が大きくなっていびきが発生しやすくなるのです。

■ストレスがたまっている時
 体が疲れているときと同様に、ストレスがたまって心が疲れているときもいびきをかきやすくなります。これは、ストレスが原因で周辺の粘膜が乾燥するなどの異常な変化が上気道に起こり、振動しやすくなるためです。

■お酒を飲んだ後
 お酒を飲んだ後もいびきをかきやすくなります。アルコールによって体が一種の疲労状態となり、通常の睡眠時に比べて筋肉のゆるみが大きくなるためです。疲れているときと同様に、気道が狭くなっているにもかかわらず、より大量の空気を必要として口で呼吸をしますので、抵抗が大きくなっていびきが発生しやすい状態になります。
 また、アルコールが原因で脳の呼吸中枢がうまく機能しないことや血管が拡張して血液の循環に変化が出ることも、いびきを引き起こす要因になると考えられています。

◎ いびきをかきやすいのはこんな人

 どんな人がいびきをかきやすい傾向にあるのでしょうか。いびきをかきやすい人は、いろいろなタイプに分類することができます。

■肥満体型の人
 標準より太っている人は、首やノドのまわりにも余分な脂肪をたくわえていることが少なくありません。この脂肪によって上気道を狭くしてしまい、知らず知らずのうちに空気を通りにくくしてしまっているのです。気道が狭くなっているにもかかわらず、睡眠中に多くの空気を吸い込もうとするために、大きないびきをかくことになります。肥満気味の人はまずダイエットをして体重を体脂肪を落とすことで、多くの場合いびきの程度が軽減されます。まずは生活改善と食生活の見直しからはじめましょう。

■鼻よりも口で呼吸をする人
 鼻で呼吸をするのではなく、主に口を使って呼吸している人もいびきをかきやすいタイプです。また、口を大きく開けて寝るクセのある人も同様にいびきをかきやすいと言われています。これは、口を開けているときのほうが上気道が狭くなりやすいという人体の構造が原因です。いびきが悪化して睡眠時無呼吸症候群という病気になっている患者の多くは、睡眠中に口呼吸をしているという統計もあります。朝起きた時に口の中がカラカラに乾いている人は、睡眠中に口で呼吸をしている可能性が高いでしょう。

■鼻炎の人
 アレルギー性鼻炎やいわゆる花粉症など、ノドや鼻にアレルギーがあったり病気をもっている場合は、いびきをかきやすくなります。鼻や気道の空気の通りが悪くなることが直接の原因で、鼻が詰まっているとつい口で呼吸をしてしまい、ノドが荒れて腫れてしまうためです。アレルギー性鼻炎や蓄膿症など、口・鼻・ノド周辺の各種の炎症がある場合は要注意です。

■鼻筋がまっすぐでない人
 上気道が狭いといびきをかきますが、息を吸う鼻の空気の通りが悪い場合も同様にいびきの原因となります。いわゆるだんご鼻の人は、鼻でいびきをかきやすくなります。他にも、体質的に鼻の通りが悪い人は、鼻づまりによっていびきが発生する可能性が高くなります。鼻づまりは耳鼻科の医師に相談するといいでしょう。

■タバコを吸う人
 継続的にタバコを吸っている人は、ノドや気道周辺が荒れていて慢性的な炎症が起きています。このことが上気道を狭くしてしまっているようです。実際に、喫煙者は非喫煙者に比べるといびきをかく人の割合が倍以上で、さらに深刻な睡眠時無呼吸症候群になってしまうリスクも飛躍的に高まることがわかっています。

■バンザイをして寝る人
 両腕を上げてバンザイの姿勢で寝る人は、いびきをかきやすくなります。バンザイの姿勢で寝ると気道を狭めてしまうからです。また、枕が高すぎる場合も、同様の理由でいびきの原因となります。

◎ いびきが引き起こす病気の数々

 いびきをかくのはよく寝ている証拠、とよく言われますが、実はそれはまったくの間違いです。いびきをかくということは、よく寝ているどころか、反対に熟睡できていない証拠です。日中も疲労感が抜けず、仕事や勉強への集中力がなくなったり気が短くなったりします。

 実は、いびきにはもっとおそろしい影響があります。いびきをかく人は、慢性的に体内に取り入れる酸素が不足している状態が続きます。ぐっすり熟睡してたっぷりと酸素を吸い込んだ健康な人と違って、血液中の酸素の濃度が低いために呼吸器系や循環器系に深刻な影響を与えることがあります。
 血中の酸素濃度が慢性的に低い状態が続くことで、糖尿病や高血圧といった生活習慣病を引き起こす原因になることがわかっています。さらに、不整脈、心不全、心筋梗塞などのより深刻な病気を引き起こして、寝ている間に突然死に至るという最悪の事態にもなりかねません。特に脳が酸素不足に陥ることは人体にとって非常事態です。脳卒中や脳梗塞といった致命的な病気を引き起こしてしまう可能性も十分に考えられます。
 いびきは、体が不調を知らせてくれる警告音だと思って深刻に受け止めたほうがいいでしょう。いびきをかいている限り、決して健康体であるはずがないのです。

◎ いびき防止のために

 一人暮らしであれば誰にも迷惑がかかるわけでないので、悪質ないびきでなければ、健康上の理由を除いていびきを気にする必要はないかもしれません。しかし、日常生活をしている中では、友人と同じ部屋で寝たり、出張で会社の同僚や上司と同じ部屋で寝なければいけない場面がいつ来るとも限りません。
 そんな時、いつも通り、いびきをガーガーかいてしまっては、場合によってはその後の人間関係にも影響があるかもしれません。

 根本的な改善には、専門家である医師に相談する必要がありますが、「今日だけ、いびきをかきたくない」という緊急事態に対応するためには、市販のいびき防止グッズを利用するのが一番です。
 最近はいびき防止グッズの種類も増えてきています。鼻をはさみこむようにして貼ることによって空気の通り道を広げてくれるシールや、鼻の中に直接ふきかけるスプレータイプの薬をはじめとして、指輪のように指にはめるためだけでOKというものもあります。普通のドラッグストアで、こうしたさまざまな種類のいびき防止グッズが販売されていますから、いびきに悩んでいる人はまずこのあたりから始めてみてはいかがでしょう。

◎ 子どものいびきは要注意!

 グーグーと大きないびきをかいている子どもを見て、「ぐっすりよく眠っている」と安心する親がいますが、それはまったく間違っています。健康体の子どもは朝までスヤスヤと眠り、決していびきをかきません。毎日のように子どもがいびきをかくようであれば、それは質の良い睡眠がとれていない証拠で、身体が何らかの不調や異常を訴えている警告音だと考えたほうがいいでしょう。

 まっさきに考えられるのが、鼻炎が原因になっている可能性です。普段から口で呼吸をしている、鼻がよくつまる、歯並びが良くない、食事の栄養バランスが偏っているなどの場合、子どもでもいびきをかく原因になります。大人に比べると子どもの上気道はもともと細くできていますから、大人よりもいびきをかきやすい構造になっています。
 いびきをかいているということは、体内に十分な酸素が行き渡っていない状態になっています。睡眠中には成長ホルモンが分泌され、子どもの場合はよく眠ることによって脳が発達し、同時に骨や筋肉が成長します。いびきによって血中の酸素が不足した状態が続くと、からだの発育や精神の発達に重大な影響が出てきます。また、血中の酸素濃度が低下すると日中もぼーっとしてしまい、集中力や記憶力が下がり、子どもの成績が下がることが考えられます。授業中やテスト中でも注意が散漫になり、情緒不安定になって教室で突発的な行動に出るなどして、学校で問題児の烙印を押されかねません。性格的にも内向的になり、友達と遊ぶよりも家に閉じこもるようになります。

 子どものいびきには非常に大きなリスクが潜んでいると考えてください。たかが子どものいびきと甘くみてはいけません。

 大人と同様に、いびきが悪化して睡眠時無呼吸症候群になった場合、突然死に至る可能性もあります。それくらい深刻なことであることを、まず親が認識することが大切です。日中に頻繁に居眠りをする子どもは、睡眠時無呼吸によって慢性的な寝不足になっている可能性があります。お子さんのいびきや無呼吸に気づいた場合は、いち早く対策をとる必要があります。まずは耳鼻科の医師に相談することからはじめるといいでしょう。

と言うことでした。じゃんじゃん。

シリーズ 睡眠について その9 昼寝・仮眠・居眠り2015年09月28日 10:40

◎ 昼寝は人間にとって当たり前の習慣

 昼食後に昼寝をする習慣がある人間は、全世界的に見ると約50%もいるといわれています。自然な眠りの欲求に逆らわない適度な昼寝は、疲労回復やストレス解消に大きく効果があります。シエスタ(スペイン語で昼寝の意味)の習慣があるスペインやイタリア、あるいは地中海諸国や中南米の地域の人たちは、毎日昼寝をしていないアメリカ人や日本人と比較すると、のんびりしていてストレスが非常に少ない心身ともに健全な生活を送っています。
 アフリカやアジアの一部など、熱帯・亜熱帯で生活する民族にとって、昼寝は当たり前の習慣となっています。これは一日のうちで一番暑い時間帯は、体力を消耗するのでおとなしく寝ていたほうが良い、という祖先からの知恵によるものだと考えられます。

※シエスタ 昼食後はいったん自宅に帰り、ワインを飲んで休息したり昼寝をするライフスタイルのこと。このため午後1時~4時前後は閉まっている店も多い。昼寝を終えると、4時から7時まで働くというスタイル。官公庁や学校なども例外ではなく、この習慣のもとに国全体が動いています。

 犬や猫はとてもよく眠ります。(猫は一日に15時間も眠ります)特に食事の後は横になって眠っていることが多いようです。人間も動物とまったく同じで、昼寝をするように遺伝子にプログラムされているのです。
 昼食後に眠くなる経験から、昼食の消化と午後の眠気が関係していると一般的に考えられています。しかし、朝食や夕食の後すぐに眠くなるということがないことからも、どうやら昼食とは関係がないのではないかと考えられるようになってきました。人間は従来から、昼食と関係なく午後2時~3時前後になると眠くなるようにできている、という研究者もいます。もしそれが本当だとすれば、疲れたから昼寝をする、というのは人間として生物学的にも正しい行動だと言うことができます。

 動物とまったく同じように、もともと人間も昼寝をするように体ができているのかもしれません。ただ、昼寝をすることが社会的に許されていないから無理をして起きているだけに過ぎないという見方もできるでしょう。
 バスやタクシーの運転手さんたちも、午後2時前後に強烈な眠気に襲われているという調査があります。人の命を預かっている職業の人は、上手な昼寝の方法について特に真剣に考えてほしいものです。

■昼寝好きだった歴史上の偉人たち

 大きな偉業を成し遂げた人物には、昼寝好きの人が少なくありません。3時間しか眠らなかったとして有名なナポレオンも、実際は人に見られないところで頻繁に昼寝をして元気を回復していたようです。エジソンも同様に短時間睡眠者でしたが、やはり頻繁に昼寝の時間をとっていたといいます。
 相対性理論を発表したアインシュタインも昼寝をうまく利用して、創造的思考を磨いていたと言われています。
 ケネディ、レーガン、クリントンといった歴代のアメリカ大統領も、よく昼寝をすることで有名です。

◎ 昼寝は20分がベスト

 午後の眠くなってくる時間に昼寝や仮眠を取ることは、頭をすっきりリフレッシュさせるのにも非常に有効で、集中力がアップします。では昼寝や仮眠はどのくらいの長さが良いでしょうか。5分や10分では、なかなかリフレッシュできません。いちおう仕事中ですから、1時間も2時間も寝るわけにはいきません。

 昼寝や仮眠の長さは、15~20分がベストです。30分以上眠ってしまうと、副交感神経系にスイッチが切り替わり、昼寝を通り越して熟睡になってしまいます。一度熟睡に入ってしまうとスッキリ起きることは難しくなり、無理に起こされると非常に不愉快な寝不足感を味わうとになります。

 熟睡を防ぐためのワザとして、昼寝の前にコーヒーや紅茶を飲むという方法があります。コーヒーや紅茶に含まれるカフェインの効果が出てくるのは、飲んでから約30分後です。ですから昼寝に入るまでにカフェインを取り入れておくと、起きなければいけない頃には効いてきて、スッキリと起きることができます。10分ほどコーヒーや紅茶を飲んでリラックスし、残り15~20分程度を仮眠にあてる、というのが理想的です。
 また、昼寝や仮眠は午後3時までに終わらせてください。3時を過ぎてから昼寝をすると、夜になってから眠気を感じなくなってしまうからです。
 昼寝を上手に活用すると、判断力を高めたり、作業効率がアップしたり、血圧が安定するなど多くの面で生活や仕事の質が高まります。午後に軽く昼寝をとれる環境にある人は、昼寝を毎日の習慣にしましょう。昼寝をしたりしなかったりすると体が混乱して、大切な夜の睡眠のリズムまで崩してしまうからです。週末に寝だめをするよりも、毎日少しでも継続的に昼寝の習慣をつけたほうが、健康にとってずっとプラスです。
 習慣的に昼寝をしている人は、そうでない人に比べてアルツハイマー病の発症率が著しく低いという調査結果もあります。

◎ 社員が昼寝をする会社は伸びる!

 人は、朝起きてから8時間ほどすると眠くなるものです。これは太陽がもっとも高く暑い時には、エネルギーの消費をおさえるために体を休めようとする人間の本能によるものだといわれています。多くの人が6時~7時くらいに起きると考えると、昼食後の2時か3時くらいに眠くなってくるのは自然の摂理なのです。これはひとつの生理現象なのですから、この時間すらもフルパワーで仕事をしろ、というのは本来無理があるわけです。

 何か仕事に集中していれば午後の眠気を感じませんが、単純作業をしていたり退屈な会議に出ていたりすると、午後2時~3時前後は非常に眠くなることは、経験した人が多いかと思います。そんなときに眠りに落ちるのを必死にがまんして、仕事をしているフリをするくらいなら、いっそ堂々と15分ほど居眠りをしたり仮眠をとったりして、すっきり目覚めてから仕事を再開したほうが何倍も効率的でしょう。

 上司や会社がこうした考えに賛成してくれる幸せな環境にいる人は、是非昼寝・居眠り・仮眠を毎日の習慣にしましょう。カウチのように横になれるものがあればベストですが、自分のデスクにおでこを乗せて目を閉じるだけでも十分効果的です。そうした仮眠グッズも売っていますから、自分にあったものを見つけるといいでしょう。

 仮眠や昼寝をすることが許されない職場環境の人はどうすればよいでしょうか。空いている会議室があればベストですが、最悪の場合はトイレでも、15分ほど静かに座って目を閉じるだけでも疲労回復に大きな効果があります。周りから見ればサボっているように見えますが、この短時間の仮眠や居眠りで業務効率がアップするのであれば、決して悪いことではないはずです。

 眠いのに無理して起きて仕事をするよりも、ちょっとの間だけ居眠りや仮眠をして、心身ともにリフレッシュしたほうが、判断ミスや事故が少なくなることは明らかです。会社が制度として昼寝や仮眠を推奨するような仕組みができれば、会社全体の大きな効率性アップにつながることになるでしょう。それが積み重なれば日本全体の活力アップにもつながると言ってもいいかもしれません。
 そのためには、昼寝を悪徳とする古くからの社会の考え方を少しずつ変えていくしかないでしょう。会社が変われば社会が変わりますし、社会が変われば会社は変わるはずです。

 私も昼寝をするようにしています。事務所にはそのスペースもあります。
 ここにあるように、コーヒーを飲んでから15分程度(12:45~13:00)寝ていますので、この時間の訪問や電話はご遠慮ください。
 なんちゃって、じゃんじゃん。

シリーズ 睡眠について その8 短時間睡眠と長時間睡眠2015年09月25日 10:35

◎ 短時間睡眠者とは(6時間未満)

 一日に必要とする睡眠時間は、4時間の人もいれば9時間の人もいます。寝つきが良くて目覚めはいつもスッキリ爽快、睡眠時間は6時間未満で十分という人を短時間睡眠者と呼び、逆に9時間以上の睡眠を必要とする人を長時間睡眠者と呼びます。一般的に、短時間睡眠者には比較的女性が多く、長時間睡眠者は男性が多いといわれています。
 短時間睡眠者として歴史的に有名な人物と言えば、やはりナポレオン皇帝でしょう。ナポレオンの平均睡眠時間は一日3時間程度との記録があり、非常に密度の高い人生を送ったことが知られています。他に発明王のエジソンも短時間睡眠者として広く知られています。また、マイクロソフトを創業したビル・ゲイツは学生時代、数日間ほとんど寝ずにプログラミングに夢中になり、現在世界中で使われているウィンドウズを作り上げました。
 現代においてもこうした短時間睡眠者は存在し、全人口の5~10%を占めると言われています。中には3時間どころか毎日1時間程度の睡眠で大丈夫という驚異的な例も報告されており、このような極端な短時間睡眠者は、無眠者と呼ばれています。

 短時間睡眠者は寝つきが非常に早く、深いノンレム睡眠の絶対量は長くありません。しかし、夜中に目が覚めてしまう中途覚醒がほとんどなく全睡眠時間に占める深いノンレム睡眠の割合が非常に高く、無駄のない効率的な眠り方をしています。短時間睡眠者は目覚まし時計などがなくても自然に目覚めることができて、日中に眠気に襲われることがないのが特徴です。
 あくまで短い睡眠時間で十分というタイプで、無理をして睡眠時間を切り詰めた生活をしているわけではないので、日中の判断力や活動レベルが下がるわけでもありませんし、週末の朝寝坊や寝だめもまったく不要です。
 また、彼らはいつもより1時間早く就寝したら、いつもより1時間早く起きる、といったように自分の睡眠時間が一定しているという特徴もあります。なお、平日は短時間睡眠だが週末はまとめてたくさん寝ているという人は、単に「睡眠時間を削ってがんばっている人」に過ぎず、短時間睡眠者とは呼びません。

 性格的には、明るく有能でパワーがみなぎり、周囲とうまくやっていける快活な人が多いようです。睡眠時間は短く深く眠り、起きている時間はメリハリをつけてテキパキとフル稼働しているような、エネルギーに満ち溢れた活動的なキャラクターです。仕事に趣味にやりたいことが山ほどあるという人が短時間睡眠者だと、非常に密度の高い充実した人生が送れることでしょう。ただし、考えようによっては全体的にがさつでデリカシーのない印象もあるため、極端になると周囲からの評判が悪くなりますので注意しましょう。
 なぜ短時間睡眠になるかというと、個人的努力や仕事の都合などが原因ということもありますが、育った環境や遺伝の影響も大きいと考えられます。若い頃から短時間睡眠の人は、一生ずっと短時間睡眠を続けることになります。

◎ 長時間睡眠者とは(9時間以上)

 ナポレオンのように一日3時間の睡眠で十分という短時間睡眠者とは反対に、一日9時間以上の睡眠を必要とする人のことを長時間睡眠者といいます。相対性理論で有名なアインシュタインは一日に10時間以上眠ったといわれています。
 睡眠時間が長いからといって、熟睡している時間も長いかというと、そうではありません。いわゆる熟睡と呼ばれる深いノンレム睡眠の量は、短時間睡眠者とほとんど同じだと言われています。短時間睡眠者と違って、睡眠に占めるレム睡眠や浅いノンレム睡眠の割合が高く、夜中に目が覚める中途覚醒が何度もあるなど、簡単に言うと非常に効率の悪い睡眠の取りかたをしています。

 明るく快活で積極的な短時間睡眠者と比べると、長時間睡眠の人たちは心配性で内気な性格な人が多いようです。また、女性に比較的多いと言われています。

 すっきり気持ちよく目覚めるということがほとんどなく、日中も慢性的な睡眠不足感を感じている人が多いようです。これは病気ではなく、単にたっぷり寝ないと元気が出てこないタイプの人なのです。時間さえ許せば10時間以上眠ることができるわけですが、学校や会社がありますから、平日はなかなかそれだけの睡眠時間を確保することができません。ですから平日は睡眠不足ながらもなんとか頑張って乗り越えて、週末になると多いときは15時間近くも眠ってつじつまを合わせるという辛い生活を送っている人もいます。

 なぜ長時間睡眠になるのか、その医学的根拠は不明です。思春期の頃に長時間睡眠の傾向があると、それが一生続くケースが多いようです。遺伝によって短時間睡眠になることはあるようですが、遺伝によって長時間睡眠になることは確認されていません。
 一日に10時間もの睡眠を必要とする極端な長時間睡眠者は、睡眠時無呼吸などの睡眠障害を併発している可能性があります。長い時間寝ているように見えても、呼吸停止が原因で睡眠中に何度も目が覚めているのかもしれません。睡眠時無呼吸による中途覚醒は本人は自覚することがないので、本人は長い時間睡眠をとっている気でいても、実際はそれほど質の高い熟睡ができていないことがあります。睡眠中に呼吸が止まっていることに家族が気づいたら、すぐに医師に相談してください。

◎ 短時間睡眠者と長時間睡眠者の違い

 短時間睡眠者と長時間睡眠者の違いはどこからくるのでしょうか。両者を分ける要素として以下の3点を挙げることができます。

1.体質

 人は生まれながらにして、自分にベストな睡眠時間がある程度決まっているようです。

2.環境

 生活環境、通勤時間、職種、社会的立場、家族構成、両親が短眠者か長眠者か、などのさまざまな要因によって影響を受ける部分もあります。

3.性格

 外交的、活動的、積極的なタイプは短時間睡眠の傾向があり、内向的、もの静か、不安症、神経質といったタイプは長時間睡眠になる人が多く、創造性を発揮する芸術家や研究者に多いようです。

 長時間睡眠者はレム睡眠の割合が多く、夜中に目が覚めてしまうこと(中途覚醒)も少なくありません。本来は深い眠りであるはずのノンレム睡眠も、短時間睡眠者に比べると浅い睡眠になりがちです。睡眠時間全体は長くても、眠りの質という面では、短時間睡眠者にかないません。
 実は短時間睡眠者と長時間睡眠者が、実際に熟睡している時間の長さはほとんど同じだと言われています。深く短いか、浅く長いかの違いでしかないのです。

だそうです。じゃんじゃん。

シリーズ 睡眠について その7 不眠症の22015年09月24日 10:00

◎ 不眠症で死んだ人はいない

 人間にとって睡眠は非常に大切なものです。不眠症の人は、大切な睡眠を十分にとれない日々が続いている状態を非常に心配します。そして中でも極端な人は「もしかすると、このまま眠れない日が続けば、自分は死んでしまうのではないか」などと考えるようになります。

 安心してください。いまだかつて、不眠が原因で死んだ人は一人もいません。不眠がいくら続いたとしても(多くの場合、実際には本人が気づいていないだけで眠っています)連日24時間体勢で肉体的拷問を受けるなどの極めて異常な状況でない限り、人間は死ぬ前にまず眠ってしまいます。本能的に人間は自分の命を守ることを優先しますから、死という最悪の事態を避けるためにも身体を強制的に眠らせてしまうのです。

 死んでしまうかもしれない、といった過度の恐怖心がさらなるストレスとなり、ますます眠れない状態に自分自身を追い込んでしまいます。「いくら眠れなくたって、死ぬことはないんだから、気楽に考えよう」と開き直ってしまうことが案外効果があります。悩まなくなった瞬間に安心して、眠りに落ちるという不眠症患者は少なくありません。

◎ 不眠症になる人、ならない人

 不眠症になる原因の代表的なものに人間関係のストレスがあります。職場の上司とうまくいかない、夫婦の関係がぎくしゃくしている、子どもと会話が成り立たない、などの悩みをお持ちの方は決して少なくないはずです。こうした人間関係の問題は、非常にありふれているとも言えますが、こうした原因によって不眠症になってしまう人がいる一方で、まったく気にせずよく眠れる人がいます。

 つまり、同じような状況にいても、不眠症になってしまう人とならない人がいるということです。なぜこのような違いが出てくるかということについて明確な答えが用意されているわけではありませんが、性格的な違いが原因だと考えられます。負けず嫌いで自己主張が強く、そのくせいつまでも感情を引きずってしまうタイプの人は、人間関係が原因で不眠症になりやすい傾向があります。逆に、サバサバした性格で、人間関係で不愉快なことがあっても、ベッドに入ればそんなことはすっかり忘れてしまい、一晩寝たらまったく気にしていないというあっさりした方は、不眠症になることはありません。

 性格は変えられないと思い込んではいけません。人間はいつからだって、自分自身を変えることはできます。人間ですから悩みがあるのは当たり前です。しかし、その悩みに睡眠を邪魔されてしまっては、自分が損をするだけでいいことは一つもありません。寝るときは不愉快なことをきれいさっぱりと忘れる、という練習を少しずつやってみてください。こうした頭の切り替えがだんだん上手になってくれば、ストレスが原因で眠れなくなることもなくなり、朝までぐっすり眠れるようになるでしょう。

◎ うつ病の不眠症は、本当に眠れない

 不眠症を訴える人の多くは、自分ではよく眠れていないと思っていても、多くの場合に実際はよく眠っているわけですが、これは神経症性の不眠症患者に限った話です。
 うつ病性の不眠患者の場合は、本人が眠れないと主張するのに加えて、家族や医師が実際に観察してみると本当に眠れていないのです。短期的に寝ている間も脳は睡眠状態になれず、2~3時間眠るともう目が覚めてしまい、眠れなくなってしまいます。眠気がないから眠れない、というのではなく、眠いのに眠れないという最悪の状態になります。
 うつ病性の不眠症の場合、食欲減退、体重減少といった症状が出ます。うつの人は日中変動といって、一日の中でも時間帯によって非常に激しく気分が移り変わります。午前中はずっと低調でどんよりした雰囲気だったのに、夕方くらいから急に人が変わったように明るく活発になる、といった具合です。このように不安定な精神のため、自分の不眠症を深刻に悩み苦しんで、最悪の場合自殺を図ることもあります。
 神経症性の不眠症とうつ病性の不眠症を見分けるポイントの一つは、夜中に起きてしまったときの行動です。神経症性の人は、夜中に起きてしまって眠れなくなってしまったことに対して焦り、ひどい場合には普通に寝ているのんきな家族に対して怒りを覚えることがあります。
 一方で、うつ病性の場合は、自分が夜中に起きてしまったら、普通に寝ている家族を起こさないように、そっと寝室を離れてひとり静かに夜空を見上げるようなタイプの人です。

 神経症の不眠症は、患者本人の睡眠中の映像を見せて実際には眠れていることを理解してもらったり、必要な睡眠時間にこだわらないように考え方を変えてもらうなど、精神的な治療でほとんどが治ってしまいます。
 うつ病性の場合は、中枢神経機能がバランスを崩していることが原因なので、薬による治療が必要になります。いわゆる睡眠薬や精神安定剤を投与して睡眠をうながす方法もありますが、うつ病の薬も併用します。不眠症そのものは病気ではなく、うつが引き起こす症状の一つに過ぎません。根本の原因であるうつ病を治療すれば、不眠症も自然に治ることになります。
 うつ病性の患者に対しては、厳しい態度で接することは厳禁です。また決して「がんばって」などと励ましてはいけません。周囲は良かれと思ってやったとしても、本人にとっては、「自分は十分にがんばっているのに、これ以上どうやってがんばるんだ」と逆に精神的負担を与えてしまい、最悪の場合は追い詰められて自殺を図るケースがあるからです。

◎ こんな人は不眠症予備軍

 眠りに入るのに時間がかかるといった不眠の症状がない人の中にも、不眠症予備軍とも言える人たちがいます。「いつでもどこでも、好きな時に眠れること」を自分の特技として自慢する人がいますが、実はこのような人は不眠症予備軍の代表です。環境が変わっても、時間が昼間であってもすぐに眠りに入れる人というのは、実は単なる睡眠不足が原因なのです。寝つきが良ければ良いほど、睡眠不足の程度が深刻であると言うことができます。

 適切な睡眠を確保している健康な人は、昼間に寝てくださいと言われても寝られるものではありません。覚醒と睡眠の正常なサイクルで一日を過ごしている人は、日中は脳が活発に覚醒していますから、いくら部屋を暗くされて横になったとしても、眠れるはずがないのです。
 ところが睡眠不足が続いている人や不眠に悩む人は、寝てもいいですよと言われると、イスに座ったままでもあっという間に眠ってしまいます。これは決して自分で睡眠をコントロールしているからできる特技などではなく、重度の睡眠不足のために、体が必然的に眠りを必要としている証拠なのです。
 こうした人たちは正常な睡眠サイクルがすっかり乱れてしまっていますから、すぐにでも不眠の症状が出てきても不思議ではありません。自分では認識することはなくても、不眠症予備軍の筆頭に位置づけることができます。どこでも寝られる「特技」を自慢してる場合ではないのです。
 予備軍から本格的な不眠症に「格上げ」になることを避けるには、睡眠時間を増やすとともに、規則正しい生活パターンを取り戻して理想的な睡眠サイクルを手に入れることが何よりも大切です。
 健康的な眠りを十分にとれている人は、夜ベッドや布団に入ってから眠りに落ちるまでに10分~15分かかるのが正常です。自分はおそらく5分とたたないうちに眠ってしまっていると思う人は、睡眠不足が蓄積していると考えていいでしょう。

◎ 不眠の相談は、どんな病院へ行くべきか

 自分は不眠症ではないか、と思ったときには、ひとりで悩んでいても仕方がありません。思い切って専門家に相談してプロの意見を聞けば、精神的な整理ができて安心できます。
 それでは、具体的にどのような医師に相談すればいいのでしょうか。大きな規模の病院で、睡眠障害専門の医師がいるところがあるのがベストです。そのような医師が見当たらない場合は、精神科、精神神経科、心療内科でも対応してくれます。これらの診療科が近くにない場合は、まずはなじみのある内科の医師に相談してみましょう。もしそこで解決しない場合は、専門医のいる病院を紹介してもらってください。

 病院に行くときには、まずは自分の不眠の状況を医師にうまく説明できるように、よく整理しておきましょう。
「眠れない状況はどのくらいの期間続いているか」
「自分の不眠のタイプは入眠障害、熟睡障害、途中覚醒、早朝覚醒のうちどれだと思うか」
「職場でのストレスや家庭環境の変化など、原因となりそうな思い当たる事情はあるか」
 もし言いにくいことがあっても、自分の現状についてできるだけ正直に話してください。なるべく多くの情報を患者から提供したほうが、医師のほうも適切な判断がしやすくなります。

◎ 不眠症の自己診断 - アテネ不眠尺度

 自分の不眠の度合いをはかる目安として、世界共通で使われているチェックシートがあります。

アテネ不眠尺度(AIS)
(Soldatos et al.: Journal of Psychosomatic Research 48:555-560, 2000)
 アテネ不眠尺度とは、世界保健機関(WHO)が中心になって設立した「睡眠と健康に関する世界プロジェクト」が作成した世界共通の不眠症判定法です。8つの質問に対する回答を最大24点で数値化し、客観的に不眠度を測定できます。

下記のAからHまでの、8つの質問に答えてください。
過去1カ月間に、少なくとも週3回以上経験したものに当てはまるものにチェックしてください。
選択肢の先頭についている点数の合計で結果が診断されます。

A 寝つきは(布団に入ってから眠るまで要する時間)

0 いつも寝つきはよい
1 いつもより少し時間がかかった 
2 いつもよりかなり時間がかかった
3 いつもより非常に時間がかかったか、全く眠れなかった

B 夜間、睡眠途中に目が覚めることは?

0 問題になるほどではなかった
1 少し困ることがあった 
2 かなり困っている 
3 深刻な状態か、全く眠れなかった

C 希望する起床時間より早く目覚め、それ以上眠れなかったか?

0 そのようなことはなかった 
1 少し早かった 
2 かなり早かった 
3 非常に早かったか、全く眠れなかった

D 総睡眠時間は?

0 十分である
1 少し足りない 
2 かなり足りない
3 全く足りないか、全く眠れなかった

E 全体的な睡眠の質は?

0 満足している 
1 少し不満
2 かなり不満 
3 非常に不満か、全く眠れなかった

F 日中の気分は?

0 いつも通り
1 少しめいった 
2 かなりめいった 
3 非常にめいった

G 日中の活動について(身体的及び精神的)

0 いつも通り 
1 少し低下 
2 かなり低下 
3 非常に低下

H 日中の眠気について

0 全くない
1 少しある 
2 かなりある 
3 激しい

・合計得点が4点未満の場合:睡眠障害の心配はありません。
・合計得点が4~5点の場合:不眠症の疑いが少しあります。
⇒できれば医師に相談してください
・合計得点が6点以上の場合:不眠症の疑いがあります。  
⇒医師に相談することをお勧めします。

以上、不眠症についてでした。
どうでしたか?
睡眠導入剤等のお薬は、進歩していますので、依存等はあまり心配しないでいいようです。
もし、睡眠について不安が大きければ、医師に相談してみてください。
それにしても、「どこでも眠れる」は重度の睡眠不足とは、知りませんでした。
じゃんじゃん。